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百五十日目 グバドス領、境界

 どれだけ歩き続け、遭遇したオークを屠っただろうか。幾つもの坂を下りて、地下へ地下へと進んだところで、急に前方が開けた。


「ここは……」

「ふむ、こうなっているのか」


 5、6メートルの高さ、幅が数百メートルの広さの巨大な広場に出たのだ。地中に現れた広大な場所に、ヴォルフもジ・ロース先輩も驚いている。そして奥には強固そうな石造りの砦が行く道を塞いでいる。


『もしや、あれが……』

「そうです。グバドス領に繋がる砦でしょう」


 王女の言葉に俺は頷く。砦に掲げられている黒い下地に赤い瞳とそれを貫くような剣のマークは、オークから聞き出したグバドス軍を表す旗に間違いなかった。遂に俺達は目的地についた。


「さて、どうするのだ? 我々の目的はあそこにいるオークの弱体化と聞いたが」

「分かりやすい目標がある。ここはそれを生かすとしよう」


 俺は腰を下ろすと、四人で円陣を組む。砦から俺達は見えるが、城壁は遥か彼方なので、物見からは米粒にしか見えないだろう。


「先輩の豪火球は何処まで届きますか?」

「魔力量を少し増やせば、あそこまでは届くな」


 俺の言わんとすることを察して、ジ・ロース先輩はじっと砦に目を向ける。


「それでは、お願いする」

「すぐオーク共が出てくると思うが……」

「出てきたオークを叩くのも、弱体化に繋がる」

「まあお主がそう言うのであれば、とっととやるか」


 先輩は手元に火の玉を浮かべると、『豪火球(ファイアーボール)』を砦に向かって飛ばす。ボーリング玉サイズの火の玉が、尾を引きながら砦に向かって飛ぶ。オークの仕事とは思えないほど、きちんとした石組みに魔法が通用するか心配だったが、火球は着弾と共に轟音をあげて、石壁の一部を大きく吹き飛ばした。


「うむ、問題無いな」

「それでは、ガンガン撃って貰いますか」

「……魔神扱いが荒い奴だな」


 ジ・ロース先輩はぶつぶつ小言を言いながらも、魔法の発動を続けてくれる。二発目が発射され、城壁と共に壁上に居た兵士達が数人、吹き飛ばされたのが見える。一発目は呆然としていたのだろうか、二発目が命中してようやく砦が騒がしくなった。壁上のオーク達が右往左往しているのが、俺にはよく見える。


 ジ・ロース先輩が三発目の『豪火球(ファイアーボール)』を撃ち込んだところ、城門が開きオークが出てきた。当初はまばらだったが、すぐに出てくる人数が増えだす。オークの集団は数百と思われる数まで膨れ上がった。


「おい、凄い数だが大丈夫か?」

「まだ距離があるから、大丈夫」


 先輩は眉を寄せるが、こちらから砦まではまだ相当な距離がある。オークは全力で駆けているが、まだまだ遠い。だが相当な人数のため、迫力は満点だ。フーラもヴォルフも無意識のうちに武器を構えている。


「よく平然としていられるわね」

「焦るのは、もう少し近くに来てからだな」


 フーラは呆れているようだが、まだ慌てるようなときではない。そう言っているあいだにも、四発目の『豪火球(ファイアーボール)』が炸裂する。砦の壁面もかなり崩れたが、全体から見るとまだまだだな。もうしばらく先輩には頑張って貰わないと。


 五発目の魔法が着弾したところで、ようやくオークとの距離が詰まってきた。王を名乗るオークの配下なだけあって、きちんと金属鎧と兜、武器などを持っているようだ。


「リグランディア様!」

「任せろ、怪物召喚」


 焦るヴォルフの声に、頃合いを良しと見て、俺は神聖魔法で召喚をかける。呼び出したのはガルガンチュアセンティピード、以前召喚したジャイアントセンティピードより遥かに強大なムカデの化け物だ。ジャイアントセンティピードでも小型車なみ、ギガントセンティピードはバスほどの大きさだが、こいつは数両編成の列車くらいでかい。多人数相手に暴れるのにピッタリだ。


「で、でか……こんなの呼べるわけ!?」

「オーク相手には丁度いい」


 突然現れた巨大なムカデにフーラの表情が引きつっているが、オークの驚愕はその比ではない。目前に怪獣が現れたのだから、当たり前だろう。腹で圧し潰すようにガルガンチュアセンチピードはオークの集団に突進する。たちまちオークの身体が宙に舞い、辺りが血塗れとなる。


「神聖魔法が使えるようになったと聞いていたが……いつの間にこんな高位の呪文を使えるようになったのだ?」

「全てはメガン様のご支援だ」


 魔神の先輩が感心するほど殺戮の限りを尽くすガルガンチュアセンティピードだが、弱点が無いわけではない。


 まず凄まじい巨体なので、周囲の被害を考慮しなくてはいけない。街道でさえ環境に配慮すると、ジャイアントセンティピードの召喚を躊躇するくらいなのだから、呼べる場所は限定的だ。


 あと相当な体力を持ち、鋼のような鎧を持つが、召喚しておける時間が短い。俺の力をもってしても、二分程度しか維持できない。おまけに召還には高位の呪文に相応しい魔力を食う。


「リグランディア様、召還はどの程度まで続きますか?」

「もうそろそろ切れる」


 オークの集団を近寄らせなかったガルガンチュアセンティピードも、そろそろ帰宅の時間となってくる。だが先輩が何発も『豪火球(ファイアーボール)』を撃つ時間は稼いでくれている。それならば……。


