第4話 デヴァステーター
近衛たちは、僕が何かしらのスキルで攻撃を仕掛けてくると思い込んでいる。
だからこそ6人は一斉に踏み込み、剣を振り上げた。
「死ねガキ!」
あふれんばかりの殺意が襲ってくる。
僕はスキル『動作予知』を発動し、6人の動きを見破った。
さすが近衛たち、2人が最初に斬りかかり、それを避けられても3人が追撃、最後の1人でトドメを刺すという、用意周到な戦い方だ。
これに対抗するため、スキル『瞬発力上昇』を発動。
一気に軽くなった体で近衛の剣を避ける。
あと少しで体に刃が当たる、というところで体をそらし、最初の2人の攻撃は回避した。
次に3人の追撃が迫るが、こちらも体をターンさせ、うまく剣と剣の隙間に入り込む。
避けるだけじゃ防戦一方だ。
ここで僕は2人の近衛の頭を銃弾で撃ち抜いた。
崩れ落ちる死体は他の近衛に寄りかかり、この隙に僕はバックステップで距離を取る。
「ナメるな!」
怒りに染まった近衛1人が、距離を縮めようとこちらに飛びかかってきた。
そんな近衛も、スキル『ロックオン』と銃の火力には敵わず、僕の放った銃弾に胸を貫かれる。
さらに、その1発の銃弾は近衛の胸を貫通した後、背後に立っていた近衛の腹をも撃ち抜いた。
「い、1発で2人を倒しただと!?」
「こいつ……ただのガキじゃないのか!?」
「何をしている! それでも近衛か? 相手が遠距離攻撃を仕掛けてくるのなら、何をすべきかくらい分かるだろう!」
「はっ!」
隊長に怒鳴られて、生き残りの近衛たち4人は一気に距離を詰めてきた。
遠距離攻撃には近接攻撃で対応、ってことか。
残弾数は9発。
貫通力を利用して戦えば、この場は切り抜けられるかも。
広間にいる近衛たちを半減させて自信がついた僕は、迫る近衛たちに叫んだ。
「死んでから後悔するなよ!」
そして僕は、あえて近衛たちに向かって突撃した。
呆気にとられた近衛たちの剣には、少しのブレが生じる。
いいぞいいぞ、狙い通りだ。
スキル『瞬発力上昇』を発動している僕の体は、その少しのブレを見逃さず、ギリギリの距離で剣先を避けた。
剣先を避ければ、目の前にあるのは焦った表情が張り付く近衛の顔だ。
すかさず銃口を近衛の頭に突きつける。
それも、頭を貫いた銃弾が背後の近衛も撃ち抜けるような角度で。
――ここなら!
引き金を引くと、勢いよく飛び出す弾丸。
弾丸は近衛の頭を貫き、さらに背後の近衛の目玉に食い込んだ。
よし、思い通りの結果になったぞ。
とはいえ、まだ油断できない。
正面からはもう1人の近衛が斬りかかってくる。
それだけじゃない。
「殺してやる!」
それは背後から聞こえてくる叫びだった。
――まずい、いつの間に背後をとられてた!?
避けるか? いや、敵に挟まれた状態で避ける場所なんかない。
――じゃあ盾を使おう!
