表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最期ノート―あなたは最期に何を望みますか―  作者: ゴサク
一章 長谷部直之の場合―あの夏の少女―
4/11

ピクニック

「終わったー!」


「よーし! それじゃあ早速ピクニックの準備をしようか!」


「うん!」


 午前中の目標である夏休みの宿題にも一区切りつき、俺達は台所へ向かった。


「お母さん! おべんと出来てる!?」


「はいはい、出来てますよ~」


 目の前のテーブルには大きめのバスケットと水筒が置いてあった。

 写真の機材と併せて持つにはちょっと大変そうだ。


「ねぇねぇ! 中身は何々!?」


「それはあっちで開けてからのお~た~の~し~みっ! ねっ?」


 京子さんが勿体振る素振りでバスケットと水筒を渡してくる。


「それじゃあ、娘をお願いしますね?」


「解りました」


 俺はバスケットと水筒を受けとり、部屋へと戻った。


 ……


「これで全部かな……」


 荷物が増えると収集が付かないので今日はカメラ一台だけ持って行くことにした。


「お兄ちゃ~ん早く早く~!」


「今行くよ」


 俺はバスケットを右手に、水筒を左肩に、カメラを首に下げた。


「よ~し! しゅっぱ~つ!」


 真昼ちゃんは初めて出会った時と同じく麦わら帽子を被り、髪を後ろで止めていた。


「あんまり急ぐとバテちゃうよ」


「大丈夫! へーきへーき!」


 相変わらず真昼ちゃんは元気にズンズン進んでいく。


「本当に大丈夫かなぁ」


 俺はこれからの道のりを考え、少し心配になった。


 ……


 小一時間ほど歩くと、山の展望台へと続く道の前に到着した。


「大丈夫?真昼ちゃん、疲れてない?」


「まだまだ元気バリバリだよー!」


 荷物を持ってないとはいえ、真昼ちゃんの元気には驚かされた。

 常に俺の前を歩き続け、一度たりともペースを落とすことはなかった。


「ここから先はちょっと道が解らないから案内お願いね?」


「まっかせなさい!」


 真昼ちゃんはえっへんと聞こえそうなくらい胸を反らす。


「それじゃあ、いざ突撃ー!」


 真昼ちゃんは先ほどにも増して張り切っているようだった。

 俺も真昼ちゃんに負けないよう気合いを入れ直した。


 ……


 展望台までの道はある程度舗装されていたので、特に苦もなく進むことが出来た。

 しかし荷物の重量は確実に体力を奪っていたようだ。

 展望台に到着する頃にはかろうじて真昼ちゃんが見えるような距離まで離れていた。


「最近運動してなかったからなぁ……」


 俺は自分の運動不足を呪った。


「お兄ちゃん遅ーい!」

「わたし待ちくたびれちゃったよ~」


「ゴメンゴメン……」


 実際には真昼ちゃんが展望台に到着してから5分程しか経っていないはずだが。

 ひとまず展望台に設置してある木製のテーブルに荷物を下ろし、水筒の中の麦茶をあおった。


「ふぅ~……さて」


 時間を見ると午後の1時を過ぎた辺りだった。


「それじゃあ早速お昼にしようか」


「うん! 中身は何かな~」


 バスケットを開くと色とりどりのサンドイッチ、タッパーに入った唐揚げに、カットフルーツ。

 ここまでして貰うのは何だか悪いような気がした。


「うわぁ~」


 真昼ちゃんは目を輝かせながらバスケットの中を見回している。


「ねぇねぇ! 食べよ食べよ!」


「そうだね」


 俺はサンドイッチを1つ手に取り頬張った。

 中身はオーソドックスな玉子とハムだったが、荒く潰れされた玉子の食感が心地よく、やや薄いハムを数枚重ねたものも食べごたえがあった。

 その他のサンドイッチも一手間加えてあり、更に申し訳ない気分になった。


 持ってきた弁当を粗方食べ終え、真昼ちゃんは登ってきた疲れかベンチで眠ってしまった。

 俺も少し眠くなってきたが、それではここまで来た意味がない。

 俺は展望台の端で身を乗りだし、風景の写真を撮り始めた。


「……なるほど」


 流石に展望台からの眺めは撮りごたえがあった。

 周囲に遮蔽物がない分ありのままの元風景を捉えることが出来たと思う。


「……しかしなぁ」


 これでは『唯一性』という点では少々物足りない。

 写真の世界はとにかく観てもらわなければ意味が無いのだ。


「……まぁここではこれが限界か……」


 小一時間ほどで粗方周囲は撮ってしまったので、真昼ちゃんが起きるまで待つことにした。


 ……


「あ……お兄ちゃん」


 それから20分程してから真昼ちゃんが目を覚ました。


「やっぱりちょっと疲れたかな?」


「そんなことないよ! 元気元気!」


 真昼ちゃんはガッツポーズを作って見せる。


「それじゃあ遅くなる前に帰ろっか」


 俺は帰り支度を済ませ、ベンチから立つ。


「待って」


 真昼ちゃんが歩き出そうとする俺を遮る。


「お願いがあるんだけど」


 少し真剣な表情で真昼ちゃんが続ける。


「その……お兄ちゃんと一緒に写真をとりたいなーって……」


 真昼ちゃんの頬が気のせいか少し赤い。


「ほ、ほら、せっかくだから思い出に1枚!ダメ?」


 何だ、そんなことか。


「いいよ、一緒に撮ろうか」


「いいの!? やったやった♪」


 俺はカメラのセルフタイマーをセットし、カメラの前に立った。


「ほら、おいで」


「うん!」


 真昼ちゃんは俺の前に飛び込んできた。

 てっきり隣に来るものだと思っていたので少し驚いた。


「えへへ……」


 俺の前に真昼ちゃんが立つ形になってしまったがまぁこんなのもいいかな。


 カシャッ


 シャッターが切られた。

 この写真が一夏の思い出になれば良いな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