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■23. 10・11航空戦。(中)――夜天の戦神vs蒼海の女神。

 中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部にとって厄介な存在なのは、海上自衛隊のイージス武器システムを搭載したミサイル護衛艦である。

 2021年春のまや型護衛艦『はぐろ』就役により、海上自衛隊はこの所謂“イージス艦”を8隻保有することとなった。内、2隻は北朝鮮に備えて日本海に張りつけなければならないが、残る6隻に関しては戦闘や補給等のローテーションを組んだ上で、南西諸島方面の作戦に投入可能である。

 緒戦においては沖縄本島西方沖に事前展開を終えていた海上自衛隊第2護衛隊群『あしがら』と『きりしま』が、中国人民解放軍ロケット軍の弾道弾16発の迎撃に成功。その後、沖縄本島へ接近する中国人民解放軍空軍機・海軍機をSM-2の射撃により撃退したものの、誘導弾の射耗に伴い両艦は補給のために後退した。

 それとともに東シナ海へ進出したのが、むらさめ型護衛艦『むらさめ』・『いかづち』・『あけぼの』、最新鋭防空護衛艦あきづき型『あきづき』を引き連れたこんごう型護衛艦『こんごう』、そしてまや型護衛艦『まや』――海上自衛隊第1護衛隊群である。

 彼女たちに与えられた任務は、中国人民解放軍ロケット軍による更なる弾道ミサイル攻撃に備えることであった。

 航空自衛隊那覇基地の“次”があるとすれば、それはF-2戦闘機が多数配備されている航空自衛隊築城基地(福岡県築上町)と、F-15J戦闘機部隊を収容する航空自衛隊新田原基地(宮崎県新富町)であろう。あるいは弾道ミサイル攻撃の規模と範囲を拡大し、日本全国の航空基地を標的にするかもしれなかった。


 対する中国人民解放軍第81統合任務戦線は『こんごう』と『まや』の東シナ海への進出をヒューミントの積み重ねで予想していた上に、早期警戒管制機や電子情報収集機で現在地まで掴むことに成功しており、今後の戦局を有利に進めるためにもこの2隻を撃退したいところであった。

 イージス艦は弾道ミサイル攻撃から広範囲を防御出来る性能を有する上、対航空機用・艦対空誘導弾も多数搭載している。いわば洋上の移動式対空ミサイル陣地だ。態勢を立て直した航空自衛隊の戦闘機部隊とともに、宮古島近辺まで南進してくるようなことがあれば、南西諸島周辺空域の航空優勢は揺らぐことになる。


「九州沖を遊弋する敵水上艦隊を殲滅する」


 鈍足の水上艦艇では攻撃までに時間がかかるし、自衛隊機の航空攻撃に晒される可能性が高い。通常型潜水艦に待ち伏せさせても、対潜水艦戦能力に長けた海上自衛隊のことだから逆にやられてしまうだろうし、他の兵科との連携も取りづらい。そう考えた中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部は、航空機から成る攻撃隊を組織した。

 主力は空軍・海軍が保有する轟炸6型重爆撃機である。これは1950年代に初飛行した旧ソ連製Tu-16重爆撃機のライセンス国産版であり、機体外観の古臭さは否めない。だがしかし、00年代に入っても改良型の登場が相次いでおり、超音速空対艦巡航ミサイル6発を装備可能な轟炸6型Jや、射程1500㎞を超える巡航ミサイル複数発を発射可能な轟炸6型Kなど優れたミサイルキャリアーとして海空軍の打撃力を担っていた。


 攻撃隊の具体的な陣容は、この轟炸6型K『戦神』ら重爆撃機約20機と、ロシア製戦闘攻撃機Su-30MK2少数機である。このSu-30MK2は最大速度マッハ0.9の中国製空対艦誘導弾のYJ-83よりも高速のKh-31A(最大速度マッハ2.5~4)を装備出来るため、今回は白羽の矢が立った。攻撃隊が今回の攻撃に供する空対艦誘導弾の数は約100発――おそらく護衛艦の防空能力では対応しきれない飽和攻撃となるだろう、と空軍・海軍関係者は期待していた。

