王子の僕がスタイリッシュに婚約破棄され続けて、おっさんになってしまった話
場末の居酒屋の片隅で、唐揚に焼酎で一人反省会をしていると感慨深い気持ちになる。35歳独身。髪の毛に白髪も混じり誰からみても普通のおっさんだ。
しかし、僕はこの国の王子だ。プリンスだ。けれど
も、この店で飲むのが好きだ。城にいると世話をされるわ、同情されるわで、ここの方がよっぽど落ち着く。周りの喧騒も適度に心地よい。
僕がこの店に来たのは、昨日婚約を破棄されたからだ。もう15回目だ。普通じゃありえない。仮にもこの国の王子。相手も貴族の子女から選ばれている。もう王妃に見合う同年代の女性は誰も居なくなってしまった。
僕から断ったのは最初の一回だけだ。それ以降は全て相手から破棄されている。
「アイドルになるので貴方だけのものにはなれません。」
とか、
「魔王を倒しにいくので……」
とか、
「宇宙からメッセージを受け、使命が出来ました。」
とか……
理由は様々で妙なものも多かったが、皆、実にスタイリッシュだった。今となってはよい思い出かもしれない。年のせいだろうか。
今回も仕方なかった。相手はかなり仕事のできる人で、両立が難しいと悩んでいた。僕は好きならば続ければ良いと伝え婚約に至った。しかし、彼女は仕事に人生を賭けたいと、それは素晴らしい婚約破棄を説明するプレゼンをしてきた。新たなビジネスチャンスがあり、逃すわけにはいかないと。そのスタイリッシュさに僕は納得した。
焼酎のボトルが半分になった頃、そもそも自分は結婚したいのか自問自答していた。今回も同じだ。こんな男だからダメなのだろう。
ボトルが無くなる頃、隣に若い女性が座ってきた。どこかでみたような顔だが思い出せない……
彼女は空のコップを差し出してくる。
「あの私、今日で20歳になりました。お酒も結婚も許される年齢です!」
その可愛らしい発言に、おっさんの余裕を見せて、最後の一杯を注ぎ乾杯する。
彼女と話をしている間に思い出した。この子は僕が20歳の初めての婚約披露会で泣き出した5歳の公爵家の女の子だった。王子が好きだと。あの時は僕もまだ若く、好きでも無い人との婚約に納得していなかった。
「僕はこの子を泣かせてまで、結婚は進められない。皆に祝福されたい。」
相手は恥をかかされたと婚約を破棄してきた。
…………
その後、僕は年の離れたその公爵家の女性と結婚した。結婚を申し込むと彼女は大喜びだ…った。
そんな僕はいつまでも、彼女の15年に渡る裏工作など知る由も無く――
この国の法律では、結婚もお酒も20歳から。