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■37.掴め、逆転の糸口!(前)


 12日の夕刻から深夜にかけて、彼我の間では航空戦が十数回生起した。

 主に攻撃の側に立ったのは、中国人民解放軍空軍・海軍側である。

 まず中国人民解放軍空軍は、殲撃20型から成る制空部隊を九州島から沖縄島の周辺空域へ次々と繰り出した。彼らの狙いは、航空自衛隊の要撃を掻い潜って後方の早期警戒機や、海上自衛隊の哨戒機を狩ることだ。航空自衛隊のレーダーサイトは、度重なるミサイル攻撃によってみなことごとく壊滅状態に陥っている。そこで早期警戒機さえ撃墜してしまえば、航空自衛隊の捜索範囲はいよいよ局限されるであろう。これに併せて海上自衛隊の哨戒機も駆逐できれば、海上を見下ろすプラットホームは消える。そうなれば中国人民解放軍海軍の駆逐艦や輸送艦は、安全に東シナ海を渡れるようになるというわけだ。

 ステルス戦闘機を投入して敵の早期警戒機や空中給油機を撃破し、航空作戦を優位に進めるというのは、中国人民解放軍空軍がずっと温めてきたアイデアである。


(だがそんな戦術は誰でも考えることだ)


 であるから、航空自衛隊航空総隊はそれを逆手にとった。E-2C早期警戒機をわざと九州島・奄美大島・沖縄島を結ぶ“回廊”の西側に進出させたのである。護衛機は2機のF-15J。

 4機の殲撃20型がこの好餌こうじに食らいつく――が、それは好餌ではなく撒き餌であった。狩る側のはずの漆黒のからすは、醜弱しゅうじゃくな七面鳥に堕ちる。突然のレーダー照射。続いてAIM-120の十字砲火が浴びせかけられた。


「なぜ」


 殺到する8発の凶弾を前に、殲撃20型の御者は疑問を口にすることさえ許されない。すぐさまチャフをばら撒きながら機体を反転させて逃げ始めたが、AIM-120の弾頭は確実に巨影を捕捉していた。数分後には人民解放軍が誇るステルス戦闘機は、世界一高価ながらくたになって海上に浮かぶこととなった。


(作戦成功――!)


 AIM-120を発射した張本人ら――F-35Aのパイロットらは冷静沈着に頭脳を働かせながら、心の中で快哉を叫んだ。種を明かせば単純なものだ。囮役のE-2CとF-15Jの遥か前方に、4機のF-35Aが網を張っていたというだけである。

 殲撃20型とF-35Aの性能は比較するまでもない。殲撃20型の機体正面におけるレーダー反射断面積は約0.1㎡だが、F-35Aは約0.01㎡未満……一説には0.00143㎡とも言われている。文字通り一桁、二桁が違う。つまり今回のように殲撃20型からはF-35Aが見えないが、F-35Aは殲撃20型を捕捉できるという事態が起こり得るのだった。しかもF-35Aは熱源の探知にも優れているため、レーダーによる捜索をする必要がない(つまりレーダー波を発して敵機に逆探知される恐れがない)。


 続いて九州沖を航行する護衛艦と奄美大島、沖縄島の高射部隊陣地を攻撃すべく、中国人民解放軍空軍は殲撃16型やSu-30といった虎の子の戦闘攻撃機を繰り出した。犠牲覚悟の力押しである。

 が、前者は岩国基地を飛び立ったF-15J(Pre-MSIP機)の要撃と、ミサイル護衛艦の抵抗に遭って撃退され、後者に関しても嘉手納基地から緊急発進した航空自衛隊第9航空団の生き残りにより妨害された。さらに奄美大島・沖縄島の高射部隊はレーダーによる捜索さえせず沈黙を守ったため、中国側の攻撃機は高射部隊の捕捉に失敗。翼下に対レーダー高速ミサイルを吊り下げてきたものの、完全なる空振りに終わってしまった。

 だがしかし、一方的な快勝とは戦争にはありえない。九州沖の空域で敵攻撃機に立ち向かった前述のF-15J戦闘機4機は、殲撃16型2機を撃墜、さらに複数機の攻撃を妨害する戦果を挙げたものの、その代償に3機が空中で撃破された。やはり80年代からアップデートされていないPre-MSIP機では、苦戦は免れないというのが厳しい現実である。


 また海・空の戦術的勝利が続く一方、地上戦はやはり苦しい展開が続いていた。

 宮古島で絶望的抗戦を続けていた陸上自衛隊宮古警備隊は、迫る侵略者に対して組織的な降伏を選ぶことなく“消滅”した。普通科中隊は死傷率が6割、7割を超えてもなお反撃を続けたが、日付が変わって13日0時には陸上自衛隊宮古警備隊本部中隊が全滅。敵の砲火の中で孤立した各小隊・分隊の生き残りは、降伏か、継戦か、逃亡かのいずれかを選んだ。