 そしてこの攻撃隊を護衛するのは、中国人民解放軍空軍第59航空旅団と第72航空旅団に所属する殲撃10型C戦闘機である。おそらく航空自衛隊の早期警戒機は、こちらの攻撃隊を即座に捕捉するであろう。多数の自衛隊機が迎撃に上がってくる可能性は十分考えられた。


「だがそれはそれで構わん」


 中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部では、空軍の高級参謀が周囲の心配を笑い飛ばした。


「自衛隊機を釣り出す好機。脅威となる敵の戦闘機はたったの200機に過ぎん。高コストの弾道ミサイル攻撃で連中の航空基地を叩き潰すよりも、誘き出して全滅させてやった方が早い」


 確かに彼が言うとおり、中国軍機との航空戦に堪えうる自衛隊機はF-15J/DJ(能力向上型のJ-MSIP機)約90機と、F-2戦闘機87機に過ぎない。最新鋭ステルス戦闘機のF-35A戦闘機に関しては、2021年においても1個飛行隊(第302飛行隊)が実戦配備されているのみである。

 他にもPre-MSIP仕様のF-15J/DJ戦闘機が100機以上運用されているが、こちらはセミアクティブレーダーミサイル装備のSu-27SK/UBKや初期型の殲撃11型といった旧式戦闘機が相手ならばともかく、殲撃10型・11型の最新タイプには苦戦を強いられるであろう。活躍出来る場はあまりない。

 大規模な航空戦を生起させて自衛隊側に消耗を強いる戦術は、有効なように思える。中国人民解放軍空軍は攻撃隊に前述の護衛機をつけるのみならず、強力な制空戦闘機の殲撃11型B戦闘機から成る第95航空旅団を後詰めとしていた。


「攻撃開始――」


 夜闇が最も深まった午前2時頃、中国人民解放軍空軍機・海軍機による攻撃が始まった。

 最初に露払いのため、中国人民解放軍空軍第59航空旅団所属の殲撃10型Cが進出。続いて攻撃隊が展開し、『まや』・『こんごう』に対する航空攻撃の準備を整えた。


 一方の自衛隊側は、すぐさま人民解放軍機の移動を早期警戒管制機により捉えた。その動向から敵航空作戦の目標は沖縄本島以北にあることは容易に察せられ、海上自衛隊の護衛隊群か、あるいは九州地方の航空基地を狙ったものであろう、と航空自衛隊西部航空方面隊司令部は判断。即座に航空自衛隊第9航空団をはじめとした戦闘機部隊へ要撃を命じた。

 轟炸6型を守るため展開した殲撃10型Cと、大型機を叩こうと突破を図るF-15Jの間で小競り合いが生起したが、この対戦闘機戦はさほど長引きはしなかった。

 護衛機の守るべき攻撃隊が、早々に超音速空対艦誘導弾を投弾し、退却を開始したためである。彼らの攻撃開始地点は中国本土からさほど離れていなかった。轟炸6型重爆撃機は戦闘機同士の決闘の後方、そして『まや』・『こんごう』が有するSM-2の射程外となる300㎞以上離れた空域から超音速空対艦誘導弾を切り離したのであった。


「対空戦闘用意」


 護衛艦『まや』・『こんごう』を守るように、その西方を遊弋していた護衛艦『あきづき』はFCS-3A多機能レーダーで以て、超音速で飛来する敵誘導弾を捕捉した。その数は約90発。轟炸6型のそれよりも射程が短い空対艦誘導弾を装備していたSu-30MK2戦闘攻撃機は、F-15Jの妨害を受けて攻撃を諦めざるをえなかったため、予定の100発には達していない。が、それでも対処が難しいことに変わりなかった。


(速い……っ!)


