第3話 銃使いの覚醒
銃を握る手に温かみを感じる。
体の奥では何かがうごめき、戦いの時を待っている。
それでいて体全体は軽い。
明らかに僕の体に変化が起きた。
驚きが表情に出たのか、シェノはおかしそうに笑う。
「思った通り、リンク4接続した途端に力が解放されたみたいだね」
「そのリンク4接続っての、一体何なんだ?」
「細かい話は後だよ。まずは自分のステータスを確認してごらん」
疑問は解消されてないけど、シェノの言う通りにしよう。
僕は倉庫に保管されていた、誰かの『ステータス板』を手に取る。
ステータス板の下真ん中に指を触れれば、文字や数字がずらりと並んだ。
『確認ステータス:エルデリア
レベル:12
スキル:ロックオン、敵察知、熱感知、瞬発力上昇、動作予知
特殊スキル:銃使い(常時発動)』
思わずステータス板を落としそうになった。
どうやら僕は、リンク4とやらに接続しただけで多数のスキルを解放していたみたいだ。
体に感じた温かみや、うごめく何かも、これが関係するんだろう。
にしても、レベルは倍になってようやく12。
レベル的には冒険者初心者を卒業した程度。
ただ、シェノはあるスキルを見て目を丸くしていた。
「銃使い!? 特殊スキル持ち!? ウソ!? 想定外だよ!?」
「な、なあ、銃使いってどんなスキルなんだ?」
「レベルに関係なく銃器の威力を発揮する特殊スキルだよ! 簡単に言えば、レベル概念がいらなくなる! レベル12もレベル999も一緒!」
「へ!? それ強過ぎだろ!?」
「伝説級のバランスブレイカースキルだね! うんうん、さすが、精神負担が強過ぎて一般の人じゃ接続した途端に苦しむようなリンク4に、すんなり接続できたエルだよ!」
「ちょっと待て。そんな危ないものにいきなり接続させたのか?」
「だってエル、自然状態でシステムに接続できるんだもん。だから大丈夫かなって」
「そんなテキトーな……」
急にシェノが怖く見えてきた。
ま、まあ、結果は悪くないどころか最高だったんだし、問題ないだろう。
それよりもだ。
いろいろと準備をしている間に、山賊たちは近衛に殲滅されたらしい。
山賊頭の足元には、近衛が投げつけた山賊たちの頭部や四肢が転がっている。
完全武装した山賊頭は、反面、体を震わせ引きつった表情をしていた。
対面に立つのは、長く鋭い剣を構えた、髪型をきっちりと整えている若い男だ。
銀色の鎧に白のマント、立派な紋章を見る限り、きっとあれが近衛の隊長。
近衛の隊長は、表情を歪ませ言い放つ。
「民を苦しめる下賤な輩め。覚悟しろ」
「クソッ! 腐った近衛が正義面しやがって! 今さら民を救うとほざくのか!? ふざけるな! 俺たちはな、お前らが自由に人を殺すのと一緒で、自由に盗みをやってるだけだ!」
「おや? そこまで分かっていて、なぜ分からない? 民など眼中にない。我らは民を救う気などない」
「ま、まさか……お前らがここに来たのは……」
「我らはな、悪人を殺すのが楽しくて仕方がないんだ」
気味の悪い笑みを浮かべた近衛の隊長に、山賊頭の顔は真っ青だ。
その真っ青な顔も、隊長の素早い剣技の前になす術なく、すぐに地面に落ちる。
首をなくした山賊頭の胴体は、近衛の隊長とその部下によって切り刻まれた。
「見ろ。腹からたんまりと肉が出てきたぞ」
「山賊如きが生意気な食事を」
「代わりに部下の頭でも詰め込んでやれ」
「ハッハッハ! それはいいアイデアだな!」
狂ってる。
近衛の連中、死体で遊んでやがる。
どうしてあんなヤツらが近衛なんかに……
「倉庫を見てこい。貴族連中の財宝があるはずだ」
「はっ!」
山賊との違いが分からない近衛の連中は、僕たちがいる倉庫に向かってくる。
