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百五十日目~百五十七日目 破壊工作と休暇

 ヴォルフ、フーラ、ジ・ロース先輩と共に俺は転移して、地下世界から脱出した。到着したのは先輩が住む離宮の前だ。


『一瞬で戻って来たのですね』

「驚きよね」


 マトーシュ王女とフーラは何度目かの転移だというのに、感嘆したように言う。フーラ曰く、転移は遠ければ遠いほど大量の魔力を消費するらしい。俺の瞬間移動はその点、ほとんど自分のエネルギーを消費しない優れものだ。だが今回四人で移動して気づいたが、他人を含めると瞬間移動にかなり負荷がかかるということだ。数人単位では問題無いが、百人単位になると、相当なエネルギーを消費しそうであった。


「とりあえず、もう何回か遠征しないといけないと思われる。その間、ジ・ロース先輩の家に泊まらせて貰おう」

「うむ。まあ寛ぐが良い」


 門番に手を上げて先輩が挨拶すると、話が通っているらしく、俺達はあっさりと門を通される。


「先輩の家というよりは、王女様の家だが」

『ジ・ロースが好き勝手してますから、私の家というより、彼の家というのは正しいかもしれません』

「好き勝手してるのね……」


 苦笑するような声を出すマトーシュ王女に、フーラは首を傾げる。まあ、屋敷の調度物は弄られていないので、一見しただけでは魔神がここに住んでいるとは思わないだろう。本当に好き勝手しているのは、別のところだ。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「うむ」

『ただいま』

「ご無事なようで何よりです」


 恋人が無事戻ったことでロザリアをはじめ、迎えに出てきたメイドのエルフ達は笑顔で迎える。美女と美少女のエルフ達が並んでいる姿は、なかなか壮観だ。


「ねえ、リグランディア」

「なんだ?」

「なんで、ほとんど妊婦さんなの?」


 フーラの指摘通り、大小の違いはあれど、メイド達の腹は膨らんでいる。特にまだ若そうなエルフが大きな腹を抱えているのは、かなり目立つ。


「ジ・ロース先輩が暴れた成果だな。メイドに手をつけまくったそうだ」

「うえええええ!?」


 フーラは目を見開いて驚く。


「そんなところに泊まって大丈夫なの!?」

「特に問題無いだろ。最悪、妊娠するだけだし」

「それが大問題だって言うのよ!」

「何でだ? 子供は王女の子供だから大事にして貰えると思うぞ」

「女が女の子供を産むとか、わけわかんないわよ」

「王家の子供を産んだとして、メイドとしても雇って貰えると思うし」

「メイドって、あまり惹かれないわよ」


 フーラはげんなりした表情だ。確かにメイドって、この世界ではこき使われてそうだな。


 俺は手近なエルフメイドを手招きして呼ぶ。幼さ全開の身体なのに、巨大なお腹を抱えてメイドさんはえっちらおっちらやって来る。


「どのようなご用でしょうか?」

「いや、メイドの仕事が大変か聞きたくて」

「全く大変ではありません。おまけに赤ちゃんが出来た場合には、昼寝することまで許されますので」

「三食昼寝つき……」


 フーラは好待遇の職場に頭を悩ませているようだ。先輩は好色なのと、外見がまるっきり幼女なのを除けば、好物件だしな。子煩悩で恋人にも優しいし。


「うー、悩む」


 フーラは思いっきり悩んでいるようだが、そんなに昼寝付きがいいのだろうか。



 とりあえず、ジ・ロース先輩のお屋敷を拠点に、引き続きオークへの工作活動を継続することとなった。オークの王であるグバドスの軍隊や拠点を弱体化して、別のオークが率いるグループと争う下地を作るのが目的だ。


 俺は何回も世界の背びれ地下にあるオークの住処へと潜りこみ、あちこちの洞窟へと潜入した。とにかく人類未踏の適地なので、地図が無いのだ。まずはオークの王国がどうなっているのか、探らなければならない。何処から何処までがグバドス領で、何処からが別の勢力かもわからない。


 地下世界は様々なスペースの居住地と、それに繋がるトンネルが無数にあった。ジ・ロース先輩に頼んで爆撃したグバドスの城壁がある広いスペースだと、高さが6メートル近く、都市と言ってもいいほどの居住区域があった。地盤が相当硬いらしく、落盤が起きている様子は無い。あちこちに地下都市を勝手に建造しているようだが、大惨事にはなっていないようだ。


 俺は可能な限り、地下世界を探索して、少しでも実情を確かめようと頑張った。幸いなことにグバドスの軍勢が使用している旗は把握している。グバドスのものと思われる施設を、俺は単身、もしくはパーティーで何度も奇襲した。


 その際はオーク達より、防御施設の破壊を優先する。オークは幾らでも数がいるので、俺達が頑張って数を減らしても、たかが知れている。防御施設を破壊した方が、他勢力からの攻撃を誘発出来るだろう。


