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■45.宮古の空を疾(と)く翔けろ!

 さて、必勝の念とともに沿岸部の航空基地を飛び立ったSu-30MK2戦闘攻撃機12機とその護衛機であるが、彼らは出撃した時点で航空自衛隊の早期警戒管制機によって捕捉されており、早々にその企図は自衛隊側に見抜かれていた。宮古島周辺海域の掃海をやると決めた時点で、第4護衛隊群と掃海艦艇が敵航空部隊に脅かされることは覚悟の上である。


(決戦だな――)


 F-15J-MSIP機を駆る真津内まづうち三等空佐は、沖縄本島と大陸の間に横たわる蒼海を眼下に、亜音速で空を翔けていた。任務は飛来する敵戦闘攻撃機の排除、宮古島周辺海域へ向かう水上部隊の艦隊防空。ついに南西諸島奪還の鍵を握る護衛艦が戻ってきたとなると、戦況は有利に傾きつつあるのだろう――と彼は思った。連日の過酷な航空戦に身をおいている彼には、大局を気にかける余裕はない。たとえ日本側が優勢であったとしても、自身が今日、明日の決闘に敗れる可能性は十分あるのだから。


(殲撃20型による奇襲はあるか?)


 緊急発進した他のF-15J戦闘機とともに東シナ海上空へ進出した真津内が、まず注意を払うのは殲撃20型だ。周辺空域の大部分は早期警戒管制機や護衛艦『ちょうかい』の監視下にあるため、第4世代戦闘機から奇襲を受けることはないが、高いステルス性能を有する殲撃20型は例外だ。経験上、まず第一撃は譲る形になってしまう。

 攻撃機を餌として敵戦闘機を釣り上げ、ステルス戦闘機で叩くという戦術は、いま日中双方で普遍化しており、現状ではF-15Jら第4世代戦闘機に有効な対抗策はなかった。

 ところがこの日、真津内まづうちらの懸念は杞憂に終わった。空軍機である殲撃20型は出てこなかった。対艦攻撃は海軍機主体でやることにしたのかもしれない。


「エイカス、こちらキャッスル。アンノウン8機がそちらへ向かう」


 さりとて真津内らイーグルドライバーの仕事が楽になるということはない。

 Su-30MK2戦闘攻撃機から成る攻撃隊に先んじて、殲撃16型の護衛隊が先行する。当然ながら、攻撃機にとっての障害を排除するためである。中距離空対空誘導弾の撃ち合いから始まり、一部では短距離空対空誘導弾の間合いにもつれこむ激しい混戦状態が生起した。

 その激しい攻防戦を陽動として、別方面から2機のF-35A戦闘機が戦域に忍び寄る。

 中国人民解放軍海軍機はおろか、航空自衛隊のイーグルドライバーらも気づかない。勿論、後者は大空のどこかにF-35Aが存在していることを知ってはいたが、確かめるすべはなかった。秘匿性を最重要視するF-35Aのパイロットは、レーダーから無線通信に至るまで使用を最小限に抑えている。


「FOX1――」


 F-35Aの腹部にある兵器庫が開放され、内蔵されていたAIM-120がその身を露わにした。次の瞬間、この高命中率を誇る凶弾は空中へ投げ出され、虚空で点火したかと思うと超音速まで加速し、敵攻撃隊へ向かった。

 F-35Aの兵器庫は4発の空対空誘導弾を格納可能であるから、都合8発による攻撃だ。


「回避機動ッ」


 Su-30MK2のパイロットらは、慌てて回避機動へ移行した。予想外の方向からの攻撃は、想像以上に心理的な負担が大きい。そして相手は必殺を誇るAIM-120――咄嗟の事態に対応しきれず、5機が被撃破。さらに回避機動の中で操作を誤った1機が、海面に墜落した。

 さらに真津内まづうちらよりも遅れての緊急発進で駆けつけたF-15Jらが、殲撃16型による防御スクリーンを潜り抜けて攻撃機を叩いた。Su-30MK2自体も無防備ではなく、中距離空対空誘導弾を備えていたが、対艦装備があだとなって機体が鈍重になっている。最低限の反撃とともに逃げ惑うのが精一杯であった。

