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■47.宮古島奪還作戦――“純愛”発動。(前)

 波濤を砕き、海原を鈍色にびいろの大艦隊が往く。

 満載排水量19000トンを誇るひゅうが型護衛艦『いせ』を中核に、イージス・システムを搭載したあたご型護衛艦『あしがら』とこんごう型護衛艦『きりしま』を擁する海上自衛隊第2護衛隊群は、沖縄本島周辺海域に進出。そのまま宮古島を目指す構えを見せた。

 勿論、この第2護衛隊群は輸送艦も伴っている。おおすみ型輸送艦『おおすみ』と『しもきた』がそうである。さらに平時は哨戒ヘリを搭載する護衛艦『いせ』の艦上では、陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプターが羽を休めている。

 加えて後方の沖縄本島には、CH-47JAが集結していた。CH-47Jの航続距離は約450kmであり、300km前後離れている沖縄本島・宮古島間を往復することは厳しい。が、その改良型にあたるCH-47JAは1047kmの航続距離を誇っているから、沖縄本島から宮古島まで無補給で往復することが可能であった。


「最初からあとのない戦いだが、背水の陣という言葉もある。まずは宮古島を奪い返し、反攻の足がかりとする」


 陸海空自衛隊南西諸島防衛統合任務部隊・JTF-梯梧でいご司令官の原俊輔空将は、周囲にそう訓示したが、正直に言えば上陸戦にはうとい。

 先に触れたとおり、彼の出身は高射畑だし、常日頃から島嶼における戦闘を念頭においた統合任務部隊の司令官を務めているわけではない。彼の直属の部下、航空自衛隊航空総隊幕僚長の佐木山幸一空将補も同様だ。

 宮古島奪還作戦オペレーション・“純愛”。

 宮古島を舞台とする人気ドラマのタイトルに由来するこの作戦は、海上自衛隊・陸上自衛隊の幕僚が中心となって立案されたものだ。そもそも宮古島一島のみを最初の攻略対象としたのは、官邸サイドの意向が大きかった。


(指揮官たるもの、“責任は俺がとるから好き勝手やってくれ”と言いたいところだがなあ)


 原俊輔空将はそういう豪傑タイプの人間ではないし、自分自身でもそれは分かっている。ただ彼が根回しと調整に苦手意識を持たない性格であったことが、日本にとっての幸運であっただろう。とにかく彼としては、作戦準備に携わった人々の努力を信頼するほかなかった。


 作戦は夜間の静寂しじまとともに発動された。

 最初の一手は、派手な艦砲射撃や航空攻撃にあらず。輸送艦『おおすみ』から発進したゾディアックボートに乗った陸上自衛隊水陸機動団の隊員たちによる隠密上陸であった。

 夜の海を、漆黒のラバー製ボートが疾駆する。搭乗者は1艘につき8名だ。中央には武器弾薬が積まれ、隊員たちはと言えば外縁部にまたがる、というよりも抱き着くような格好である。訓練を重ねた隊員といえども、生きた心地はしない。バランスを崩せばそこはもう冷たい海面。原始的な恐怖に彼らは囚われる。

 ゾディアックボートが一路目指したのは、宮古島東海岸であった。重要な港湾や空港、島民が収容されていると思しき市街地は宮古島西海岸に集中しているため、東海岸側の中国側の警備は手薄になっている。


「……」


 無事、誰ひとり欠けることなく砂浜に足を着けることが出来た隊員たちであったが、これは始まりに過ぎないことを誰もがわかっていた。彼らの任務は情報収集や火力誘導等、多岐に渡る。敵がその存在に気づけば、当然追い回される身。厳しい戦いになることは、覚悟の上であった。

 みな鉄帽に装着した単眼式暗視装置の動作を確認すると、敵のパトロール隊を警戒し、すぐさま国道・県道から離れて行動を開始する。

 後続の本隊――AAV7や10式戦車を載せたLCACは、朝日と共にやって来る予定であった。


「自衛隊のレンジャーと交戦!?」


 水陸機動団の偵察隊員上陸から2時間後、宮古空港の北西にある小学校に設置された中国人民解放軍の前線司令部では、起き出してきた幹部らが会議室に集まっていた。


「15分前、宮古島東部走る国道390号をパトロール中であった分隊が不審な人影を目撃。4輪駆動車『猛士』の無線機で通報するとほぼ同時に攻撃を受けました。銃撃戦の末にパトロール隊の『猛士』2輌は撃破され、現時点で4名の死亡が確認されています」


