■40.#I am Japanese citizen.
航空戦は終始、航空自衛隊側の優位で推移した。
沖縄島に集結した航空自衛隊・海上自衛隊の航空戦力に対して、中国人民解放軍空軍側は守勢に回ったが、宮古列島周辺空域に即時投入できる戦闘機部隊はそう多くなかった。宮古島・石垣島周辺にて空中哨戒にあたっていた殲撃11型数機が迎撃にあたり、中国本土からも殲撃10型Cから成る戦闘機部隊が緊急発進したが、後者の戦闘加入は遅れてしまい、戦力を逐次投入するような形になってしまった。
一方の航空自衛隊航空総隊は、セオリー通りの航空攻撃を実施した。護衛役のF-15J戦闘機が中距離空対空誘導弾で敵機を追い払い、亜音速の攻撃機隊が殴りこみをかける。純白の機体が、宮古島北東沖約150kmの海上へ滑りこんだ。その速度は、時速約900km。最新鋭哨戒機のP-1は遊弋する052D型駆逐艦目掛けて、翼下に吊り下げた91式空対艦誘導弾複数発を切り離した。
「敵ミサイル、シースキミングを開始した模様」
防御を試みる052D型駆逐艦側からは、間もなくP-1哨戒機の発射した空対艦誘導弾が見えなくなった。91式空対艦誘導弾は発射後、水平線に隠れるためにすぐさま超低空飛行へ移行する。このため052D型駆逐艦に、長射程の艦対空誘導弾による迎撃のチャンスは与えられなかった。電子的妨害を除けば、あとは24連装の近接防空ミサイルと大小砲火力で撃墜するほかない。
「敵ミサイル、視認した!」
水平線から顔を出した91式空対艦誘導弾は、複数方向から襲撃を仕掛けた。その数は、32発。オーバーキルにも感じられるが、宮古島攻撃作戦において邪魔になる052D型駆逐艦を、確実に始末するための飽和攻撃だった。
「JDAM、ドロップ」
052D型駆逐艦が空対艦誘導弾6発の直撃を受けて文字通り消滅する中、複数機のF-35Aが高高度から下地島空港に向けて誘導爆弾を投下した。その重量は2000ポンド。1発は目標から外れて空港そばの森林の一角を吹き飛ばすに終わったが、残る2000ポンド爆弾は滑走路と下地島空港の変電施設を破壊。管制塔といった施設も爆弾の直撃と火災によって完全に機能を喪失した。
もうひとつの攻撃目標である宮古空港には、航空自衛隊第8航空団のF-2戦闘機隊が航空攻撃を仕掛けた。操縦士はみな、決死の覚悟である。地対空ミサイルシステムの配備は確認されていないが、中国人民解放軍が宮古島に主力戦車をはじめとする重装備を揚陸している以上、対空自走砲や携帯式の地対空ミサイルの迎撃があっても何らおかしくなかった。
(海面が、近い――!)
紺碧の海と一体になる。敵の反応を遅らせるために、攻撃隊は宮古空港目掛けて超低空を翔けた。
対する占領部隊であるが、やはり自衛隊側の予想通り自走対空車輛を宮古空港周辺に配置していた。04A式自走対空機関砲天戟がそれである。指揮管制車のレーダーが水平線上にF-2A戦闘機を認めると同時に、25mm機関砲4門と、紅纓6近距離地対空ミサイル4基を備えるこの天戟は、割り当てられた対空目標に対して自動追尾を開始した。
空間という空間を、火線が埋める。その合間を掻い潜ってF-2A戦闘機は高速で天を衝き、翻ってダイブしながら500ポンド爆弾を投弾すると、再び地を這うように離脱した。
「方位、2-9-0よりバンディット」
このポップアップ攻撃の前後で、前述した殲撃10型Cの増援が攻撃隊に急速接近していたが、こちらは空対空装備で直接援護に就いていたF-2Aが要撃した。すぐさま中距離空対空誘導弾を撃ち合いとなったが、彼我ともに一歩も退かない。人民解放軍パイロットは何があっても空自の攻撃隊へ突入する腹積もりであったし、空自パイロットも絶対に防空スクリーンを崩すつもりはなかった。
故に、F-2A戦闘機と殲撃10型Cの間で格闘戦が生起した。殲撃10型Cは2016年に量産が開始された最新鋭モデルであり、性能面で言えばF-2Aも苦戦を免れない相手だ。ECMポッドに加えて空対空ミサイルの接近を警報する全周警戒装置も備えており、F-2Aが放った短距離誘導弾を殲撃10型Cが、容易に躱す一幕もみられた。
だがしかしF-2Aの側とすれば、殲撃10型Cを足止めするだけでいい。攻撃隊が離脱し、F-15Jから成る制空隊が来援すればそれで勝ちなのである。鎬の削り合い。そうしている間に、宮古空港直上に火球が生まれ、何本もの黒煙が立ち昇った。
◇◆◇
10月13日18時から始まった古川首相の記者会見は、日本全国どころではなく全世界で放映された。結論から言えば、古川首相は10月1日時点における日本国の領域から中国人民解放軍と中国当局関係者が退去するまで、継戦するという意志をみせた。
勝利への見通しは立っていない。
ところがしかし、屈服するわけにはいかないというのが古川内閣や関係省庁の総意であった。
1年前に中華人民共和国駐日大使館がWEB上で新疆職業技能教育訓練センターを紹介する際に、「過激思想に影響を受けていた人々が言葉、法律、職業技能などを身に着け、新たな人生を手にすることができました」と述べたとおり、南西諸島の人々が中国国内の少数民族と同様、新しい言葉・法律・職業技能を強制される可能性がないとは言えない。
「これは日本国と中華人民共和国の間の戦争ではなく、自由主義の国と、覇権主義の国の間の戦争であると、そう言えます。日本政府はいま不当な侵略に脅かされている国民を守るために、外交と防衛、この両面で努力を続けていきます」
古川首相の発言は、波紋を広げた。日本国の領域を、主権を、国民を守るだけではなく、言論の自由や表現の自由、こうした自由主義を守るための戦いでもある――そして自由主義の日本国と、大国覇権主義を強める中華人民共和国は相容れない。そこに妥協はなく、戦争は容易には終わらないであろうということが明白になったのである。
その数分後、日本国民でも中国公民でもない外国人が、SNSに一件の書き込みをした。
#I am Japanese citizen.