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■30.奇襲、衝撃、ライトニング!(後)

 500ポンド爆弾による攻撃は石垣港の輸送船のみに留まらない。

 荷揚げされてひとまず集積されていた補給物資の山に、遅れてもう1発、航空爆弾が直撃した。わずか1秒で物資集積場は煉獄と化した。機械油や車輛用の軽油を呑みこみ、火焔はあらゆる可燃物を舐め尽くす。爆風と砕片がごちゃ混ぜになった嵐が吹き荒れ、周囲に居合わせた兵員は文字通り薙ぎ倒された。

 破壊の第一波が過ぎ去ると、伏せていた中国軍兵士らが立ち上がり、消火作業を開始した。そんな中、ひとりの士官がただ闇雲に「消火急げ!」と絶叫している。その足元にはちぎれた小指が落ちていたし、彼の視界に映るコンテナの残骸には上半身だけになった兵士が引っかかっていた。その首から先は千切れてしまい、なくなっている。横転した対空レーダー車輛に脚を押し潰され、泣き叫びながら助けを求める若い上等兵。その向こう側に見える輸送船は、濛々と煙を吐き出しており、その合間合間には橙の色彩がちらりちらりと顔を覗かせる。

 海面上には、航空爆弾が炸裂した衝撃で弾き飛ばされたか、自発的に飛び込んだかは定かではないが、生存者らが浮かんでいる。流出した燃料まみれになっている。その合間には丸太が浮かんでいて、生存者が必死の思いで近づいてみると、それは人間の大腿部から爪先――誰かの右脚であった。


「戦果を確認した。帰投する」


 そのさまを、電子の瞳を通して見つめていた存在がある。

 甲虫めいた異形がふたつ。鈍色にびいろのその身を翻し、急旋回して南東方向へ機首を向けた。一対の翼には、灰色かいしょくの日輪があしらわれている。

 たった2発の航空爆弾で、眼下約10km先の輸送船と物資集積場に破壊をもたらした彼らの存在に、中国側は気づかなかった。

 ……否、気づけない。全長約15.6m、全高約4.4mの体躯にもかかわらず、レーダー断面積は昆虫同様の0.00143㎡という怪物――戦域を支配する新たな王、第5世代ジェット戦闘機のF-35Aの来襲を察知するのは、特別注意を払わない限りは難しかった。


 結局、航空自衛隊第302飛行隊のこのF-35A戦闘機2機は、往路復路ともに人民解放軍空軍機の要撃を受けることはなかった。作戦成功である。石垣島周辺空域から帰投する作戦機からの短い報告は、すぐさま上級の司令部にまで伝えられた。


「無理をしたが、成功してよかった」


 初の空自ステルス戦闘機隊による航空攻撃の成功と、損害ゼロという結果に、統合幕僚長や統合任務部隊司令官をはじめ、防衛省関係者は誰もが胸を撫で下ろした。

 正直に言えば、F-35Aの南西諸島方面への投入はかなり厳しいものがあった。

 まずF-35Aの戦闘行動半径は1100km程度である。九州地方の航空自衛隊基地から、無給油で石垣島へ殴りこむのは難しい。そのため沖縄本島東方の空域で空中給油を受けさせることにしたが、巨体を誇る空中給油機に当然ながらステルス性はない。航空自衛隊の幹部は「こちらの企図が露見するのではないか、中国側の航空作戦とかち合うことはないか」と冷や冷やさせられた。

 その上、F-35Aが機内に格納可能な武装には限りがある。F-35Aがその体内に同時に収められるのは、空対空誘導弾2発と2000ポンド(約900kg)までの航空爆弾2発までだ。攻撃のチャンスは少ないといっていい。

 それでもやってみよう、というのがJTF-梯梧・司令官の決断であった。高度な電子戦能力を有するF-35Aと、GPS誘導による爆撃が可能なJDAMの組み合わせならば成功の公算はあるとみたのである。

 中国人民解放軍の侵略に打ち勝つには、敵の輸送路を断つほかない。未だ健在である宮古島・石垣島の両警備隊をなんとか支援したいという思いもあった。また官邸サイドからの政治的な要請もあり、航空攻撃作戦は実行に移されたのだった。

 ひとまず投入した作戦機数は、石垣島方面に2機・宮古島方面に2機。

 少数機である理由は日本国内における中国側のヒューミント等で、航空作戦を露見させないためだ(潜入工作員や協力者の眼を誤魔化すために、彼らは九州地方の航空基地からわざわざ東方の海上まで飛び、そのあと引き返しているほどである)。この2機1組の内、1機は電子光学目標指示システムEOTSにより情報収集と、GPS座標生成にあたる偵察役。そして相方の1機は生成された目標の座標へJDAMを投下する爆撃役を担当した。

 宮古島方面の作戦も同様に成功している。ビーチングしていた揚陸艦にF-35Aが襲いかかり、2発の500ポンド爆弾を投下。直撃弾1発・至近弾1発を以てこれを大破させた。


 合算して500ポンド爆弾、たった4発による攻撃。

 さしたる戦果ではない。さしたる戦果ではないのだが、この小勝利で大局は大きく動き出した。

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