 宮古警備隊が全滅した原因は、空海からの激しい砲爆撃と圧倒的な兵力差もさることながら、耕作地が多く平野部の広がる宮古島の地形に着目した中国人民解放軍陸軍が、99A式戦車13輌を投入したことにあった。

 疾駆しながら射撃する、複合装甲と増加装甲を纏った約50トンの怪物に、生身の普通科隊員が無反動砲やパンツァーファウスト3で反撃するのは至難の技である。それでも宮古警備隊は対戦車誘導弾と肉薄攻撃で4輌を撃破。激しい攻防戦の最中、機械的トラブルで擱座した2輌を含めれば(99A式戦車の機械的信頼性が低いことは設計技師も認めるところだ)、約半数を退けたことになる。

 だが、それまでであった。99A式戦車とそれを援護する歩兵戦闘車は、普通科中隊から成る防衛線を一挙に踏み躙り、その衝撃力を以て多大な損害を彼らに与えた。

 これで沖縄島以西において未だ健在の陸上自衛隊の部隊は、山地と森林に潜み抵抗を続ける石垣警備隊のみとなった。


 陸上自衛隊宮古警備隊全滅の報復は、すぐに為された。


「潜水艦隊司令部も無茶を言う……」


 突如、宮古島南東海域の海面が割れ、わだかまる夜闇が引き裂かれた。

 轟々火焔を噴き、空中へ舞い上がったのは4発の潜水艦発射型ハープーン。沖縄海底崖に沿って太平洋から忍び寄った潜水艦、『まきしお』が放ったものである。ハープーンは敵の捜索レーダーを回避するため、すぐさまシースキマーモードに移行した。飛翔速度は亜音速、目標――宮古島平良港に入港中の輸送船まで、5分とかからない。

 特に迎撃を受けることもなく、ハープーンは宮古島警察署や市立熱帯植物園の直上で急上昇に転じた。ポップアップ。そして平良港の岸壁に停泊中の輸送船を捉えると、まっしぐらにダイブしていく。

 衝撃波が平良港を薙ぎ、爆音が島内を揺るがした。生まれた火球は宮古島のどこからでもはっきりと見えた。1万トンを越える船舶が利用可能である下崎埠頭に接岸していた輸送船が、1発のハープーンの突入を受けて爆散したのである。船腹には先に触れた99A式戦車用の燃料や部品、また地対空・地対艦ミサイルを収めており、宮古島の占領部隊を維持・強化するのに欠かせない物資があったが、これは全て火焔に呑み込まれるか海底へ呑み込まれるか、どちらかの運命を辿った。

 200kgを超える弾頭の突入を受けた輸送船は、もう1隻ある。

 それは中国人民解放軍がチャーターしていたカーフェリーだった。入港したばかりのところを攻撃されて船体が真っ二つになり、多くの乗船者と車輛が海に投げ出された。輸送していたのは宮古島の占領体制を強化するための中国人民武装警察部隊で、人的な損害が相当出た。

 残る2発のハープーンは、空振りに終わった。1発は平良港外にて警備にあたっていた054A型ミサイルフリゲートの迎撃を受けて空中撃墜され、もう1発もこのフリゲートへ突入しようとしたところを速射砲とCIWSの射撃を受けて爆発四散した。


「馬鹿がッ、海軍は何をやっている!」


 ところが、この054A型ミサイルフリゲートの防空戦闘により、平良港の内外で損害が出た。ハープーンの弾頭を破壊するために連射された砲弾は、次々と港湾施設や東側・南側に広がる市街地に着弾。続けて宮古空港上空に進入しようとしていた陸軍のヘリを、ポップアップした新たなミサイルと勘違いし、艦対空誘導弾で撃墜してしまったのである。

 一方、潜水艦『まきしお』は、と言えば最大速力を以て、南東――南西諸島海溝方面へ離脱を開始していた。潜水艦発射型ミサイルの問題点は、魚雷よりも所在が露見しやすいことだ。撃ったならばすぐに逃走しなければならない。『まきしお』は攻撃が成功したのか、失敗したのかもわからないまま、光なき海中へ姿を隠した。


 このように自衛隊の攻撃作戦はまず『まきしお』の平良港に対するミサイル攻撃から始まったが、さらにJTF-梯梧は宮古島の占領部隊に対する大々的な反撃作戦の準備を進めていた。損害を恐れて守勢に回り、宮古島を放置すればどうなるか。下地島空港(下地島は宮古島と橋梁で繋がっている)に機材と地上要員が運びこまれ、中国人民解放軍空軍の戦闘機部隊が進出して来る可能性が高い。

 敵の前進基地の建設を防ぐためにも、JTF-梯梧は中国本土・宮古島間の海上交通破壊と、宮古空港・下地島空港の空爆をより強化することを決定した。

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