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百五十八~百五十九日目 内乱

 先輩の接待をするため、跳ねる子猫亭で豪遊したのだが、思った以上に楽しかった。日本では生前にキャバクラで派手に遊ぶなんてことはしたことは無かったのだが、女の子を侍らせてイチャイチャするのは思った以上に興奮した。なんだろう……女の子がいっぱい並んで、こちらに構ってくれるのが何だか楽しいのだ。キャバクラにはまってしまうサラリーマンの気持ちが少しわかった。


 更には途中で同僚の美女を十人もお持ち帰りした。精気充填のためには男の方が効率はいいが、女から吸う方が精神衛生上、よっぽどいい。久しぶりに自分が、まだ精神は男なのだと確認できて、ほっとする。最近、オークから襲われる自分に、あまり疑念が生じないことに、少し心配だったのだ。だが俺がいまだに女好きなのを確認できて、これも満足だった。


 俺でもこんなに満足しているので、倍の美女を部屋に連れ込んだ先輩は、もっと満足しているに違いない。俺はそう思って朝に娼館の一階で合流したのだが……。


「先輩、顔色がひどく悪いですわ……」

「おお、リランダか」


 個室から出てきたジ・ロース先輩は、肌が随分と白く、足元が覚束ない。


『女性が多いということで、ほどほどにしておけばいいものを……全員と遊ぼうとするからですわ』

「二十人だぞ。こんな機会は滅多に無いからな……あいたたたた」


 ジ・ロース先輩は細い腰が痛むのか、上半身を曲げて、トントンと腰を叩き始める。とても魔神とは思えない醜態だ。だがまあ、その分だけ先輩に人間味を感じて、親近感が湧くが。


「それでは外の路地に入ったら、お屋敷に転送しましょう。今日一日、ゆっくりと休んで下さい」

「数日、休みをくれ! 腰が痛すぎる……」


 自分で歩けないみたいだったので、俺は仕方なしに肩を貸してやる。何と言うか、ダメ魔神すぎる。奈落の底から来た怪物のはずなんだが、腰を痛めた魔神とか、恐ろしく弱く感じる。


 屋敷に先輩を送り届けたところ、ベッドに寝込んでしまった。本当に数日間寝込むかと思ったが、幸いにも俺の『回復』の魔法が効いて、すぐに復調した。その代わり、恋人達から娼館で浮気したことで無茶苦茶に叱られていた。


「魔神も痴話喧嘩というか……浮気を責められるんですね」


 リビングルームで繰り広げられる思いもよらぬ光景に、ヴォルフが信じられない物を見るような目をしていたのが、印象的だった。



 グバドスの拠点を弱体化させて、オーク同士を襲わせる計画だが、翌日には進展があった。幾つかのオークのグループが、グバドスの拠点を襲ったのだ。今までは高い塀に守られていたのを、ジ・ロース先輩が城壁を更地にしたため、良いチャンスと見たのだろう。


 オークの将軍達は無防備なグバドスの都市に攻め込もうとして、そうはさせじと兵士達が陣を張って対抗する。城壁前の巨大な洞穴で、オークの軍隊同士が激しくぶつかるのを確認した。


 同胞同士とはいえ、オーク達に敵への情けなどは見えない。戦争をこっそり観察していた俺は、みるみる積み上がるオークの死体に正直に言えばビビッた。異種族とはいえ、戦いのあまりな凄惨さに、ショックを受けたのだと思う。今はオークの死体が積み上がっているだけだが、これが人間との戦争だったらと思うとゾッとするのだ。


 ただまあ、これだけ死体が積み上がれば、当初の目的であるはぐれオークも徴兵されて、世界の背骨から出てくる奴も少なくなっていくだろう。


 オークの戦闘は隊列などあまり無い集団の殴り合いなので、戦術などは見るべきことはあまりない。そうなるとやはりまだグバドスの軍隊が数が多いため、襲撃側のグループを圧倒し始めた。 


「これはまずいな」


 洞窟の天井にぶら下がりながら、眼下の戦争を見物していた俺だが、状況の推移に眉を顰める。


 天井にぶら下がっている方法だが、魔法や特殊なスキルなどではない。二本の指で硬い岩盤を摘まんでいるだけだ。人間離れしているが、サキュバスの俺には指だけで自重を支えられる筋力がある。人間の膂力を基準に考えれば、めちゃくちゃ疲れそうなものだが、一日ぶら下がっていても平気そうだ。


 オークの勢力圏内で天井に人が張り付いていれば、怪しいと思われるところだが、今のところオーク達は敵軍に気が向いて、天井は確認していないようだ。一応はリリアンヌに変化しているので、黒い服装は目立ちにくいかとは思う。だが暗視を持っているオークには、黒色がどれぐらいカモフラージュになるかはわからない。


 さて、グバドスの軍勢が勝利を収めつつある状況だが、これは好ましくない。ここでグバドスに防衛に成功しては、わざわざ挙兵した他勢力は萎縮してしまう。グバドス側に手を出すのを躊躇して、その間に城壁の建造に取り掛かる可能性もある。


 ジ・ロース先輩をまた連れてきて、爆破して貰うのも悪いと思う。ここは少しでもグバドス側にダメージを与えて、別勢力が攻撃したくなるような隙を作るしかないだろう。


「『怪物召喚』」


 再び俺はガルガンチュアセンティピードを召喚する。巨大な蟲が高所から落ちて、体重だけで多数のオークを巻き込んで、圧殺する。両軍の真ん中に飛び降りて、双方にダメージを与えた巨大ムカデだが、俺の命令ですぐさまグバドスの軍勢に襲い掛かる。小山のような巨体が次々とオーク達を跳ね飛ばし、ひき潰していく。


「よっと」


 俺は天井から飛び降りると、どさくさに紛れて戦争の犠牲となった死体が大量に並ぶ場所へと着地する。死体は綺麗と言えないが、やはり放置して腐らせるのは惜しいと感じる。オークの死体を肉屋に卸し続けていた身としては、金が落ちているように感じるのだ。


 これだけのオークが居れば、すぐに存在がバレると思ったが、意外に気づかれない。こっそりと死体をアイテムボックスに入れる人間よりは、目の前で暴れる怪獣に目が行くのは必然か。戦場をコソコソと駆け回り、目についた死体を片っ端からバッグに放り込む。能力差が無い者同士が、鈍器や切れ味の悪い刃物などで殴るのだから、死体は綺麗なものは少ない。あまり買い取りは期待できないが、俺の中にある勿体ない精神が死体を放置するのを良しとしない。


 一部のオーク達が俺の姿を見つけて騒ぎ始めてから、俺はようやく瞬間移動で脱出した。


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