表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最期ノート―あなたは最期に何を望みますか―  作者: ゴサク
一章 長谷部直之の場合―あの夏の少女―
3/11

3人の食卓

 荷物を運び込んだ後、家の施設場所などの説明を受け、晩飯まで時間があるので外を少し歩いてみることにした。


 京子さんによるとここから20分ほど歩けば商店街、商店街を抜けて1時間程歩けば小川があるそうだ。

 更に商店街の出口から左に曲がれば山の展望台に続く道があるらしく、写真を撮るにはいいもしれない。


 しかし展望台までは結構距離があるらしいので、今日の所は商店街までの道のりで構図がいい場所がないか散策してみた。


 ……


 商店街までの道には田んぼくらいしかなく、どうもいい構図が浮かばなかったので、真昼ちゃんの家に戻ることにした。

 時間もそろそろいい時間だろう。


 家に戻るとなにやらいい香りが漂ってきた。

 この香りは……味噌汁かな。


「ただいま戻りました」


 バタバタバタ……


「おっかえりー!」


 引き戸を開けると真昼ちゃんが出迎えてくれた。


「ご飯出来てるから一緒に食べようよ!」


「こらぁ~真昼ちゃん」


 台所から京子さんが顔を出す。


「直之さんはお客さんなのよ~」


「いえいえ、俺は大丈夫ですよ……一緒に食べよっか、真昼ちゃん」


「いいの! やったぁ~!」


 真昼ちゃんは満面の笑顔で喜んてくれた。

 表情がクルクル変わる様子を見ていると自然と頬が綻ぶ。


 俺は手を洗い、食卓に着いた。

 真昼ちゃん(ちゃっかり京子さんも)と手を合わせる。


「それじゃあ、いっただっきま~す!」


「頂きます」


「はい、召し上がれ~」


 晩飯の献立は、ごはん、茄子と若布の味噌汁、ほうれん草のごま和え、鮭の塩麹焼き、どれも独り暮らしでは滅多に食べられない代物なので、自然と唾がわく。

 味も抜群によく、ついついごはんを2杯もおかわりしてしまった。


「こら真昼ちゃん! ちゃんと食べなきゃダメよぉ?」


「えぇ~だって苦手なんだもん」


 どうやら真昼ちゃんは茄子と格闘しているようだった。


「ど~しても食べなきゃダメ?」


「ちゃんと食べないと大きくなれないわよ~」


 京子さんが真昼ちゃんを軽く嗜める。


「真昼ちゃん、せっかくお母さんが作ってくれたんだから、頑張ろう?」


 つい、そんな言葉が出てしまった。

 しまった、家庭のやり取りに口を挟んでしまったか。


「お兄ちゃんがそういうなら……食べる」


 真昼ちゃんが俯き気味でポツリと返事をする。

 よかった、大丈夫みたいだ。


「あらあら、やけに素直ねぇ」


 京子さんはキョトンとしている。


「いつもはなかなか私の言うこと聞かないのに……さてはお兄ちゃんにいいとこ見せたいのかなぁ~?」


 京子さんがイタズラっぽく真昼ちゃんをつつく。


「ち、違うもん! ほら、食べたよ!」


 真昼ちゃんは顔を真っ赤にしている。


「はいはい、エライエライ、ウフフ……」


「お母さ~ん」


 2人のやり取りを見ていると本当に姉妹のようだった。


『いいなぁ……こんな食卓も』


 俺はそんな2人を眺めながら晩飯を堪能した。


 ……


 この町に滞在してから数日経った。


 ある日の朝、俺は布団のなかで微睡んでいた。

 布団の感触に起きる気力を吸いとられているような感覚がした、が、


「お兄ちゃーん! 起っきろー!」


 早朝から大音量の目覚まし攻撃。

 どうやら耳元で真昼ちゃんのハイテンションな大声が炸裂したようだ。


「な、な、何? 何? どうしたの!?」


 流石に俺も飛び起きざるを得なかった。


「あのね、お母さんが朝食出来てるから起こして来いって」


 どうやら寝過ごしたようだ。


 目の前には真昼ちゃんの屈託の無い笑顔。

 これでは大音量に対する抗議もできない。


「何だ……あぁ……解った、準備するよ」


 俺は歯磨きと洗顔を済ませ、寝癖を整えてから食卓についた。

 食卓には真昼ちゃんと京子さんと3人。


 朝食の献立はトースト、ベーコンエッグ、サラダ、ヨーグルト。

 真昼ちゃんはサラダと格闘しているようだったが、頑張って完食したようだ。


「あらあら……ウフフ」


 京子さんは意味深に微笑んでいた。


「所で直之さん」


 朝食を終え、満腹感に浸っていると京子さんが話しかけてきた。


「本日のご予定はどのように?」


「そうですね……」

「今日は山の展望台に行ってみたいと思っています」


「わたしも行きたい!」


 すかさず真昼ちゃんが反応する。


「だ~めよ真昼ちゃん」


 まぁ流石に数日前に会ったばかりの人間に娘を預けるのはなあ……


「夏休みの宿題があるでしょ?」


 そっちですか。


「じゃあお兄ちゃん勉強教えてよ!」


「こ~ら真昼ちゃん?」


 京子さんが少し強めに真昼ちゃんを嗜める。


「いえいえ……俺はいいんですよ、泊めてもらってますし」

「しかし……いいんですか?最近会ったばかりの若造に娘さんを預けて」


 京子さんは少し考える素振りをし、はっきりとした口調で答える。


「お会いしてから今までの直之さんの雰囲気といいますか……あなたが何か間違った事をするとは思えないので」

「それに娘もなついているみたいですし……ウフフ」


「しかし……」


 京子さんは続けた。


「まぁ何か間違いがあっても連絡先等々頂いておりますので……な~んて」


 京子さんはちょっと意地悪っぽく言った。


「……解りました。娘さんをお預かりします。」


「え~っと……つまり……」


「それじゃあ午前中は夏休みの宿題、午後から山の展望台に行くってことでいいかな?」


「いいの!? わ~いピクニックだピクニックだ!」


「ピクニックねぇ……それじゃあお昼はお弁当でも作りましょうか!」


「やったぁ!」


「それじゃあ頑張って夏休みの宿題やろっか!」


「うん!」


 こうして俺と真昼ちゃんでピクニックもとい写真撮影に行くことになった。

 降って湧いた思いがけない展開。

 俺も年がらになく楽しみに思う気持ちを押さえられないでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