近衛の死体を掴み、それを背後の敵に対する盾に。
背後の近衛の剣が仲間の死体を派手に斬り裂く間、僕は正面の近衛の頭に大穴をあけた。
すぐに振り返って、斬り裂かれた死体を撃つ。
死体を貫いた銃弾は、その向こうにいる近衛の腹まで食い散らかした。
これで広間には11人の近衛の死体が転がる。
――残弾数は6発。
「エルすごい! エルの銃使いの才能を見抜いた私もすごい!」
死体だらけの広間で、シェノは無邪気に胸を張っていた。
一方、近衛の隊長は数歩退き、先ほどまでのニタリ顔が嘘のように青ざめている。
「なんだ……どういうことだ……あり得ない! 銃は単なる祭器! 旧文明の祭器なんだ!」
「現実を受け入れろよ。これがお前の知らない銃の本当の姿だ」
「信じないぞ! なんのスキルを使った!? 稲妻か!? 光線か!? 熱線か!?」
「まだ自分が正しいと思い込むのか……」
「貴様! その見下すような態度はなんだ!? 最下層の人間が、無能の底辺が、近衛を見下すというのか! 許さ――ヒッ!」
銃口を向けた途端、近衛の隊長は情けない声を出した。
思わず僕はため息をつく。
――こんな人を殺して、その罪を背負うなんて、バカげてる。
だから僕は銃を下ろした。
でもそれは、この厳しい世界では間違った行い。
直後だ。
スキル『動作予知』が背後からのスキル攻撃を察知する。
すぐに地面に転がれば、頭上を稲妻が駆け抜けた。
稲妻に粉々にされた広間の扉の向こうには、スキル『稲妻』を放った1人の近衛と、剣を構えた2人の近衛の姿が見える。
どうやら根城内にいた近衛たちが集まってきたらしい。
「そっちが容赦しないなら、こっちだって!」
僕は地面に転がったまま、3人の近衛に向かって引き金を引く。
ただし、今度ばかりは焦りを隠せなかった。
3人の近衛を倒したとき、銃に残された弾丸は、たったの1発になっていた。
加えて近衛の隊長は裏口から逃げたのか、広間にはもういない。
「まずい、弾があと1発しかない」
「大丈夫だよ! 敵を全員倒す必要ないんだから! ほら、早く逃げよ!」
たしかにシェノの言う通りだ。
僕とシェノは窓から根城を脱出し、夕陽に染まった外に飛び出す。
でも、根城が根を張る場所は僕たちに最後の試練を与えた。
根城があるのは谷の底で、逃げ道はひとつしかない。
そのひとつの逃げ道を、近衛の隊長と7人の近衛たちが封鎖していたんだ。
仲間に囲まれた近衛の隊長は、随分と強気の表情。
「逃がさん! 貴様は絶対に殺す! 近衛を見下した人間は、目玉をくりぬき鼻を削ぎ、切り落とした耳を食わせ、腹をえぐり、四肢を斬り裂き殺してやる!」
相当にお怒りの様子だ。
困ったことに、僕の銃には彼らを倒せるほどの弾丸は入っていない。
どうすればこの場を切り抜けられる、と考えていると、シェノが僕の頬をつついた。
「ねえエル、実はね、レベルが上がって新しいスキルが解放されてるよ」
「新しいスキル?」
「うん! その名も『デヴァステーター』! 1発の弾丸をエネルギー兵器化させて、強烈な範囲攻撃を繰り出す大技! ただし、しばらく銃は使えなくなる!」
魅力的だけど、リスクも大きそうなスキルだ。
ま、考えてる暇なんてないんだけど。
「もう、どうにでもなれ! スキル『デヴァステーター』!」
叫んだと同時、両手で握った銃に幾何学模様の光が浮かび上がる。
銃を握る手は熱くなり、銃の内部からは低い機械音が鳴り響く。
数秒もすれば、銃口に赤い光が集っていた。
集った赤い光が一瞬途切れたとき、僕は本能的に引き金を引く。
銃口から撃ち出されたのは、歪な稲妻をまとった1本の赤い光線だ。
光線は近衛の隊長の胸に直撃すると、辺り一面に拡散する。
拡散した光が別の近衛や地面、谷の壁にぶつかれば、その瞬間に大爆発を起こした。
7人の近衛たちは、何重もの爆発と爆音の中に消えていく。
デヴァステーターの反動と凄まじい衝撃波に耐え、なんとか立ち続けた僕は、開いた口がふさがらない。
「なんだこれ……」
「1000年ぶりのデヴァステーターだ! うんうん! 久々に見るとド派手だね!」
爆発の後に残されたのは、ただ黒く焦されえぐられた大地だけだった。