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八日目 魔法のバッグ

【リン】


 俺が冒険に出てから一週間が経った。その間、俺は順調に狩りをこなし、モンスターの素材を納入し続けた。


 最初の二日は気付かなかったのだが、俺には今まで行った場所に移動するという瞬間移動の能力があった。システムに頼んだチート能力だったのに、サキュバスに転生したことで、すっかり忘れていたのだ。おかげで最初にシステムに移転させられた森の奥にある池の周りでオオカミを狩り、帰りは街の直ぐそばに転移するということを繰り返すことができた。


 そして、今日は今までで最高の討伐数になった。


「オオカミ、三十匹を狩ってきました」

「……カウンターに置いてくれ」


 いつものように素材引き取りのカウンターで、担当のおっさんにオオカミを引き渡す。しかしオオカミばっかり狩ってるのも、問題かもしれないな。ここの駆け出し冒険者が狩っている弱いモンスターだし、数が少ないと収入減になってしまうかもしれない。


 そろそろ別の獲物を狙うべきと判断して、受付のおっさんに声をかける。


「カイトスさん、オークって何処に生息してるか、教えて貰っていいですか?」

「フラオスの北側あたりの森から出てくることが多いな。山の中の洞窟で増えてるらしい。狩りに行くのか?」

「はい、オークって報酬が高いみたいなので。初心者にはまだ早いですかね?」


 俺の言葉に、カイトスのおっさんは妙な顔で俺のことを見る。


「一日にオオカミ三十匹も一人で狩ってくるような奴は、初心者とは言わねーよ。嬢ちゃんは中級者ぐらいの実力はあるんだから、バンバン狩ってこい」

「ええっ!? い、いや、まだ駆け出しですよ」

「お前が初心者なら、他の奴らのメンツが立たねーよ!」


 周りを見ると、他の冒険者達が沈んでいる。おかしいな、そんなに狩っている気は無かったんだが……。


「オオカミなんて、一人一日で四匹狩れば十分なんだよ」

「あ、そんなものなんですね……」

「オークも期待してるから、バンバン狩ってこいよ」


 おっさんに妙に期待されてしまった。まあ、初心者用のモンスターとはいえ、ソロで若干狩り過ぎた気はしないでもない。だが俺は異世界に来て、チートで「俺って、つえええええ」と自己満足するために来たのだ。目立たないように自重していたら本末転倒だ。俺はギルドを出ながら、今後の対策を練る。


「そういえば、オオカミを吊り下げてきたのも問題かもな」


 駆け出し冒険者がアイテムボックスを使うのは怪しすぎるということで、俺は木の枝に倒した獲物を吊り下げて今まで持ってきていた。だがそれで怪力なのではないかと、妙な嫌疑をかけられることとなった。


 先日、力自慢の冒険者がギルド内で腕相撲をしていた。面白そうなので、俺も参加しようとしたのだが、


「リンに銀貨10枚」

「俺は20枚」

「全財産、金貨1枚賭けるぜ」

「……賭けが成立しねーよ」


 その場に居た全員が初心者の俺に賭けていた。おかしい……外見は純朴そうな村から出たばかりの少女にしたんだが。もちろん、腕相撲にはあっさりと勝ったが納得いかなかった。


 しかしオークを吊るして持ってくるのはさすがにヤバいかもしれない。ここはアイテムボックスのような品物が無いか、道具屋で探してみよう。幸いにも金貨が何枚かある具合には、懐が潤っている。変化の力で武器と防具を出しているので、今までそういう店は見てなかった。今のうちに確認しておくべきだろう。


 大通り沿いにある店の中で、俺は他の冒険者もよく使っているという道具屋に足を運んだ。広い店内のカウンターには様々な道具が並んでおり、この世界の技術レベルがわかるような品物が多いので、興味を惹かれる。その中でもキャンプや旅用品が多いのは、冒険者がよく使う店だからだろう。


「すみません。品物を容量以上に収納できる魔法のバッグとかありますか?」

「ああ、あるよ」


 俺の注文に、店の番をしていたおっさんが来てくれる。愛想はよく無さそうだが、堅実そうな商人に見える。


「これなんかは2倍入って、金貨2枚。こっちは容量は少ないが、重さを2割軽減するから、金貨8枚だ」


 おっさんが出してくれたバッグは、普通のリュックサックぐらいのバッグだ。確かにこれに2倍入るというのなら、凄い商品のはずだが、狩った獲物を入れるには容量が少なすぎるだろう。そんな中、バッグの一つが目についた。


「このバッグ、他より安いですけど、どうしたんですか?」

「ああ、それな。容量は凄い入るんだが、重量が10倍になるっていう役に立たない品なんだよ。それでも倉庫のスペースを空けるには役に立つから、誰か買わないか試してるんだが」


 重量が10倍とか、欠陥品にもほどがあるだろう。だがまあ、確かに商人のおっさんが言うように物置みたいな使い方は正しいな。


「すみません、こちらのバッグ下さい」

「構わないが、冒険に持っていくには向かないぞ」

「ええ、わかってます」

「銀貨60枚だな」


 高いと言えば高いが、今の俺には問題無い。それよりはアイテムボックスの偽装をするためのアイテムを持つ方が大事だ。俺は支払いを終えると、鞄を手に入れた。


「あとついでに冒険者セット下さい」

「はいよ」


 たいまつや毛布など、冒険者が使うような物をひとまとめにしたセットも一応は買っておく。寝食無用で夜目も利く俺には不要かもしれないが、冒険者としては持っていた方が良いだろう。商品を買った鞄に入れるフリをして、アイテムボックスに入れる。これで偽装も完璧だ。


 よし、これでオークを倒す準備が整った。商店を出た俺は、ゴブリンに続くファンタジー定番の悪役退治に気合を入れる。


 しかしなんだ、この世界の人はオークの肉を食うっていうのは、凄いな。デミヒューマンを食うって、オーガと変わりないんじゃないか。だがまあ、食うというのならば、俺も素材を集めるしかない。俺は新たな狩りへの期待に胸を膨らませた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームじゃなくて異世界でモンスターじゃなく狼なら無限ポップなんかしないんだからそんなに狩りまくってたら周辺から狼いなくなって生態系崩れない?
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