 強襲上陸作戦が近いか、と誰かが呻くように言った。

 その一方でこのに及んでも楽観的な意見を口にする者もいる。


「いや、単に宮古警備隊の敗残兵ではないか?」

「事前の情報収集や艦砲射撃や航空攻撃の観測のために送り込まれたレンジャー、そう見るのが自然だろう」

「第81統合任務戦線司令部からは空軍戦闘機部隊、海軍航空隊の作戦は好調であり、一時的な航空優勢が失われることがあっても、海上優勢の欠如はありえないと連絡がきたばかりだぞ。流石に昨日の今日で敵が上がってくるかね」


 彼らの議論を50代の部隊長は聞き流していた。

 この数日で一気に老けこんだように見えるこの占領部隊の隊長は、はなから上級司令部がもたらす戦況報告を信じていない。本当に空軍、海軍が優勢で事を運んでいるならば、宮古空港が爆撃されたり、平良港に入港しようとしていた輸送船がミサイル攻撃を受けたりすることはあり得ないからだ。

 十中八九、敵は強襲上陸を近い内に仕掛けてくるだろう、と彼は睨んだ。

 ところがしかし、何が出来るわけでもない。攻略戦の時点で想像以上の損害を受けた上、地対艦・地対空ミサイルシステムをはじめとする防衛強化のための重装備は、自衛隊の妨害によってほとんど揚陸出来なかった。部隊の充足率も回復していない。そのため重要な港湾や空港の集中する西部の防衛だけで精一杯であり、宮古島東部の海岸線に防御陣地を築くには何もかもが不足していた。


(幸い、宮古島はさんご礁のおかげで、重装備が上陸可能な場所は限られている。東海岸には最低限の監視部隊を配置しておいて、もしも敵が東海岸に上がってきたならば、まだ稼動する99A式戦車や歩兵戦闘車を掻き集めた機械化部隊をぶちあてるしかない)


 などと考えていると、司令部を地響きが襲った。


「何――」

「敵の航空攻撃だろう」


 隊長は無感情に言った。


「思ったよりも早い」


 彼のげんは的中している。

 宮古島上空に1機のF-35A戦闘機が侵入し、駐車している敵車輛や擬装の甘い陣地を見つけ出し、GPS座標を次々と生成していく。それをデータリンクによって受信したF-35Aは、宮古島東方沖からJDAMを投弾した。

 航空攻撃の開始とともに、水陸両用作戦もまた始まっている。

 おおすみ型輸送艦から陸上自衛隊水陸機動団戦闘上陸大隊所属のAAV7水陸両用装甲車が洋上へ繰り出し、隊列を組んで宮古島東海岸目掛けて突撃を開始した。ウォータージェットで波を砕き、水面みなもを割って進むが、最大速度は時速13kmに過ぎない。『おおすみ』と『しもきた』の乗組員からすると、もどかしくて仕方がなかった。

 このとき戦闘上陸大隊の援護のため、宮古島東海岸には第4護衛隊群の護衛艦『しまかぜ』と護衛艦『いなづま』が接近していた。

『しまかぜ』は127mm速射砲を2門、『いなづま』は76mm速射砲を1門有しているが、彼女らに期待されたのは艦砲射撃よりも敵ヘリコプターの排除であった。万が一、敵が攻撃ヘリを配備しており、これを出撃させた場合、洋上で無防備を晒す戦闘上陸大隊は手酷くやられてしまう。最悪の場合は、おおすみ型輸送艦が奇襲を受ける恐れもあるだろう。


「来やがったッ」


 これに対峙する守備側は、動揺しつつも反撃態勢を整えた。

 先に触れた機械化部隊は、陸上自衛隊の攻略部隊が内陸へ進出してから投入することにしたが(激しい航空攻撃が予想されるため、海岸線まで走らせることに抵抗があったのだ)、空降兵らから成る歩兵部隊は迫撃砲や対戦車ミサイルにより、水際で上陸部隊を苦しめる腹積もりであった。

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