『あきづき』のCICに配された電測員は、悲鳴を噛み殺して平静を装った。

 海上自衛隊第1護衛隊群に突進する約90発の敵空対艦誘導弾の最大速度は、時速3600km。航空自衛隊が保有する93式空対艦誘導弾よりも遥かに高速であり、僅か2分で120kmの距離を詰めてくる。勿論、そのトップスピードのまま突っ込んでくるわけではないが、『あきづき』が備える発展型シースパローの有効射程は約30kmほどであるから、迎撃のチャンスは限られてしまう。

 それでも『あきづき』CICの面々は、覚悟を固めた。数、速度ともに完封は困難。第1護衛隊群の防空網を掻い潜る敵弾は少なからずあるだろうし、自艦に直撃弾が出るであろうことはほぼ確実であった。だがそれでいい。もとより『まや』と『こんごう』の盾となるのが、対航空機防空戦に特化した『あきづき』の存在理由であった。


「敵性電波探知」


「EA攻撃はじめ」


 決死の電子戦を仕掛ける『あきづき』の直上を、30発を超える艦対空誘導弾が白煙を曳いて翔けていく。『まや』と『こんごう』が敵の空対艦誘導弾を迎撃すべく放ったSM-2の第一波だ。

 短時間の間に、数十の新星が夜空に浮かんだ。両艦の誘導指令を受けた弾頭は極めて正確に敵弾を射抜き、超音速の敵YJ-12空対艦誘導弾は、超音速の鉄屑となって海面へぶちまけられていく。

 しかしながら約90発という頭数は、イージス艦2隻の同時対処能力を超えている。さらに『あきづき』の電波妨害を受けた幾つかの空対艦誘導弾は、目標を更新した。つまり電波妨害源である『あきづき』を数十秒後の終着点としたのである。


「シースパロー、発射はじめ」


 閃光。発展型シースパローが、弓張月の下に撃ち昇る。

 同時に127mm速射砲が右砲戦、対空射撃に備えていた。敵弾が発展型シースパローの有効射程に入っている時点で、もはや彼我の間合いは指呼の距離である。生死が分かれるまで、あと60秒もない。


「ターゲット、サバイブッ」


『あきづき』に向かって来る高速目標は4発――127mm速射砲が轟然火を噴き始め、天地とその合間にわだかまる闇を揺るがした。が、与えられた猶予の時間では10発程度しか空中へ砲弾を送り込むことが出来ない。続けて20mmバルカンファランクスの無人砲塔が数秒間、連続射撃することを許された。


 そして、4発の超音速空対艦誘導弾がぜた。

 2発は10km前後のところで炸裂した速射砲弾の弾片を受け、空中で四散。

 別の1発は『あきづき』が展張していた金属片の雲に突っ込んで自殺した。

 そして最後の1発は20mmバルカンファランクスの射撃を受け、『あきづき』の至近距離で弾頭をぶち抜かれて爆発。


「被害状況は!?」


 だがしかし、無傷とはいかない。

 高速の20mm機関砲弾が直撃しても、敵誘導弾が有する音速の運動エネルギーは容易に殺しきれるものではない。空中にぶちまけられた空対艦誘導弾の残骸は、高速で『あきづき』に突き刺さった。弾頭の破片が大戦果を挙げた後部20mmバルカンファランクスのレドームを蜂の巣にし、弾体の一部がヘリ格納庫の外壁に激突した。その他の小破片は『あきづき』の右舷側に無数の破孔を作り出した。


「他のフネは」


 他の第1護衛隊群所属の護衛艦もまた、よく健闘した。

『まや』・『こんごう』のSM-2による最初の迎撃と、『あきづき』の発展型シースパローの同時射撃によって40発以上の敵誘導弾撃破に成功しており、また『まや』・『こんごう』は第二次同時射撃を間に合わせることが出来たため、最終的に各艦に向かった空対艦誘導弾は1発から多くとも3発程度となった。

『あきづき』の他に、被害を出したのは『あけぼの』のみに留まった。『あけぼの』が装備するNOLQ-3電波探知妨害装置による攻撃を受けた敵誘導弾は、マスト上部に突っ込んで炸裂。多くの電子機器を破壊するとともに、無数の破片を『あけぼの』艦橋に降らせて多くの負傷者を出した。


 が、第1護衛隊群は凌ぎきった。

『あけぼの』はマスト・艦橋の損傷が著しく継戦能力を失い、『あきづき』もまた被害を受けたが航行不能に陥った護衛艦は1隻もなかった。さらに艦隊防空の要であるとともに弾道ミサイル防衛に対応する『まや』・『こんごう』の両艦を守りきれたことは、戦略的勝利を収めたと言えるであろう。


 そして自衛隊側は中国人民解放軍揚陸艦隊への航空攻撃に打って出ようとしていた。

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