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百四十九日目 オークタスクフォース、アッセンブル!

 三日間にわたる無料診療が終わった。まだまだ診療が必要な人も居ると思うが、続けようにも神官達が先にへばってしまった。魔力が何度もからっぽになるのには耐えられなかったようだ。すぐガス欠になるのを見て思ったが、修行と信仰心が足りない。常日頃から努力していれば、早々に魔力切れなど起こさないのだ。


 とりあえず無数の病人がやって来たが、言い出しっぺの俺は根性を出して、ほとんど治した。感染症などはいいのだが、癌なんかは治療にかなり魔力を費やす羽目となった。寿命が短いので癌患者は少ないのだが、それでも一定の数は居た。


 驚いたのは呪いの解呪を求めて来た人間が数人居たことだ。病気感知で異常が見えなかったのに、体調が悪いという人間が数人居て、何事かと思ったのだが、呪いにかかっていたのだ。これはヴォルフが看破してくれたが、この世界に呪いなるものがあったとは俺は知らなかった。『呪詛解除(ディスペル・カース)』の魔法で何とかどうにかすることが出来たが、通常は呪いを外すのは至難だという。


 更には悪魔や幽霊に憑依されている人まで来た。無料診療をして、まさかお祓いをやることとなるとは。


 幽霊はあっさりお祓い出来たのだが、問題は悪魔だ。被害者の中に閉じこもったのなら攻撃を受けないっていうことで、バカにしてきた。幽霊憑きはターンアンデッドというお祓いが効くが、悪魔祓いは有効な手段がない。


 頭に来たんで被害者に被害を及ぼさずに、憑いた悪魔から精気吸収を行ったら、悲鳴を上げていた。ふふふ、サキュバスは伊達ではない。効率はむちゃくちゃ悪いが、性交しなくても吸うことは出来るのだ。


 とりあえず俺も貯めていたエネルギーを吐き出しまくった無料診療だが、幾つか成果があった。神聖魔法の階位が九になり、かなり上位の魔法が使えるようになった。当初の目的は果たしたということだ。


 更には多くの敬虔な信者を獲得したことだ。長年患っていた病気を治して貰い、感謝してくれたらしく、メガン様に強い信心を覚えてくれた人が多く出た。一部の人達は、治った次の日からもう無料診療の手伝いに来てくれた。有難いことだ。大多数の人が無料サービスをタダで利用して、そこそこ感謝するだけの中、やはり一定の割合は深く感謝してくれるのだ。


 その中でも一人、相当に熱心な女性が居た。元は高級娼婦だったというが、運ばれて来た際には相当に酷かった。梅毒に感染し、顔の一部が崩れて、脳まで深刻なダメージがあったのだ。まずは細菌を『病気治癒(キュア・ディジーズ)』で排除し、『再生(リジェネレーション)』を使って体の機能を治すこととなった。


 神聖魔法の素晴らしいところは、脳の神経を以前と全く同じに再生することができることだ。以前の世界での医学でも絶対に無理なことだ。おかげで人格や記憶までも元に戻すことができる。何人かの神官と話したところ、魂の情報から記憶などを修復しているのではないかということだった。そうだよな、幽霊も居るんだから、魂も確認できてるんだよな、この世界は。


 治った娼婦だが、名前をカルムーラという。前はこの都市でも有数の美女で有名だった。だがあるとき、何者かが彼女を何らかの方法で重い梅毒に罹患させたらしい。すると彼女と親しかった者達は次々と手を切り、彼女を雇っていた娼館も物置に放り込んで放置していたらしい。


 カルムーラは絶望しただろう。今までちやほやされていたのが、手の平を返すように誰からも見捨てられたのだ。脳の機能が破壊され、意識が混濁する中、世の中への恨みだけが募ったようだ。


 そんな中、俺が偶然にもカルムーラを治療した。以前の美貌も取り戻し、全くの健康体に戻ったのだ。自分を助けた宗教に傾倒するのは必然だろう。


「リモーネ様、ありがとうございます」

「いえいえ、全てはメガン様のお導きです。一緒に我が神に祈りましょう」

「はい」


 カルムーラはしょっちゅう俺のところに来てはお礼を述べる。俺の力じゃなくて、メガン様の力だと何度言っても俺に頭を下げる。仕方ないので、その度に一緒にメガン様へお祈りすることになった。


 カルムーラは高級娼婦のトップだっただけあって、抜群のプロポーションと魔性の美貌をもっている。切れ長の目は視線だけで男を蕩けさせそうだ。そんなのが潤んだ瞳で俺に何度も感謝するものだから、心臓に悪い。俺には女性への性欲がまだあるのだから、困ってしまう。