「『怪物召還(サモンモンスター)』!」

「まさか!?」


 もう一体、新品のガルガンチュアセンティピードを追加する。大量の魔力を持っていかれる感覚があるが、まだ大丈夫だ。


 二体目の怪獣ムカデもオークに突進すると大暴れする。普通に蠢くだけでも、身体に当たれば弾き飛ばされるサイズなのだから、間違いなく脅威だろう。


 それでもオークの数だけは凄まじく、ムカデにやられても、次から次へと増援が砦から走り出る。山脈の地下に、こんな多数の亜人が住んでいるとは、俺も驚きを隠せない。そうこうしているうちに一体目のガルガンチュアセンティピードが送還されて、戻っていく。オークは数を頼りに召還モンスターを取り囲み、一部は迂回してこちらに向かってくる。


「リグランディア様!」

「分かっている。ヴォルフ、フーラは先輩の警護を頼む。先輩は引き続き豪火球(ファイアーボール)で砦を! 私は前に出る」


 ヴォルフ達に指示を出すと共に、俺は返事も聞かずに駆け出す。助走をつけて、向かって来るオークの一角へとジャンプする。山なりでなく、ほぼ水平に跳んだ俺は先頭を走るオークに、サッカーにおけるボレーシュートのような蹴りを放つ。俺が跳躍してくるとは思っていなかったオークは、槍を構える間もなく、まともに顔面に蹴りを受けた。俺の脚に、首の骨が折れる独特な衝撃が伝わる。オークの兵士は今までと違ってヘルメットをかぶっていたが、どうやら首の骨をへし折るには支障が無いようだ。


 俺はオーク達が仲間に向かわないよう、縦横無尽に跳び回りながら、相手を攻撃していく。一般のオークと違い、さすがは兵士と言うべきか、オーク兵は俺の攻撃に対して槍を構えて反撃しようとする。しかし既に槍での防御は想定済みだ。俺は鞭を使うことで、槍を引き剥がすなどして、オークを次々と殺していく。


 それでもセンティピードを迂回して向かって来るオークの数が増えてくる。俺達が怪物を召喚しているのを知って、まともにガルガンチュアセンティピードと戦うより、召喚者を攻撃するべきと判断したのだろう。俺がオークを仕留める数を上回る人数のオークが、ジ・ロース先輩へと向かっていく。


「ヴォルフ! フーラ!」

「お任せください!」

「まだ大丈夫」


 近寄ろうと駆けるオークの頭をヴォルフの投げたナイフと、分銅が破壊する。それを掻い潜ったオークに対し、フーラは幻影で自らを増やして、相手を幻惑しながら切り裂く。オークはどんどん集まってきているが、しばらくは捌けそうだ。


「『怪物召喚(サモンモンスター)』」


 俺は更に時間を稼ぐために、手頃そうなモンスターとして、ジャイアントマンティスを召喚する。以前出会った巨大カマキリだが、並のオークなんかよりは余程強いらしい。手頃な召喚モンスターだったが、ジャイアントマンティスは近寄るオークの首をスパスパと刎ねる。


 ムカデといい、カマキリといい、蟲ばかりを召喚している気がする。召還するのは熊などでもいいのだが、どうも哺乳類は傷だらけになると、情が湧いてしまう。その点、昆虫など蟲の類は召喚しても気が楽だ。オークに囲まれたジャイアントマンティスは、次々と槍で串刺しにされるが、特に心が痛まない。やられても、次々とジャイアントマンティスを俺は召喚して、数を増やしてオークに対抗する。 


 俺は飛び回りながら鞭を振るい、拳や蹴りで次々とオークの命を奪う。ヴォルフの鎖武器が唸り、フーラも幻影を駆使しながらオークの首を掻き切る。召喚したモンスターもオークを屠るが、それでも呆れるくらいのオークが砦から溢れ出ている。鋼のような表皮をもつガルガンチュアセンティピードも、襲ってくるオークの猛攻に傷を全身に受けている。俺達のパーティーも、あまりの数に包囲されつつあった。


「リグランディア、打ち止めだ!」

「了解」


 魔神として常人では有り得ないほどの魔力を持つジ・ロース先輩だが、ここにきて魔力切れらしい。だがひたすら豪火球を撃ち込んでくれたおかげで、オークの城壁は瓦礫と化した。無傷の場所を探すのが難しいくらいで、防壁の役目は全く果たせそうにない。


「撤収する」


 俺は一際高くジャンプすると、洞窟の天井近くへと舞い上がる。そしてアイテムボックスに貯め込んでおいた岩をばら撒いた。


「ぶひいいいい!」

「い、岩の雨だぶぅ!」


 思いがけない攻撃に、オークはパニックへと陥った。岩を頭上から落とされれば、通常の場合には相手は避けるしかない。岩なんてものは盾で防ぐことも槍でいなすこともできないのだ。しかし密集していたオークは、仲間が邪魔となる。瞬間的にパニックになったオーク達はお互いにぶつかったり、押しのけられたりして倒れるものが続出する。そこへ仲間が踏みつけて怪我をする者や、岩に押し潰されるものが大量に出てくる。


 オークの包囲による圧力が一瞬だが、ぐっと緩む。それを利用して俺は仲間のもとへと戻ると、瞬間移動で地下から離脱した。


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