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『跳ねる子猫亭』の主、ビンセンの混乱

【『跳ねる子猫亭』の主、ビンセン】


【跳ねる子猫亭の主、ビンセン】


 こいつはいったいどういうことだ。目の前ではソファに女達をはべらせて、笑顔満点で飲み食いしている美女と美少女の姿がある。俺は何度考えても頭を捻るしかなかった。


 経緯を幾ら反芻しても、この娼館の状況が掴めん。まずリランダがここを貸し切りたいという申し出だが、それからしておかしい。


 普通は娼婦は娼館で働いて金を得たり、借金を返す存在だ。それがリランダは金を払ってサービスを娼館に求めた。てんであべこべだ。


 だがリランダは男を視線一つで射殺す魔性の女だが、女好きという側面もあるようだ。客が来ない日に、何度かうちの女を買っていたりする。娼婦のトップとして、他の子に情けをかけてるだけかと思ったが、そうではない。実際に買われた方は、リランダの情欲は凄かったと証言していたりもしている。


「ふふふ、一度こういうのしてみたかったのよね」

「もう、リランダさんったら」


 現に今もロビーで集めた娼婦達のあちこちを触って、セクハラしている。妖艶な美女だが、触り方は中年のオヤジに似て、イヤらしい。そのギャップに、娼婦達も戸惑っているようだ。笑顔が引きつっている。おまけに相手は同僚なのだから、何度抱かれていてもやりにくいだろう。


「ぐふふ、良いではないか、良いではないか」

「いやーん」


 もう一人、少女が娼婦達の胸に手を差し込んでいる。魔神ジ・ロースだ。


 隣国の生きる伝説が、何でこんな場末の娼館に来ているのか、俺にはさっぱりわからない。何でもリランダが客として連れてきたそうだが、どこにそんな伝手を持っていたのか、理解できない。


『ジ・ロース、あまり羽目を外しては……』

「どうせ代金はリランダ持ちだ、楽しむべきだろう」


 ときたま可憐な少女の声が魔神を窘めるが、ジ・ロースはどこ吹く風とばかりに流している。身体を貸しているマトーシュ王女が、乗っ取っている魔神に声をかけているらしい。


 リランダが代金を払い、魔神が受け入れているということは、二人には面識があるのだろう。だが幾ら傾国の美女とはいえ、ただの娼婦が魔神とどう知り合ったのか。接点が全くといっていいほどに見えない。


 更に幾ら稼いでいるとはいえ、リランダがここを三回貸し切ってもおつりがくる金を、ポンと払ったのも信じられない。何処でそんな大金を手に入れているのか……。何でそんな大金を隣国の英雄とはいえ、魔神に費やしているかも理解できない。


「バッファローゲームやりましょう、ジ・ロース様」

「何だそれは?」

「こうやって頭の上で指を立てて……」

「おお、これで突起に当てるということか。バカで面白いわ」

『……何と言うか、くだらないですわね』


 何やら馬鹿っぽい遊びをリランダが教えて、ジ・ロースと一緒に遊び始めた。外見が人間離れした美女と美少女が、何とも低俗な方法で女達にセクハラしているのを見ると、これが現実ではないような印象を受けてしまう。特にリランダが心底楽しんでいるような姿は、どうも信じられない。


 娼婦達にも遠慮なく飲み食いさせつつ、片っ端から悪戯して半裸にさせて、二人のボルテージが上がっていく。


「それでは、好きな女性を選んで下さい、ジ・ロース様。私はおこぼれで構いませんので」

「うおお、迷うな。上限は何人だ?」

「何人でも構いませんわ。いいと思った相手は全員で」

「うひょー、たまらんのう」


 驚くことにリランダもジ・ロースも多数の女達を部屋に連れ込むらしい。普通は精力や体力が続かないものだが、関係ないとばかりにそれぞれが娼婦達を選んでいく。ジ・ロースが二十人、リランダが十人ほど選んで、二人は部屋に向かうこととなった。


「おい、料理や酒はどうする?」

「この後は戻らないと思うんで、従業員も含めて、皆さんで処理して下さい」


 リランダの指示に、娼婦達が喜びの声をあげる。テーブルの上には近くの店から注文した食事や酒が山ほど積んである。これもリランダが別途費用を出したものだが、恐らく同僚達に食べさせるために有り余るほど頼んだのだろう。


 うちのグループが経営している娼館はマシな方だが、それでも借金持ちなどの娼婦は腹いっぱい食べることは稀だ。男の従業員達も若手なので、安酒ぐらいしか飲めない。


「それじゃ、有難く頂こうぜ」

「ご馳走になりやす」


 VIPの二人が部屋に消えると同時に、娼婦や部下に食事の許可を出す。笑顔で食事を始める全員を見ながら、リランダの狙いを考える。


 考えられる可能性は幾つもあるが、まず一つは底抜けな善人という可能性だ。普通は自分の私財を大量に投げて知り合いの有力者をもてなすことはあったとしても、それと一緒に見も知らぬ同僚の娼婦までご馳走しようとはしないからだ。


 もう一つは、リランダがあの程度の金は、はした金としか思わないほどの金持ちという説だ。これならば娼婦に食事を奢っても、気にならないだろう。近所のガキに小遣いで間食させるのと同じ感覚だ。リランダが不定期でしか出勤しなくても、生活出来ているのもこれで説明がつく。


 しかし、そんなに裕福であるのならば、そもそも娼館では働かないだろう。男が好きなのかもしれないが、それならば大金で男を幾らでも選べるはずだ。


「どうしました? えらく難しい顔をしてますが」

「……いや、何でもない」


 顔を覗き込んできたソムルに、俺は首を横に振る。幾ら考えてもわからないことを追求するのは止めにしよう。


 そもそも、グラッケンの手下を片っ端から叩きのめして、奴を完膚無きまでに打ちのめした女傑なのだ。規格外すぎて、正体の推測がしようがない。


 マルガー商会に、大量にオーク肉を卸しているとも聞く。一体、何者なのか、情報が入れば入るほど訳がわからなくなる。


 俺はせっかくの高い酒をグラスに注ぐと、酔うまで飲むことにした。


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