怒りでいっぱいの僕は、今すぐにでも倉庫を飛び出し、近衛の連中に一泡吹かせたい気分だ。
対照的に、シェノは冷静さを失ってはいなかった。
「銃器使用許可は出てるから、その拳銃で今すぐ戦えるよ。銃の使い方は簡単。その安全装置を切って、スライドを引いて、敵を狙って、引き金を引くだけ。でも気をつけてね。弾丸は15発しか入ってないから」
言われた通りに銃を操作し、とりあえず銃を構えてみる。
シェノは苦笑いして、僕の構えを直してくれた。
銃口が向くのは倉庫の扉。
そして扉の向こうには、3人の近衛。
戦いがはじまる前に、僕はスキル『敵察知』を発動した。
同時に感覚が研ぎ澄まされ、壁の向こうにも人影が浮かぶ。
どうやら近衛の連中は、広間に12人、その他根城内に6人、外に4人いるらしい。
弾丸の数より敵の数は多いけど、とりあえずこの場を逃げられればいいんだ。
「落ち着け、今の僕ならできる」
自分の力を信じて。
ダメなら死ぬだけだ。
3人の近衛は、ついに倉庫の扉に手を掛ける。
扉は勢いよく開かれ、銀色の鎧に似合わぬニタリ顔が並んだ。
彼らは銃を構えた僕を見るなり、ケラケラと笑った。
「あん? おいおい、こんなところに生き残りがいるぞ」
「見ろ、銃なんか持ってる」
「アッハハ! そんな貴族のおもちゃで戦う気か?」
「おお~怖い怖い」
そうやって笑っていればいい。
それがお前たちの最期の笑顔だ。
僕は近衛の1人の眉間に銃口を向け、引き金を引いた。
直後、銃口が一瞬だけ光り、1発の弾丸が破裂音を伴って飛び出す。
気づけば1人の近衛は、眉間から血を吹き出し、その場に仰向けに倒れた。
銃の反動は強かったけれど、今の僕の体は大昔から銃を使っていたみたいに余裕を保ってる。
対して近衛たちは、大きな破裂音と仲間の死に様に言葉を失う。
レベルの差は歴然としてるはずの僕が、たった1発の弾丸で近衛を倒したんだ。
根城が沈黙に包まれるのは当然だろう。
沈黙が破られたのは数秒後。
「き、貴様ぁぁあ!」
慌てて剣を抜き、顔を真っ赤にした2人の近衛が僕に斬りかかってきた。
けれど、スキル『動作予知』のおかげで、次に近衛の剣がどこに振られるかは見抜ける。
それ以前に、近衛が剣を振る前に引き金を引けば終わりだ。
同時にスキル『ロックオン』による補正で、照準を定めるのは簡単。
流れるように銃口を動かしながら引き金を2回引けば、2人の近衛は息絶えた。
山賊頭の死体で遊んでいた近衛の隊長たちも、さすがに余裕でいられなくなったらしい。
「なんだあいつは!?」
「さっきの攻撃はなんだ!? 何かのスキルか!?」
「怖気付くな! こけおどしだ! 剣を抜け! 近衛に歯向かったこと、後悔させろ!」
「はっ! スキル『体躯強化』!」
立派な剣を握り、スキルによって身体機能を強化させる近衛たち。
僕は銃口を近衛たちに向けたまま、強気で言った。
「僕は銃が使える! こいつらみたいに死にたくなければ僕を見逃せ!」
床に転がる3人の近衛の死体も合わせて、精一杯の脅しのつもりだった。
でも、頭のイカれた近衛たちにとって、僕の言葉は脅しにならなかったらしい。
近衛の隊長は吹き出しながら僕を見下す。
「貴様の手の内が我々にバレていないとでも? 教養のない底辺に教えてやろう! 銃が旧文明の武器などというのは作り話だ! 銃は単なる飾り物であり、祭器でしかない! 貴様の先ほどの攻撃は単なるスキルによるハッタリ! 不意打ちは二度は続かぬぞ!」
これでもかというほどの嘲笑を浮かべた近衛の隊長。
僕の背後では、シェノがクスクス笑っている。
「銃が祭器って、儀仗隊のこと言ってるのかな……ププ。ねえエル、本物の銃がどんなものか、あのおバカさんに教えてあげようよ」
「ああ」
教養があると思い込んでいるヤツに、冷酷な事実を突きつけてやろう。