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■27.中国共産党の脅迫。

 10月11日、総理大臣官邸では国家安全保障会議・緊急事態大臣会合が開かれた。

 参加者は古川誠恵内閣総理大臣をはじめとした古川内閣の閣僚達と、自衛隊統合幕僚長ら防衛省関係者、海上保安庁海上保安監や外務省の局長級職員といった事態対処専門委員会・関係省庁の人間である。

 その内容は関係省庁からの報告が主であったため会議自体は淡々と進行したが、重大な問題のいくつかは結論が出ないまま、先送りにされた。問題、というのは当然中国共産党政府によってもたらされたものである。昨日、中国共産党政府は開戦直後に、日本政府と全世界に向けて声明を発していた。


■まず釣魚諸島は古来より中華人民共和国固有の領土であるにもかかわらず、長年にわたって日本国が不法に占拠してきた経緯がある。また近年、釣魚諸島周辺における日本国自衛隊は増強著しく、特に石垣島のミサイル基地(※石垣島駐屯地のこと)建設は、釣魚島周辺海域における船舶の自由な航行を脅かすものであった。我々はこうした日本政府による軍事的圧迫に対し、再三にわたって抗議をしてきたが、ついに聞き入れられることはなかった。そして10月10日正午、本邦の水上艦艇1隻が釣魚島周辺海域で石垣島方面から発射された高速飛翔体2発の攻撃を受け、消息を絶った。本邦は思慮深く、忍耐強く、エスカレーションを回避してきたが、もはや平和的な交渉には限界があると判断し、釣魚諸島における主権回復と、本邦にとって脅威となるあらゆる存在を排除することを決定した。


■中国人民解放軍は釣魚諸島における主権回復と、船舶・艦船の航行の自由を確保することを目的に、必要最低限の武力を行使しており、いたずらな戦火の拡大を望まない。具体的には武力行使の対象を沖縄本島と沖縄本島以西に局限している。ただし日本政府が釣魚諸島領有の主張と、釣魚諸島周辺における軍事的挑発を繰り返し、沖縄本島以東から釣魚諸島周辺における陸海空自衛隊の増強を図るのであれば、本邦も日本国内のあらゆる自衛隊関連施設を攻撃目標とせざるをえない。


■日本政府が釣魚諸島不法領有の主張を放棄して猛省し、謝罪としかるべき賠償を実施しないのであれば、中国人民解放軍は釣魚諸島周辺海域および沖縄本島周辺海域へ向かうあらゆる船舶の航行を監視し、これが軍需物資等、日本政府が戦争遂行に必要とする物資を積載していることが確認できた場合は、航路等の変更あるいは中華人民共和国への回航を強制するものである。万が一、軍需物資等を輸送する船舶が中国人民解放軍の指示に従わなかった場合、中華人民共和国政府は熟慮の上で中国人民解放軍に対し、海上輸送を阻止するための命令を下す。


「つまり中国政府は、尖閣諸島と周辺海域を明け渡さないのなら、沖縄本島以西――本土の自衛隊基地を攻撃し、さらに海上輸送を規制すると脅迫してきたわけか」


 事前に報告を受けていた古川首相であったが、この場においても不安を隠しきれずにいた。流石に「自衛隊は勝てるのか」と左右に問うことはなかったが、彼とて人の子だ。尖閣諸島等を明け渡す等、先方の主張を認めてさっさと停戦した方がよいのでは、という思いもまた抱かざるをえなかった。

 彼と同じく、中国側の要求を呑むのもやむなし、と考える閣僚と高級官僚は少なくない。会議中、国土交通省の運輸安全政策審議官は、古川首相の弱気に追随した。


「つい先程の中国当局からの発表によると、南シナ海において本邦の海運会社が運航している商船2隻が、中国人民解放軍海軍によって停船検査を受けているそうです。当該海運会社によると、2隻の商船はいずれも自衛隊の装備品等、安全保障にかかわる物品を輸送しているわけではなく、石油製品等を積載しているとのことです」


「軍需物資等の輸送を阻止する、なんて建前でしかない」と、赤河財務相は吐き捨てるように言った。この福岡県の川筋者かわすじもんげんは正しい。中国共産党政府は日本列島へ向かう商船を無差別に停船検査の名の下に足止めし、あるいは中国へ回航させてしまうことで、日本経済を枯死と言わずとも、混乱させようとしていた。


「対抗手段として、我々も中国の海上輸送を規制しましょう」


 そう提案したのは、紺野九郎防衛相である。

 中国人民解放軍が今回、民間船舶を停船検査したのと同様に、自衛隊もまた外国軍用品等海上輸送規制法に基づいて、軍需物資を輸送する船舶を停船検査し、場合によっては日本国内へ回航することが認められている。

 だが他の閣僚らは渋い顔だ。現実問題として、戦域となっている南西諸島から遥か南方の海域で、中国本土へ向かう船舶を停船検査する余力が海上自衛隊にあるとは思えなかった。商船の護衛も難しいだろう。

 中華民国筋からの情報では、中国人民解放軍海軍は051型駆逐艦や052型駆逐艦、航続距離の長いミサイルフリゲートを南シナ海やシーレーンの要所に遊弋させているらしい。この051型駆逐艦や052型駆逐艦は旧式であるが艦対艦誘導弾を備えており、近代化改修も行われている。それに中国共産党政府が対H5pdm19外交によって東南アジア諸国を骨抜きにしてしまったことで、南シナ海は中華人民解放軍海軍の“庭”と化していた。東シナ海で護衛艦隊と戦うには、騒音が酷く力不足の091型攻撃原潜(所謂“漢級”)や、旧式の035型通常動力潜水艦が潜んでいてもおかしくない。生半可な戦力を出しても返り討ちにされるだけだ。

 さりとて座視も出来ぬ。

 とにかくまず海上交通を迂回させるほかない。

 それから海上幕僚監部は南シナ海で通商制限に関係する敵艦艇を排除できないか、検討を開始していた。近年は南方における戦闘を念頭に、おやしお型潜水艦や護衛艦を南シナ海へ派遣しての訓練を行っているから、これは非現実的な話ではない。


 そして会議中、会議の前後では“いかにこの戦争を終結させるのか”、ということが閣僚や自民党関係者、高級官僚の間で話題になった。


「戦況の報告は聞いているけれども、結局のところ中国軍に南西諸島を諦めさせることは出来るのか? 島嶼を巡る戦争で日本本土の大都市圏が焼かれ、日本経済が破壊されるのでは元も子もない。だったら尖閣諸島を譲り渡して……」


「ダメだ!」


 早期講和に反駁はんばくしたのは、佐久間国家公安委員会委員長であった。

 こちらから歩み寄って講和の姿勢を見せれば、どこまで譲歩させられるか分かったものではない、というのが彼の考えである。中国共産党政府の狙いが無人島の連なりである尖閣諸島のみならず、空港や港湾が整備されている与那国島から宮古島にかけての島々であることは明白。必ずや停戦の条件にこれを盛り込んでくるであろう。到底認められるものではない。

 しかしながら在日米軍の助力なしに自衛隊が中国人民解放軍を撃退し、中国人民解放軍に南西諸島を諦めさせることが出来るのか、と反論されればそれまでである。世論においても、「現実的に考えて譲歩やむなし」とする意見は少なくない。

 会議の進行を見守っていた谷岡五郎統合幕僚長は、いまの日本政府には“わかりやすい勝利”が必要だと思った。中国人民解放軍という巨影、その実態を暴かなければ冷静な議論もできない。

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