「『怪物召喚(サモンモンスター)』!」


 途中で見つけた砦の真上に、俺はガルガンチュアセンティピードを召喚する。巨大なムカデはすぐさま城壁の上にいる兵士をかみ殺していく。


「『豪火球(ファイアーボール)』」


 続けて先輩の魔法が城壁に穴を穿つ。幾度も飛ぶ火球によって、すぐに城壁が虫歯だらけの歯のように、穴だらけになっていく。


「それじゃ、撤収する」


 城壁を更地にするまでジ・ロース先輩に魔法を連打して貰ってもいいが、ある程度の隙があれば十分だろう。俺はオーク達が逆襲しに来る前に、撤収することにした。


 瞬間転移で俺は先輩が住む屋敷のリビングへと戻る。最近はここと地下世界を俺は行ったり来たりだ。


「いつも思うんだけど、リグランディアの移動能力は凄いね」


 フーラの言葉にヴォルフが頷いて肯定する。


「好きな場所にいきなり現れて攻撃して、やられる前に帰って来れちゃうし。護衛として雇われたけど、あんまり出番が無い」

「出番が無い方がいい」

「もしかして、リグランディア一人で国に喧嘩を売れるんじゃないの?」

「相手がオークだからどうにかなっているが、国が相手ならば、必ず魔法で妨害してくるだろう」


 オークは確かに繁殖力と強靭な肉体で人間を超えているが、魔法という面では圧倒的に後塵を拝している。聞いた話では一部の呪術師が秘術魔法を使うが、数と質が圧倒的に劣っているらしい。


 その点、人間は魔術の研究に余念はなく、数多くの優秀な術師がいる。もし人間の国家に俺がゲリラ戦を挑んだ場合には、確実に瞬間移動をまずは封じにかかってくるだろう。俺は秘術魔法に詳しくないが、他にも対抗策を練ってくるに違いない。


「まだ続けるのか?」

「とりあえず、オーク同士による本格的な紛争が勃発するまでは続けるつもりだが」


 俺が方針を説明すると、ジ・ロース先輩は思いっきり眉を歪める。


「ここ連日引っ張りまわされて疲れた」

「ええっ?」


 ソファにしがみついて疲労をアピールする先輩に、フーラが呆れたような声をあげる。幼女姿なのでさまになっているが、ハーレムを築いている魔神がそれでいいのか……。


『ジ・ロース、そう言わずに……』

「娘や嫁との交友の時間も減っておるし、このままでは見放されてしまうかもしれぬ」


 ぐぬぬぬ、ライフワークバランスに目覚めたサラリーマンみたいなことを言いだしやがって……。マトーシュ王女が宥めても、知らぬ顔だ。


 だがよく考えると、確かに出動はそんなに頻繁ではないが、先輩には大量の魔力を消費して魔法を使って貰っている。俺も怪物召喚で大量の魔力を使っていて、ストックしているエネルギーを大分使ってしまった。トロールやオークを襲ってエネルギー補給できる俺とは違い、自然回復するしかない先輩は大変かもしれない。


「それならば、休暇を取るか?」

「いや、ここは癒しが必要だな」

「癒し?」

「リグランディアが慰めてくれてもいいぞ」


 先輩が何かを揉むような手つきを見せる。


「私は別に構わないが、逆に疲れるぞ」

「むう……接待だと思って、精気を吸わなければいいではないか」

「接待か……それなら、私より上手い人間にして貰おう」


 俺はサキュバスなので床上手かもしれないが、接待などは他のプロに任せるべきだろう。


「ヴォルフ、フーラ、今日はもう世界の背びれには行かないから、のんびりしていてくれ」

「リグランディア様、どちらに?」

「ジ・ロース先輩を接待しに行ってくる」


 ヴォルフに向かって手を振った俺は、先輩と共にザクセンへと転移した。



 ザクセンは大キャラバンを組んで商人が移動したおかげで、流通が戻りつつあると聞く。それでも壁外はオークがウロウロしており、安全とは程遠い。おかげで経済活動は滞りがちと聞いている。そのため娯楽産業に属する跳ねる子猫亭は一番に影響を受けている。


「お久しぶり。しばらく出勤してなくてごめんなさいね」

「いえ、お久しぶりです、姐さん」


 リランダの姿に切り替えた俺は、いつも通りに跳ねる子猫亭の裏口から中へと入った。ソムルのおっさんがすぐにすっ飛んでやって来る。


「多少景気はよくなりましたが、まだまだこっちまでは恩恵を受けられないわけで……久しぶりに姐さんが来て助かりました」

「ごめんなさい、今日は仕事をするつもりで来たわけじゃないの」

「あれ、そうなんですか?」

「その代わり、上客を連れて来たから」

「上客ですか?」


 俺はジ・ロース先輩の腕を優しく引っ張って、ソムルの前に出す。


「こちらアラース王国の王女であるマトーシュ様と、それに憑依しているジ・ロース様よ」

「ジ・ロース……ま、魔神ですか!?」


 痴女みたいな恰好の少女を見て、ソムルは驚愕で口をあんぐりと開ける。


『ご紹介に預かりました、マトーシュ・シロース・アラースですわ』

「ジ・ロースだ」

「うへっ、これはようこそいらっしゃいました」


 色々な客を見ているソムルも、王族や魔神は初めてらしく、頭をひっきりなしにペコペコ下げている。


「今日はジ・ロース様を接待しなくちゃいけないの。貸し切りは可能かしら?」

「貸し切りですか!?」


 俺はアイテムボックスから、金貨の袋を取り出して、近くの机へと置く。ズシリと重い袋から、金色の硬貨が零れ落ちる。


「これで足りるかしら?」

「じゅ、十分です」

「良ければ系列店からも女の子を借りてきてくれる。派手にやりましょう」

「わかりました、すぐに行きます」


 ソムルは金貨の入った袋を掴むと走り出す。どうやら代金は足りるようだ。


「娼館に入るのは初めてだが……」

「まあ、楽しんでいって下さい」


 オークを殺してはせっせとアイテムボックスに詰めて、貯めたお金だ。先輩の接待にパーッと使うのはいいだろう。しかし、こうやって札束で殴るような豪遊っていうのは初めてだ。ちょっぴりワクワクしてくるな。

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