九日目 オーク狩りの報酬
【リン】
「いやー、食った食った。1ヶ月分はエネルギーを貯めれたな」
オーク10匹分の精気を吸収し、俺は大満足だった。全部吸い取るとミイラになっちまうので8割で止めたが、それでも人間よりはるかに脂ぎっていて、精気を吸う相手としては最高だった。
色気のある村のムチムチ未亡人というコンセプトで、第三の化身であるリオーネを作って大正解だった。戦闘力を落として色気とプロポーションに割り振ったおかげで、オークの食いつきがいいこと。森で彷徨ってわざと捕まったが、オークはアホだったんで、少しも疑いを持たなかったな。
「でも危なかったな」
誤算だったのは、シフィールちゃんという先客が居たことだ。
いざ乱暴される段階で、サキュバスが持つフェロモン能力で俺のみに注目を集めて、彼女を守れたのは良かった。しかしリオーネを助けて欲しいと言われたときは、正直言って参った。
リンもリオーネも俺だから、同時に出ることが出来ないしな。サキュバスとか修行すれば、もしかして分身とか出来るようになるのだろうか。変化を応用すればできそうではある。少し研究してみるか。
エネルギーも溜まったし、これで遠出できると喜んだのもつかの間、俺は凹む。
オークに集団で乱暴されて、喜ぶなんて……。サキュバスとしては食事なので、深く考えては負けなのだが、どんどん男としてのプライドを捨てていっている気がする。
【シフィール】
私は無傷で帰りましたが、心の傷が出来ていました。夜に寝るときに、リオーネさんの悲しい叫びが思い出されてしまうのです。
帰ってから何日かは、夜に何度もうなされて跳び起きました。ですが、それもある日に解決しました。
「シフィールちゃん」
村で農作業をしているときに、リオーネさんが訪ねてきてくれたんです。
「リオーネさん!」
「良かった、シフィールちゃんも怪我は無かったようね。私もリンさんに助けて貰ったのだけど、貴女が心配で……」
「私は全然大丈夫です。リオーネさんは!?」
「私も大丈夫よ」
リオーネさんが無事な様子に、彼女の豊かな胸で大泣きしてしまいました。リンさんはやっぱり凄いです。私達二人を救ってくれたのだから。乱暴者という冒険者への偏見に自分が恥ずかしくなってしまいました。
「またいつかリンさんに会って、お礼をしてあげたいです」
「そ、そう? お礼は私が十分に言っておいたから」
「私は言い足りないです。一生の恩人ですから」
意気込みが過ぎたのでしょうか、リオーネさんは少し困っていました。
【リン】
「自分で自分を助けたって伝えるとか、マッチポンプにもほどがあるだろう」
シフィールちゃんにリオーネの無事な様子を見せてあげたが、あまりの自作自演に顔から火が噴きそうだ。
おまけにシフィールちゃんはリンのことを、まるで英雄のように見ている。やってもない善行で褒められるのが、こんなに苦しいものだとは俺は思わなかった。
そんな苦しさを忘れるように、俺はオークを狩りまくった。
やることは釣りと一緒だ。オークを見つけたらリオーネでウロウロする。オークに上手く捕まればしめたもので、乱暴してきたオークの精気をギュルギュル吸うことが出来た。8割も精気を吸えば昏倒するんで、全員が気絶した後は首を絞めて、アイテムボックスに入れるという作業だけだ。
何というかオオカミなんかより、資金的にも精気的にもはるかに美味しい。
「リン、査定が終わったから、金を取りに来てくれ」
「はいはい」
ギルドで俺はいつものようにオークを買い取って貰った。食肉用になるので、一体で銀貨20枚と随分と気前がいい。
「十体で、合わせて2金貨だ。お前がおろしたオークって、妙に脂身が少ないんだが、お前何かしてるか?」
「え、ええっ!? し、知らないですよ」
言えない。痩せるほどに精気をチューチューとしゃぶっているなんて、とても言えない。自分でも精気を吸う場面は思い出すと赤面ものだ。
「ところで、お前……そのバッグ使ってるんだよな」
「あ、はい。いっぱい物が入るので」
「そうか……」
素材担当のおっさんが冷や汗を垂らしながら俺を見る。解体で血がついた服を着た、いかついおっさんが汗をかいているとか、正直に言えば怖いんだが……。
これは随分後で聞いた話なんだが、重量が上がるバッグについてはみんな知っていたらしい。なので、そんなバッグに大量のオークを入れて持ち歩いているということで、化け物のような怪力と思われたらしい。
何だか、どんどん悪評が広まっているような気がする。