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■43.暗礁に乗り上げて。

 大韓民国国軍から航母戦闘群出撃の報を得た後のJTF-梯梧司令部の面々はやきもきしていた。はたして海上自衛隊潜水艦隊第6潜水隊の襲撃は成功したか否か。衛星によるリアルタイムでの監視が困難である以上、戦果確認は攻撃後に離脱した潜水艦からの報告を待つほかない。どうしてもタイムラグが生じる。

 ところが、結果は意外なところからもたらされた。


「中国の航空母艦が座礁!? 日本の攻撃を受けた後、沈没を避けて緊急避難か!?」


 報じたのは、衛星写真を売り捌く民間企業から中国沿岸部のそれを取得した海外メディアである。前述の通り、国際社会における日中戦争の注目度は極めて高い。そして、質・量ともに最高峰の現代海軍同士の激突を注視していたところに、航空母艦『山東』被撃破――世界中が、沸いたと言っても過言ではなかった。


「#I am Japanese citizen」


 のハッシュタグと同時にSNSを駆け巡り始めた画像には、3発の長魚雷をその身に受け、瀕死の状態で中国沿岸の浅瀬にその身を横たえる『山東』が映っていた。巨人にでも握り潰されたかのように損傷した艦首。艦体が歪んだのか、めくれあがっている飛行甲板。

 続けて韓国空軍・海軍から航母戦闘群が青島に戻ったという情報が入るに至り、JTF-梯梧司令部は攻撃成功を確信した。


「『こくりゅう』、『せいりゅう』……よくやったっ!」


 対する中国側は、「衛星写真は捏造である」「悪質なフェイク・ニュースだ。航母戦闘群はすでに宮古島近海に進出している」と抗弁した。したと同時に撃破された『山東』の周辺海域を閉鎖したが、隠しきれるものではない。『山東』はあまりにも巨大であったし、そして彼女が座礁した浅瀬は、中国本土にあまりにも近すぎた。

 航空母艦『山東』の被撃破――この事実は報道管制されたものの、中国国内では公然の秘密となった。


「本日、海上自衛隊潜水艦隊のそうりゅう型潜水艦が、青島総合保障基地を出発した中国人民解放軍海軍航母戦闘群を攻撃。093型攻撃型原子力潜水艦1隻を撃沈し、加えて航空母艦『山東』を撃破いたしました」


 夜には態勢を立て直した防衛省職員らと、先の弾道ミサイル攻撃を軽傷で切り抜けた紺野防衛相が記者会見を開いた。事実のみを伝える会見であり手短に終わったが、その場は興奮と安堵、期待感が入り混じった雰囲気に包まれた。その期待とは何かと言えば、それは講和への期待である。航空母艦『山東』は中国人民解放軍海軍の虎の子である以上に、中華人民共和国の威信そのもの。この巨艦の被撃破は、海軍将兵の士気どころではなく、中国公民の意思を揺るがすことになるだろう。

 一部の記者は「現代の大本営発表だ」と口さがなかったが、当の中国共産党幹部らは慌てた。今日日きょうび、完全なる情報遮断は困難だ。反政府思想の持ち主でなくとも、自由に海外発SNSにアクセスしている時代である。事実を揉み消そうと躍起になればなるほど、むしろ真実はユーザーの間に浸透していく。


「……」


 14日深夜につどった中国共産党首脳陣の口数は少ない。

 国家主席の金洪文に至っては、一言も発さなかった。もはや軍事力によって、日本国を早期屈服させる道はなくなったように彼には思えてならなかった。弾道ミサイルによる攻撃で潰した自衛隊基地が機能を回復するまでに、そう時間はかかるまい。その後は血を血で洗う長期戦――となるだろうか?

 正直に言えば、度重なる敗北と今回の『山東』被撃破により、長期戦に持ち込めるかも怪しいと考える者も現れ始めた。


(日本国自衛隊の善戦をみたアメリカがいつ掌を返すか)


 と、中国共産党の幹部は、誰もが危惧している。

 一縷いちるの望みとしては、南シナ海等におけるシーレーン妨害が残っているが、実際のところ、妨害せんと展開した艦艇がぽつぽつと消息を絶ち始めていた。つまり狩るはずが、“何か”に狩られているわけである。おそらく海上自衛隊の潜水艦が跳梁ちょうりょうしているのだろうが、尻尾が掴めない。中国人民解放軍海軍の関係者らは、シンガポール軍が遠大な航続距離を有し、海空監視能力に長けたG550 早期警戒機を繰り出して、日本側に情報を提供しているのではないかと疑っていたが、こちらは確証がなかった。

 対して中国共産党は南シナ海での対日通商妨害のため、“餌付け”をしていた東南アジア諸国を味方につけようとしたが、彼らの態度は不透明であった。


「……」


 前述の通り、無言を貫いていた金洪文国家主席であるが、彼は不機嫌からそうしているわけではなかった。真剣に現状を打破できる一手を模索していたのである。確実に日本政府を屈服させることのできる手段が、ある。

 それは端的に言えば、核攻撃だった。

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