 とりあえず、信仰心が芽生えたようなので、お祈りの仕方など教えたところ、あっという間に第二階位の神聖魔法まで使えるようになってしまった。凄いものだ。やはり臨死体験をすると、信仰心が強くなるのだろう。


「メガン様への感謝と同時に、リモーネ様にも深く感謝しております。何かお礼をさせては頂けないでしょうか」

「ありがとうございます。カルムーラにはメガンの神官になって頂いて、出来れば困った人々に手を差し伸べて頂きたいのですが……」

「素晴らしいお申し出です。私がリモーネ様に受けた恩を、是非とも返させて下さい」


 柔らかい手で俺の手を取って、カルムーラは喜んでくれた。彼女のような熱心な信者が出来て、メガン様もお喜びだろう。俺も正直に言って、嬉しい。今回の無料診療は大成功と言ってもいいだろう。



 キリアヘインで無事、神聖魔法の修行をこなした俺だが、西の方ばかり見ているわけにもいかない。いよいよ東ではオークがどんどん溢れてきている状況なのだ。しかしコツコツと情報収集した甲斐もあって、対オークの作戦が出来つつある。


 俺はオーク討伐に向かうため、リグランディアの姿で、アラースの皇太子様に会うこととした。瞬間移動でヴォルフと共にアラースに向かい、王城前で門番にアポイントメントを取ってくれるよう伝言する。


「リグランディア様は王族と面識がおありで?」

「一応、いつでも面会すると言われているが」


 簡単にアポを頼む俺に、ヴォルフは随分と驚いている。まあ、普通は皇太子が一介の冒険者と会ったりはしないよな。ジ・ロース先輩を介してアポを取り直さなくてはいけないかもしれないという考えも過ぎるが、門に走って来た騎士がすぐに面会するとの返答を持ってきてくれた。俺も驚いたが、ヴォルフは口を開けて唖然としていた。


「久しぶりにご尊顔を拝し奉ります。皇太子様におかれましては、ご機嫌麗しくお過ごしであらせられましょうか」

「待ってくれ、そのような堅苦しい挨拶は無用だ」


 高そうな調度品が並ぶ王城の豪勢な応接室で会った皇太子に挨拶したところ、止められた。


「私はこの国の王族だが、立場は支援を受ける方だ。公式な場はともかく、対等な立場で応対させて欲しい」

「王子がそのように仰せならば、構いません」


 皇太子は腰が低くて、俺なんかでも話しやすい。この国は色々困っていることもあるが、こういう謙虚な人が次期国王ということであれば、未来は明るいと思う。 


「本日こちらに来ましたのは、オークへの対応策が見つかったので、そのご相談です」

「それは本当か!?」

「オースフェリアの神官に聞いた情報を基に立てた作戦なので、効果はあるかと思います」


 うおおお、イケメン王子がめっちゃ食いついてきた。まあ、自国の存亡に関わるからな。


「まず世界の背びれから今回何故オークが溢れて来たのかは、ご存じでしょうか?」

「オークは繁殖力が強いと聞くが……それと関係あるかな?」

「ええ、オークは凄い数が常に生まれています。通常は世界の背びれの中でのオーク同士の抗争で、それらが消費されているのです」

「最近は違うと?」

「オーク達の中で幾つか王や将軍を自称している者達で争っているのですが、現在は勢力バランスが保たれて、冷戦状態となっています」

「なるほど。オーク同士で本格的な抗争が起きていないので、繁殖力の高いオークが溢れ出て西へと流れてきているのか」


 ラーグ王子の理解が高い。イケメンで頭もいいとか、ヴォルフもそうだが天は二物も三物もイケメンに与えるな。嫉妬するぞ。


「そこでここから比較的近い山麓の傍に向かい、調査したのですが……」

「世界の背びれに行ったのか!?」

「私は比較的安全に忍び込めますので」


 木々の上を飛べば、地上がオークだらけでも、俺にとっては問題は無い。世界の背びれの近くまでは、驚くほど楽に行けた。そこで山麓の洞窟を探しながら、うろつくオークを尋問または殺害していた。戦時の破壊工作員そのものだな。


「コーナリア東部にある洞窟から侵入した場所に、グバドスというオークの王が治めている所領があります」

「オークの王か」

「ただこの王も勢力が絶対ではなく、周囲をオークの将軍などが率いる小さな勢力で囲まれています。オークを締め上げてみましたが、元から頭が良くないので詳しい戦力は分かりませんでした。ただざっと見て、グバドスの戦力が8として周囲に戦力が1の少数勢力が14あるように思えます」


