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最期ノート―あなたは最期に何を望みますか―  作者: ゴサク
一章 長谷部直之の場合―あの夏の少女―
8/11

天原という男

 純白の世界から漆黒の世界へ。

 俺の命は尽きようとしている。


 何だかとても眠い。

 頭の中で今まで生きてきた記憶が駆け巡る。

 これが走馬灯という奴か。

 その中でも一際輝く記憶があった。


「お兄ちゃん!」


 そうだ、この記憶は


 茹だるような夏に出会った、少女。

 展望台で目を輝かせながらサンドイッチを食べる、少女。

 俺の事を「好き」と言ってくれた、少女。

 いつも真昼の太陽の様に眩しい笑顔を浮かべた、少女。


 俺にはその少女は眩しすぎた。


 思い出した。

 思い出してしまった。


 遠い日に交わした、約束。

 もう果たすことが出来ない、約束。


 目の前が漆黒から再び純白へ。


「真昼ちゃん……」


 俺は意識を手放した。


 ……


 目を開ける。

 目の前には純白の世界が広がっていた。


「ここは……」


「あ、起きましたね?」


 俺の目の前に男がヌッと顔を出した。


「うおっ!」


 ガバッ!


 俺は驚き勢い良く起き上がる。

 どうやら俺は真っ白な天井を見上げていたようだ。


 起き上がって回りを見渡すと、天井と同じく真っ白な作りの大きな部屋が広がっていた。

 部屋の奥には部屋の色とは正反対の黒い門の様なものがあった。


「まずは、おはようございます」


 部屋の中央に備えられたテーブルから男が話しかけてきた。


「まぁ取り敢えずこちらへどうぞ」


 男がテーブルに付くよう促す。


「色々と聞きたいこともあるでしょうがまずは一杯どうですか?」


 テーブルの上には白いティーカップが置かれ、男が琥珀色の液体を注ぐ。


「あ、あぁ……」


 俺は何が起きているか解らず、半ば蛍光灯に集まる虫のようにテーブルへフラフラと向かう。


「どうぞ、元気が出ますよ」


 男に進められ、俺はティーカップの中の液体を口にした。

 男が言う通り、仄かな甘みがし、元気が湧いてくるようだった。


「落ち着きましたか?」


「えぇ……」


 男は俺が落ち着いたことを確認すると、話し始めた。


「まずは自己紹介」

「私、この施設を管理している天原と申します」


「えっと……俺は……」


 男が遮る。


「長谷部直之さん、ですね?」


「は、はい」


「貴方のことは存じておりますよ」


「は、はぁ……」


 何故この男は俺の事を知っているのだろうか?

 そんな疑問を察したかの様に男は答えた。


「貴方の人生はこのノートで見せていただきました」


 男の手には一冊のノートがあった。


「人の人生はですね、このノートに収まるくらい案外中身が無いものなのですよ」


「……」


 人生が書かれたノート?

 そんなものがこの世に存在するのだろうか。

 この疑問にもすかさず男は答える。


「あるんですよ」

「まぁ「この世」にはありませんがね」


 男の言葉の意味にハッと息を飲んだ。


「そうです、ここはいわゆる「あの世」という奴です」

「まぁ厳密に言うとあの世の一歩手前ですが」


 男は続ける。


「貴方は確かに死にました」

「しかしたまに貴方のような人がいるんですよ」


 男は手のなかのノートを開く。


「ほら、見てください」


 ノートをめくっていくと最後のページだけ真っ白だった。


「私は人の人生が記されたノートの管理を行っているのですが……最後に1ページ余っちゃってるんですよ」

「そういった人の「最期の1ページ」を埋めるのが私の仕事です」


「……」


「こんな風に最後に1ページ余る理由というのは人生の最期で何か強い後悔を感じた時にページが捩じ込まれるからなんです」

「つまり」

「あなたが死に際に抱いた後悔を取り除くことが私の仕事という訳です」


「……」


 言葉も出ない。

 そんな突拍子もないことがあるのだろうか。


「……にわかには信じられませんね」


「大体皆さんそうおっしゃいます」


 男は苦笑しながら続ける。


「貴方のノートを見せていただきましたが……これなら分かりやすいですね」

「日向真昼さん、ですね?」


 男の口から出た名前にドキッとする。


「そうでしょうそうでしょう」


 男は頷きながら、信じられない言葉を口にした。


「会いに行きますか?」


「え……?」


「会いに行けますよ」


 男は事も無げに続ける。


「まぁ、あちらからは見えませんがね」

「所謂幽霊みたいなものだと考えてもらって結構です」

「どうしますか?」


「俺は……」


「まぁそう難しく考えずに、その後の事は会いに行ってから大丈夫ですので」


「……解りました」


「会いに行きます」


「そうですか」

「それでは目を閉じてください……」


 俺は目を閉じる。


「1分程したら目を開けてください」

「お帰りの際は頭の中で私を呼んでください」


 俺は2度頷いた。


「それでは、いってらっしゃいませ」

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