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百四十五日目 無料診療

 とりあえず、トップと話をつけて、委託費用も払った。これでガンガン治療が出来る。俺の神聖魔法の腕は第八階位で止まっているので、これを機に腕をどんどん上げることが出来るだろう。


 しかし何分急な話なので、メガン神殿に三日ほど準備期間を設けた。俺だけでは手が足りないのは目に見えているので、他の神官にも参加して貰う。幸いにもかなりの神官を、この街のメガン神殿は抱えているようだった。神殿の本殿や前の広場に簡易な仕切りを作ったりして、来訪者を捌く計画を立てて貰った。


 その間に俺は街の病人を軽く見て回った。どんな病人が多いか傾向を探っておいて損は無い。そこで分かったのは栄養失調が由来の病気、または単なる栄養失調が多いということだった。病気が治っても腹が減って再度病気になっては困る。幸いなことに深夜は世界の背びれへと探索を進めているので、徘徊するオークには事欠かない。大量のオーク肉を用意することが出来た。


 街は病人も多かったが、それ以上に怪我によって働けなくなっている人も多いようだった。足を骨折した場合に、正しく繋がらなくて歩けなくなるというのはしょっちゅうのようだ。


 こういう元怪我人を治す場合には、高位の術である再生が必要になるため、大量のエネルギーが必要になるのが目に見えた。そこでリガクラウに変化して、オークやトロール相手に「やあやあ我こそは高名な騎士なり、お前たちを退治して……くっ、殺せ!」という具合に、エネルギー回収にも勤しむこととなった。


 異種族に捕まる女騎士なんて、元の世界での創作だと思っていたのだが、面白いようにオークもトロールも引っかかる。……気の強い女騎士っていうのは、異種族の好物なのだろうか?




 三日間の準備を終え、いよいよメガン神殿で無償治療が始まった。


 トップの掛け声で始めたとはいえ、ここの神殿にいる神官達は治療に懐疑的だ。人を容易に癒し、回復させる神聖魔法はまさに神の御業と言えるが、人の持つ魔力を大量に使う。階位が上がれば上がるほど、それは顕著ですぐに魔力切れになってしまう。いきなりやって来た無所属の神官と自分達だけで、大量に殺到すると思われる人員を捌けるのか不安なのだろう。


 だが一部の神官はやる気になっている。人々を救いたいと思って神官になってみたものの、上層部は権力闘争にはまっており、権益があるために自由に人を癒せない。そのジレンマに苦しんでいるのだろう。無償奉仕で人々を救えるということで、今は喜々としている。近隣の村から、似たような境遇の同志をわざわざ呼んでくれるほどであった。


 当初から人が殺到する混乱を避けるために、大々的な宣伝は避けていたのだが、朝になると既に大量の人が集まっていた。あらかじめ見習い神官に頼んでおいたとおり、列を作って並ばせる。そしてまずは三つのカテゴリーへと分けて貰った。


 まずは怪我人だ。傷が比較的新しいもので、これはすぐに治療を行う。神聖魔法でも階位の低いころから、傷を治療する魔法は多数あるため、ほぼ全員の神官が対応できる。これは片っ端から治して貰う。


 次に病人。『病気回復(キュア・ディジーズ)』の魔法は第三階位の魔法だが、これは唱えればすぐに病気が治るものではない。病気によって、治りやすいものと、そうでないものに分かれるためだ。術者の技量と病気への理解によって治りやすくはなるが、治療が困難な病気も多い。『病気回復(キュア・ディジーズ)』の魔法が通じないと魔力を無駄に消費してしまうので、症状が重い相手は後回しにさせて貰う。


 最後に部位欠損や障害のある相手だ。過去に怪我を負って治ったが、身体の一部を失ったり、重い障害が残った人間がこれに当たる。ヴォルフもこのカテゴリーだ。これは高階位魔法の『再生』でしか治せない。ここは自分の番だとばかりに、俺が治療を行う。