 俺は分かりやすいようにテーブルに金貨を一枚、それを囲むように銀貨を十四枚並べる。


「グバドスが弱みを見せれば、ハイエナのように少数勢力が群がるでしょう。多大な犠牲が出ればオークは戦力を補充せざるを得ません」

「オークが戦力を徴兵すれば、西の大森林に流れるオークを抑えることができるか……。そのグバドス王の軍隊に工作は出来るのかな?」

「可能です。今回、その工作のためにジ・ロース様をお借りしようかと」

「ジ・ロースをか……」


 俺のお願いに、王子は眉を寄せて考え込む。少人数での工作任務なので危険度は高い。敵だらけのオークが潜む山脈の地下に潜って、魔神と言えども無事生還出来るか考えざるを得ないだろう。何と言っても妹の身体なのだから。


「勝算は?」

「やってみなければ何とも……ただ成否に関わらず、ジ・ロースやその他のメンバーを無事に戻らせる予定です」

「わかった、俺から正式に許可を出すように父を説得してみる。妹のことを頼む」

「お任せください」


 俺は王子に向かって頭を下げる。とりあえず、最大戦力は確保できた。だけどオークの国に向かうのに三人というのは心もとないな……どうするか。




 ラーグ王子との会見を終えると、リグランディアの姿である俺とヴォルフは応接室から退室させて貰う。塵一つ無い城の廊下を歩きながら、ヴォルフに小声で話しかける。


「とりあえず、ジ・ロース先輩の助けを得られそうだが、戦力として三人でいけそうか」

「リグランディア様と魔神だけでも十二分かと思いますが……魔神は近接戦闘は強いのでしょうか?」

「どうだろうな……」


 魔神が憑依しているのだから、近接戦闘でも並の人間程度ということは考えにくい。だが人間のお姫様がベースで、姿が幼女なのだから、耐久力が高そうには見えない。それに接近戦が得意ならば、武器を持ち運びしているはずだ。先輩が武器を使っているのを見たことがない。


「護衛がもう一人必要かな」

「どなたか居れば助かるのですが」


 接近戦に強い相手か。ヴォルフのような達人ならいいんだろうけど、ヤリック師匠ぐらいしか知らないからな。達人ほどではないが、ある程度の腕を持った人間が居ないか考える。そこで、ふとある人物が思い浮かんだ。


 俺は城から出ると、人通りが無くなった路地でヴォルフと一緒に瞬間転移した。




「私の腕前?」


 フーラが俺の質問に首を傾げる。


 グラパルスリニアから移動して、ファレンツオへとやって来た俺はフーラに会いに冒険者ギルドへと向かった。悲しいことにソロでの活動ばかりだった俺には、冒険者の知り合いは少ない。そんな中、パッと思いついたのはフーラだけだったのだ。


「そこそこだと思うわよ。何とか以前の動きに戻って来たしね」


 フーラはうっすらと笑みを浮かべると、巨大なメロンみたいな胸を大きく突き出す。負けないサイズの胸を持つ俺が言うのもなんだが、こんなので本当に戦闘できるのか?


 俺がチラリとクリス達に目を向けると、少年四人は大きく頷く。


「フーラさんの腕前は凄いですよ」

「最初の頃は転んでたりもしてましたが、最近は一撃でオークの首を狩ったりします」

「そうか」


 クリスやチャックが言うのならば間違いないだろう。


「突然で悪いがオーク狩りに付き合って貰えないか。私からの臨時の依頼となる」

「オーク相手なら別に構わないわよ」

「助かる。すまないが、フーラを借りるぞ」

「構いません。僕たちのパーティーには勿体ないくらいですから」


 ハウエル達はフーラを連れて行くのにも異議はないようだった。無理やりパーティーに押し込めたり、引き抜いたりして、正直悪い気がする。今度、飯でも奢るとしよう。


「それでは明日に向けて出立の準備をしてくれ。食料なども必要になる」

「わかったわ」

「報酬も決めないとな」

「もう二回り、胸を大きくしてくれるのでいいわよ」


 フーラは期待するように俺を見る。


「……それ以上大きくしたら、冒険者稼業で支障が出るだろう。お金で支払う」

「むう……」

「それより胸の形が少し崩れてるだろう。靭帯を治してやるから、後で見せろ」

「そうそう、少し垂れちゃったのよね。大きいと困っちゃうわ」


 フーラは胸を下から持ち上げて、ボインボインと揺らす。おい、クリス達がガン見してるから。青少年の教育に良くないぞ。


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