百九十四日目 竜を求めて西へ……
キリアヘインから死者の泉に向けて派遣してくれる人員の数は、俺が思った以上に多かった。各神殿から若い神官、もしくは雇った冒険者など、かなりの人数を確保してくれていた。
特にメガンとマイオスの神殿はやる気で、かなりの人数を拠出してくれた。メガン神殿の神官には、無料診療で助けてくれた人が多数いて、俺としても心強い。
数えて見ると、十の神殿から二百人近くもの人が集まった。これだけの大所帯となると、移動も大変となる。幾つもの馬車が用意され、辺境に滞在するための物資だけでも膨大だ。
だがノロノロ移動している暇はない。メガン様がくれた祭壇は、アンデッドがうじゃうじゃいる森の目前にある。いつ破壊されてもおかしくないのだ。速やかな移送が求められていたので、俺は計画を立てて移動することにした。
まず移送前に、あらかじめ死者の泉に設置された祭壇の周りに居るアンデッドを一掃しておく。ありがたいことに、泉の周りにはゾンビしかいなかった。だが数だけは凄まじい。聖水で満たされた池ばかりだというのに、亡者の森の奥から延々と湧いて出てきている。こいつらをターンアンデッドを連打して、駆逐した。
スペースさえ確保すれば話は早い。次は戦闘力がある人間から移送すればいい。神殿が用意した冒険者、神官戦士の順番に俺は瞬間転移で死者の泉に送り込んだ。神官が『門』の神聖魔法も使わずに大量の人を遠くに飛ばす様は、驚異的らしい。
まあ、これは俺が貰った能力だから、チートだけど。
送り込んだ戦闘要員がゾンビの侵入を防ぐ間に、残りの神官や非戦闘要員も、現地に飛ばす。そして物資を泉の南に位置するノーザテインに移動して、完了だ。俺も死者の泉へと再度移動する。
「ご苦労さまです。皆さんの様子はどうでしょうか?」
「順調です。こちらはきっちりと守備が固められました」
人の移送で忙しかった俺の代わりに、ヴォルフが指揮を取っていてくれたのだ。冒険者達の配置を指示し、神官戦士達との折衝も行ってくれている。
俺が人をいっぺんに全員運べれば良かったのだが、どうも多くの人員を一気に移動させると、大量のエネルギーを消耗するようなのだ。なので、何回にも分けて、瞬間転移しなくてはならなかった。俺の代理として、ヴォルフは上手く人をさばいてくれた。
群れを成す大量のゾンビに、武装したグループがチームを組んで対応している。泉に近寄らせないように、寄ってくる相手を倒してくれている。
「聖女様、我々は何をすれば……」
「泉を浄化しましょう」
年老いて、少々偉そうなオースフェリアの神官が声をかけてきた。俺は用意しておいたバケツをアイテムボックスから取り出し、近くの泉から汲む。
「祭壇は常に聖水を作り出していますが、その量が浄化できるより早く、アンデッド達が飛び込んで泉を汚染しています。泉の水を汲んで『浄化』して、『祝福』しましょう」
「こ、この量をですか!?」
「魔力を使い切って、神聖魔法が使えなくなったのならば、祈りを捧げましょう。我らの祈りを聞き届けて、神々が祭壇に力を与えてくれるでしょう」
俺はなるべくフレンドリーに、老いたオースフェリアの神官に声をかけたが、唖然としているようだ。周囲の人間も同様に立ち尽くしている。
あれ? そんなに難しいことか?