 結果、この日の中国人民解放軍海軍の航空攻撃は失敗に終わった。ただ単に失敗に終わっただけではない。Su-30MK2戦闘攻撃機8機を喪失、加えて殲撃16型も4機が撃墜された。大規模な海軍航空隊を有すると言っても、到底無視できる損害ではない。

 しかしながら、これで第4護衛隊群に対する脅威が去ったというわけではなかった。


「では我々単独での殴りこみになるか」

「攻撃機とタイミングを合わせる必要はなくなったのでそこは気が楽だが……」


 海軍航空隊に呼応して022型ミサイル艇4隻が、宮古島西方の伊良部島長山港を進発していたのである。青、水、灰、白――4色から成る迷彩を纏った排水量約200トンの小兵こひょう。背負っているのは4連装の艦対艦ミサイルランチャー2基、その他の武装は30mmCIWSしかない。接近してきた敵水上艦に対して40ノットという高速で展開し、対艦ミサイルを撃ちこむことだけを考えて開発・製造された兵器である。斉射すれば32発の艦対艦ミサイルが敵艦隊を襲うことになるから、1、2隻は確実に葬ることが出来るであろう。


「敵艦隊の座標はまだこない?」

「……いや、きてませんね」


 しかし022型ミサイル艇にも欠点がある。というよりも他の海軍艦艇、海自護衛艦にも共通する悩みなのだが、単独では遠距離の敵艦艇を捕捉できず、射程100kmを超える艦対艦誘導弾の能力を活かしきれないことだ。022型ミサイル艇は攻撃機や哨戒機等からデータリンクで敵の位置情報を得ることが可能だが、海軍航空隊が航空戦に敗れたため、ターゲッティングできる航空機が不在となってしまった。

 結局、宮古島東方沖に出てきたものの、022型ミサイル艇は護衛艦の所在を掴むことが出来ず、同海域を無為に彷徨さまよった。

 そうこうしている間に撤退命令が下る――とともに彼らは“追われる身”になった。


「敵ミサイルッ」


 022型ミサイル艇は小柄である上にステルス性を意識した構造をしているが、それでも障害物のない沖合に出たが最後、空にある眼から逃れることは出来ない。宮古島東方へ出た時点で、彼らは早期警戒機や哨戒機によって捕捉されていた。対応したのは沖縄本島から出撃したP-1哨戒機である。翼下にはAGM-65を吊り下げており、高空から躊躇することなく襲撃を仕掛けた。

 超音速で迫るAGM-65に対し、022型ミサイル艇は抗する手段を持たない。対空レーダーは簡略なものであり、射撃統制レーダーは搭載されていないため、6銃身の30mmガトリング砲を備えていても敵ミサイルを撃墜できる可能性は僅少である、と言っても過言ではなかった。


「なんのために……」


 これではやられに来たようなものである、とミサイル艇のクルーの誰もが思った。

 実際、そうなった。AGM-65は30mm機関砲弾の弾幕を潜り抜け、瞬く間に3隻を葬った。直撃。青白せいびゃくの船体と人体の欠片が、数十メートルに範囲に亘って四散する。残る1隻は30mm機関砲弾を命中させることに成功し、AGM-65の弾頭を破壊したものの、それはあまりにも至近距離に過ぎた。つまり亜音速に近い速度で、無数の破片と火焔が022型ミサイル艇を襲ったのである。十数名の乗組員の内、8名が死傷。継戦どころではなくなった。


「脅威は排除されました」


 戦闘機、哨戒機からの戦果報告に第4護衛隊群の一同は安堵しつつも、すぐに気を引き締め直した。このあとしばしの間、第4護衛隊群は航空優勢・海上優勢の確保のため、この海域に留まることになる。敵方からすれば、イージス艦である護衛艦『ちょうかい』と優秀な防空艦『すずづき』に張りつかれるほど厄介なことはない。必ずや断続的な攻撃を以て、排除を試みるであろう。


「我々が踏みとどまることに成功すれば、島嶼奪還部隊の投入は容易になる。ひと踏ん張り、頑張ろう」


 第4護衛隊群司令は護衛艦『ちょうかい』にて、左右をそう励ました。

 すぐに奪還作戦は発動されることになろう。まずは、宮古島だ。次に石垣島――そして最後に、与那国島である。

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