とある村娘の話
私の名前はシフィール。何処にでもいる村娘と思って下さい。家族と一緒に村で生活し、貧乏ながらも、飢えることなく生活できて、今までは幸せでした。
そんな私の生活も今日までです。村の近くにある林でキノコを集めていたら、オークに襲われたのです。冒険者が間引きしているので、オークが村にやってくるなんてことは今まで滅多に無かったので、私は油断していました。必死に逃げようとした私を、オークはあっさりと捕まえて住処へと連れ去りました。薄暗い洞窟の一室に放り込まれた私は、ひたすら震えることしかできませんでした。
オークに捕まったならば、私の人生は終わりです。オークは繁殖のために異種族でさえ犯し、繁殖することで有名なモンスターですから。自分がオークの繁殖に利用されると考えるだけで、絶望と恐怖でいっぱいです。捕まった場合には舌を噛んで死んだ方がいいと教わっていましたが、私にはそこまでの覚悟がありませんでした。
「きゃあ!」
オークの洞穴にある捕虜を捕まえておく場所に、突き飛ばされて新しい人が来ました。粗末な服を着た女性で私と同じ村人みたいですが、見たことのない人です。美しい金髪に羨ましくなるような大きな胸と細い腰、それにどこか儚げな表情がある顔は凄い綺麗です。こんな人は一度見たら忘れません。
女性は捕らわれた私を見ると、非常にビックリした顔をしています。そして慌てて駆け寄ると、声をかけてくれます。
「貴女……大丈夫!? 怪我してない?」
「だ、大丈夫です」
「オークもまだ手を出してないようね。良かった」
「でも……」
女性はほっとしていますが、オークが私に乱暴するのは時間の問題です。そんな私を励ますように、女性はにっこりと笑います。
「私はリオーネ。貴女は?」
「シフィールです」
「シフィール、大丈夫よ。必ず助けが来るから。安心して待っていて、早まったらダメよ」
「は、はい」
自信いっぱいの女性に私もつい応えてしまいます。綺麗なリオーネさんの姿に、励まされたのでしょうか。
ですが、そんな出会いもすぐに終わってしまいました。オークが彼女を連れに来たのです。
「いやっ! 放して!」
先ほどの自信ある姿から一転、リオーネさんは弱々しい悲鳴をあげながら連れて行かれてしまいました。オーク達は私を無視して、彼女だけ連れて行ったのです。私は震えるだけで何も出来ませんでした。私を励ましてくれた人なのに、私は彼女を見捨てて、自分の番が来ないように震えるしかできませんでした。
それからどのくらいの時間が流れたでしょうか。部屋の入り口を塞いでいたカーテンを開けて入ってきたのはオークではなく、またも女性でした。
「あ、良かった。私の名前はリン。オークを退治に来たんだけど、怪我はない?」
武器と防具をつけたリンさんは冒険者のようです。思わぬ助けに涙が出るくらい嬉しかったです。
「は、はい。私は大丈夫です! あの、それよりもう一人の女性……リオーネさんは無事ですか!?」
私の叫びに、リンさんはビックリした顔をしました。それから目を逸らしたことで、私は全てを察しました。
「た、助からなかったんですね……」
「えっ!? あ、いや、貴女以外の女性はここでは見なかったよ。もしかしたら、上手く逃げたんじゃないかな」
「居ない!? それなら連れ去られたのかも……お願いです、リオーネさんを……もう一人の女性を助けて下さい」
「あうぅ」
私の言葉にリンさんは困惑してしまいます。私にも分かっているんです、わがままだって。オークと必死に戦って私を助けてくれたのに、更に助けてくれなんて、都合が良すぎます。
「とりあえず、貴女を安全なところに連れて行ってから、それから考えましょう」
リンさんは私を宥めながら、オークの住処から連れ出しました。不思議なことにオークの死体を見ませんでしたが、リンさん曰く片づけたとのこと。彼女は魔法のバッグからオークの死体をチラリと見せてくれたので、私はすぐに納得しました。オークの肉は私も食べたことがあります。
リンさんはとても優しく、保存食を食べさせてくれたり、途中で足を痛めた私をおぶってくれたりもしました。ときたま村にも冒険者が来ますが、こんな優しくて強くて、おまけに美人な女性の冒険者は初めてです。私とあまり年が離れてないように見えるのに、オークを一人で倒してしまうなんて、凄いです。
私の住んでいる村に辿り着くと、両親や兄弟が泣きながら喜んでくれました。オークを見かけた人が居たようで、私が連れ去られたと心配していたようです。無事に助けてくれたリンさんに両親は感謝していましたが、彼女は偶然助けただけだと謙虚そのものです。お礼を渡そうとしても、彼女は遠慮しています。
「他にも攫われた女性が居るみたいなので、今から追わなくていけないので。お礼はまた村にきたときにでも、お願いします」
リンさんは私の言葉を覚えていてくれて、リオーネさんを追ってくれると言ってくれました。何て強い正義感と優しさを持った人でしょう。彼女は颯爽と駆け出し、あっという間に森の中へと姿を消してしまいました。私は泣きながら彼女の消えたあとをいつまでも見てました。