 病気と言っても、単に栄養失調でヘロヘロな人間も居る。そういう相手のために、オークの焼肉とパンを大量に用意した。オーク肉はストックしてあるのを提供し、パンは小麦をマルソー村から買い付けて、神殿の孤児達に焼いて貰った。メガン神殿は慈悲の神に相応しく、孤児院を経営している。オーク肉とパンを腹いっぱい食っていいという条件を出したら、喜んで孤児達は手伝ってくれた。


 大量に並んだ傷病人達だが、昼頃には部位欠損の患者はほぼ治した。再生はかなりエネルギーを使う魔法だが、それさえ気にしなければ一定のリズムで次々と唱えることが出来る。今日のためにエネルギーはストックしていたので、とにかく魔力消費は気にすることなく、俺は高位魔法をガンガン唱えることが出来た。


「う、腕が……」

「ま、また目が見えるぞ!」

「聞こえる、音が聞こえる!」


 失った腕や足、目などが治ったことで患者達には随分と驚かれた。俺を拝みそうなのを、食事をしていけと患者の列から追い出す。幸いなことに食欲には勝てないらしく、人々は感謝しながらも、スムーズに俺の治療場所から移動してくれた。


 手が空いた俺は、次は病気の患者へと移る。ここでこの世界に来て、初めて俺の異世界チートが生きてくる。『病気探査(ディテクトディジーズ)』という病気の情報を集める低階位の魔法がある。これでウィルス性、細菌性、もしくは遺伝性など、病気の素人である俺にも情報を伝えてくれるのだ。この世界の人間はウィルスや細菌、遺伝子など知らないので、通常は病気探査ではそこまで細かく情報が出て来ない。少し異世界転移の優越を感じてしまう。


 病気の原因が分かれば、一気に治す必要は無い。まずは『病気回復(キュア・ディジーズ)』でウィルス性の病気にはワクチン、細菌性の病気には抗生物質を患者に与えて、病原を弱らせる。神聖魔法の凄いところは、知らないウィルスなどでも対抗するワクチンを生成してくれるのだ。こういうのは前に居た世界のテクノロジーをはるかに超えている。


 こうやって患者の病原を弱らせてから『病気回復(キュア・ディジーズ)』を改めてかければ、少ない魔力で治すことが出来る。ちなみに遺伝性の病気など、その他の病気については、そのまま『病気回復(キュア・ディジーズ)』を使って治すしかない。普通は治らない遺伝性の難病などは魔力を注ぎ込んで威力を上げなければならず、極めて非効率的だった。仕方ないが根性で治すしかないのだ。肝臓病も多く、こういうのは『再生(リジェネレーション)』で手っ取り早く修復した。悪い肝臓を治すのも、新しい肝臓に置き換えるのも、魔力としては消費が同じだったからだ。


「リモーネ様、大丈夫ですか?」

「大分力を使いましたね」


 日が傾いてきた頃に、ヴォルフが俺を訪ねて来た。魔力枯渇であっさりへばる名だけの神官が多い中、彼は怪我の治療で大活躍だったそうだ。多少は修行の成果があっただろうか。


「少し神殿から離れます。重症患者はある程度は治療しましたので、問題は無いかと思います。ですが急病人、もしくは患者の容体が急変するかもしれません。その場合は、ヴォルフが中心となって、神官達と対応して下さい」

「どちらに参られるのですか?」

「少々、食事をしに、ヴォローチに」


 にっこりと笑顔で告げると、ヴォルフは若干顔つきが強張っている。まあ、精を搾り取るっていう生物は、人間から見れば恐ろしいだろうな。それもトロールを襲おうっていう相手なのだから。


「キリのいいところでちょこちょこ戻りますが、朝まで獲物を捕らえないといけないと思います」

「そんなにお食事が必要なのですか?」

「予想していましたが、やはり患者の方が多かったです。随分とエネルギーを使ってしまいました」

「たしかに……わかりました、お任せ下さい」


 サキュバスの俺はエネルギーは多いのだが、やはり魔力として使えば随分と目減りする。魔法を使えば使うほど、使用魔力のロスなどは抑えられるが、やはり随分と目減りしてしまった。


「それでは、よろしくお願いします」


 俺は周囲に誰の目が無いことを確認してから、瞬間移動を行った。


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