第7話 再スタート
シェノは管理所をあらかた案内してくれた。
この管理所は銃器の倉庫と工場を合わせたような施設らしい。
今でも工場は稼働できるらしく、今ある資材だけで数万発の弾丸を製造できるとか。
銃そのものの製造も可能みたいだけど、その必要はなさそうだ。
なぜなら、倉庫には多種多様な銃が100丁は保管されているんだから。
ちなみに倉庫には装甲車という乗り物も置いてあるけど、これは目立ちすぎるので、しばらくは馬車で外に出よう。
管理所内には射撃場もあって、銃の練習ができる。
居住スペースには本棚があり、『テレビゲーム』とかいう旧文明の遊びもあって、娯楽は充実していた。
部屋は大きめの宿場よりもたくさんあるから、管理所はほとんど町と言ってもいいかもしれない。
問題はやっぱり食事。
あの謎ジェル以外に食料の備蓄はないらしい。
謎ジェルでも栄養満点! とかシェノは言ってたけど、食材は近くの町で買ってくるしかなさそうだ。
それと、大事なことが。
なんと管理所の所長になったことで、僕は管理AIの管理権を手に入れた。
これにより、僕はシェノ自身ではどうしようもない『AI設定』を、機械ひとつでいじれるようになったらしい。
ま、とりあえずは今までの設定のままでいいけど。
研究所案内を終えた僕は、リビングのソファにどっしり座った。
窓の景色は夜の景色に移り変わってる。
窓には山賊の奴隷という汚い格好の自分が写っていて、あれがこの研究所の所長だなんて、とても信じられないなんて思う。
同じくソファに座ったシェノは、にっこり笑って口を開いた。
「管理所を見て回るエル、なんだかちっちゃい子供みたいだったな~」
「な! ……否定できない」
たった今もワクワクしているのは事実だ。
こんなの、故郷を飛び出した前日以来のこと。
楽しく優しい時間につられて、僕は思わずつぶやく。
「僕、昔から夢があるんだ」
このつぶやきにシェノは飛びついた。
「夢? どんな夢?」
「……広い世界を見るために、世界を冒険するって夢。自分でも、ずいぶんと抽象的でバカな夢だと思う。おかげで冒険者からは無能扱いされて、挙句に山賊の奴隷にまで堕ちて、散々だ」
思えば、ゼノンに自分の夢を語ったのが全てのはじまりだった。
気づけば僕は冒険者ギルドを追われて、山賊の奴隷になっていた。
「でも、僕は夢を諦めたくなかった。そして、偶然が重なっただけかもしれないけど、僕は銃を拾い、シェノに出会い、山賊の奴隷を抜け出し、この管理所にきた」
こんな展開は一度だって想像したことがない。
「この管理所は僕の夢の世界みたいなところだ。僕の知らない広い世界が、目の前に広がってるんだから。もしかしたら、ここから夢の冒険がはじまるのかも、とすら思う。だから、ちょっと子供みたいにはしゃいじゃったんだろうな」
それが今の僕の正直な気持ち。
対するシェノは、なぜか神妙な面持ちで、吐き出すように言い放つ。
「旧文明は、夢見るような楽しい世界じゃないよ」
意外なセリフだった。
あんなに無邪気なシェノが、こんなに絶望に包まれたことを口にするなんて。
でも僕の気持ちは変わらない。
「シェノが言うなら、そうなんだろうな。だからって、旧文明は僕の知らない広い世界ではあるんだ。なら、僕は広い世界に飛び込みたい」
「……ホントに?」
「もちろんだ。それに、シェノのおかげで僕はちょっとだけ強くなれたし」
全部が自然に出た言葉。
シェノは小さく笑い、僕の隣にやってきて、体を寄せてくる。
「やっぱり、エルを選んで良かったのかも」
たったそれだけ言って、シェノは目をつむる。
体を寄せられたままの状態に、僕はどうすればいいのか分からない。
分からないままその場を動けずにいれば、僕はいつの間に寝落ちしてしまった。