「はい、一つずつ『浄化』しましょう。早めに魔力を使い切れば、それだけ早く休めます」
カルムーラが鋭く声をあげると、神官たちが動き始める。トップ級の元娼婦の美人が言うと説得力があるのだろう。
人々はバケツに水を汲んで祭壇に入れ、次々と『浄化』の魔法で綺麗にしていく。『祝福』がかけられる量は微々たるものだが、祭壇自体が聖水を作り出す能力があるので、結構な量を聖水に作り変えられるだろう。
「さて、後ほど戻りますが、私は行かねばなりません」
「えっ!? ど、どちらに?」
俺の宣言に、俺と同じメガンの神官が驚きの声をあげる。
「西に竜を探しに行かねばなりません。神の啓示です」
ニヤリと俺はドヤ顔を決めてみせた。漠然としたものだが、神託を貰えたのだから、少しは聖女っぽいだろう。
日中に俺とヴォルフ、カルムーラは西に旅をすることにした。ゴームには、引き続き泉の浄化と、防衛を取り仕切って貰う。戦いと浄化の両方を監督できるということで、ゴームの人選にはみんな納得してくれたようだ。
俺とヴォルフ、カルムーラは、夜間はノーザテインに戻ることにしている。アンデッドが活発なのは、夜だからだ。先日のようにヴァンパイアやスケルトンリーパーが大挙してやってきたら、いかに冒険者や神官の人数があっても、たまったものではないだろう。俺はともかく、凄腕のヴォルフが居れば、ゴームと合わせて安心というわけだ。
本来ならば祭壇近くに見張所などを立てて、防衛したいところだが、アンデッドがどれだけ大挙してやって来るかわからない。ならばせめて神殿があるノーザテインに拠点を置いた方がいいという意見に、ゴーム達も賛成してくれた。神官たちも亡者の森のすぐそばで生活するのは嫌なようで、賛成してくれた。
神官たちは朝に祭壇に移動して貰い、魔法で魔力を使い切ると同時にノーザテインに撤収してもらう。冒険者達は朝から昼過ぎまで祭壇を防衛してもらい、ノーザテインに帰宅してもらうこととなった。無理ない防衛計画で、人的資源を大事にして貰った。死者の泉が穢されることになるが、気長にやることにする。アンデッドが大量に徘徊している亡者の森を浄化するなんて、いつまでかかるかわからないのだから、気長にやらないといけないだろう。
さて西に街道に沿って俺は旅を再開した。ダルキス王国の北部、国境沿いに沿って移動するのだ。途中には小さな農村が多く、肥沃な平地が多いダルキスの豊かさを見るようだ。村を見るたびに俺とヴォルフ、カルムーラは寄って、竜の情報を収集したのだが……。
「なんか山賊が多くありませんか?」
「多いですね」
途中で立ち寄った村の神殿前で俺が苦笑すると、ヴォルフはため息をついた。竜の話などは聞かないが、道中で山賊が出るから気をつけろと、村人が忠告してくれたのだ。神殿に寄進して、村人の病気や怪我を治したところ、随分と親身になってくれる。まあ、おっとりしたリモーネの姿だと、山賊にやられる姿しか想像できないのだろう。
「西で竜を探せと言っても、どれだけ先なんでしょうか。西には幾つも国がありますし」
「神が仰られたことですので、想像もつきませんね」
ヴォルフの言う通り、この大陸の西には広大な大地が広がっており、無数の国があるらしい。俺が目覚めたコーナリア王国は西部諸国の最も東にある辺境だったのだ。きちんとした地図が無いので、どうもいまいちピンと来ないな。
「それでは引き続き西に向かいますか」
「いや、少し待っていて下さい」
旅を続けようとするカルムーラを、俺は引き止める。
「山賊が居るというのは聞き捨てなりません」
「成敗されるのですか?」
「いえ、ちょっと祭壇を授けて頂いた際のエネルギーが回復しきれていないものでして。出来れば吸収できる機会に吸収しておきたいんです。成敗はついでということで」
聖女のリモーネから、村娘のリオーネに瞬時に切り替えた俺に、カルムーラは目を瞠る。別に聖女でも食いついただろうが、村娘の方が餌としては上だろう。
「なんというか……未だにリモーネ様がサキュバスというのが信じられないのですが……」
「私も同じですよ、それは。サキュバスとして生まれて一年も経っていないのですから。それでは、少し失礼します」
「お一人で行かれるんですか?」
カルムーラは心配そうな顔をするが、ヴォルフが首を横に振る。
「リモーネ様はヴァンパイアでも力負けしていませんでした。人間、それも山賊程度は敵にもならないかと」
「そういえばそうでしたね……その儚げな容姿に騙されてしまいます」
「それでは行ってきます。戻るまでゆっくり休んでいて下さい」
手をヒラヒラと振って、俺は歩き出す。さてと、人間から絞り尽くすのは久しぶりだけど、どれだけエネルギーが得られるかな。




