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ジ・ロースとヴォルフ

王都グラパルスリニアの魔神ジ・ロース


「おお、よしよしよし」


 我が腕の中には小さな赤子が居る。耳が尖っているのでヒューマンではない。エルフ、その中でも魔力の強いハイエルフの赤子だ。


『ジ・ロースは子煩悩ですね』

「そうよのう。目に入れても痛くないだろうな」


 我が肉体を共有しているマトーシュの言葉に、我は頷く。王女の言っていることは間違いではない。まさか子供がこんなに可愛いものだとは、魔神であった我は知らなかったのだ。


『その優しさを、少しでも恋人達に分けて欲しかったものですわ』

「……む、むう」


 ため息をつくようなマトーシュの言葉に、思わず言葉が詰まる。確かに我が嫁達を集めた我のやり方は酷いものであった。アラースは奴隷売買を禁止しているが、他国から高価なエルフを買い求めた。泣き叫ぶ女どもを手籠めにし、無理やり孕ませた。鬼畜のような所業だろう。


 だが子供が出来てから、我の中で何か変わった。子供が愛しいと思うと同時に、それを授かった女たちが非常に大事なものに思えたのだ。


「許してくれると思うか?」

『ええ、もう許していると思いますわ』


 我の思いが変わったのを、睦みあっているエルフ達は敏感に察したようだ。エルフも魔神も高い魔力を持つ種族だ、何となく相手の思いを感じてしまう。我が軟化してから、エルフ達も少しずつ我を受け入れたようだ。


 更に腹に宿った子がハイエルフと分かってからは、大いに喜ばれた。ハイエルフは非常に数が少ない、魔力の高い種族だ。我が魔神の高い魔力の精を受けたことでコモンエルフが、上級種族を孕んだのだろう。エルフにとっては奇跡に近く、名誉と思っている。


 一番我に抵抗したのは人間であるロザリアだ。だが彼女も赤ん坊を産んでからは、随分と風当たりが柔らかくなった。マトーシュの意識が戻ってからは、更に優しくなっている気がする。


「許してくれている割には、メイド達に弄られることが多いのだが……」

『その程度で許して貰っているのです。恨まれるよりはマシでしょう』

「しかしだな……」

『母子姉妹共に恋人にするとか、普通ならば恥ずかしくて表を歩けないのですよ』

「う、うぐう」


 我が優しくなって一定の交流を経てから、我が家のメイド達は我に辛辣になった面もある。性欲魔神、男根で物を考えている、超サイテーなどと容赦無い言葉でからかわれる。前二つは何も言い返せぬが、サイテーと言われると、魔神でも凹む。クスクス笑いながら揶揄われるので、多少は我慢できるが……。


『おまけにまた何処からかエルフの母子を連れてきたとか……』

「いや、あれは何人からか、里を追われて困っていると相談に乗ったのだ」

『それでは手を出して無いのですよね』

「あー、そのだな……ハイエルフが増えるのは、エルフにとって大事とかで」

『やっぱり……』


 魔神の我はあまり睡眠を必要としないが、マトーシュの意識は眠りを必要とする。その間に楽しんでいるのだが、隠し事をしてもロザリア達はマトーシュを頼りにしているので、全て筒抜けだ。


『そのようなことでは、子供達に示しがつきません。教育に悪いですわ』

「う、うーむ……だが道徳的に正しい魔神というのは……」

「失礼いたします」


 また例のごとく、マトーシュの説教が始まろうとしたところ、ロザリアがやってきた。助かった。妊娠期間が長いエルフと違い、出産を大分前に終えた彼女は、既に二人目の子供が腹に居る。


「お客様です、マトーシュ様、ジ・ロース様」

「誰だ?」

「リョウ様とお連れの方です」

『お通しして』


 ぬぐう、マトーシュめ、勝手に許可を与えおって。しかしリョウに連れとは珍しい。


「ドえライもーん、ジャイアニズムに対抗するためにマジックアイテムを貸してー」

「誰だ、それは!? また変な呼び方をつけるんじゃない!」


 入って来たのはリョウ、サキュバスの冒険者だ。サキュバスとしては相当な変わり者だ。生まれは奈落ではなく、この世界だという。そのせいか極めて人間に友好的なうえ、正義感が強い。人を助けるのを専ら生業としている。


 我には……少々理解し難い。我ら魔神は己の欲望の思うがままに動くのが生き様だ。だがリョウは人の守護者のように動いている。女を思うがまま犯し、孕ませるために、王女とこの国を守る契約をしている我とは違う。こやつは見返りなど求めておらん。


「ジ・ロース先輩、ちわーっす」

「ぬう、謎の挨拶を……だがお主、少々気安すぎではないか?」

「マトーシュ王女におかれましては、ご機嫌麗しく」

『リョウ様、お久しぶりです。我が国へのご助力、常々感謝しておりますわ』

「おい、随分と対応が違うではないか」


 マトーシュに腰を折って挨拶するリョウに噛みつくが、こやつは何処吹く風という感じだ。


 仕方ないので、リョウが連れてきた男に注目を移す。大人しくしているが、えらく剣呑な雰囲気を持った男だ。我のことを値定めしているような目で見ている。何者だ……腕は立ちそうだが。


「あ、そうだ。今日は私の仲間を連れて来ました。彼はヴォルフ」

「……よろしく」

『よろしくお願いします。この国の第三王女、マトーシュです』

「ジ・ロースだ」

「彼はメガンに仕える神官で、異端審問官をしていました」


 なにっ!? 異端審問官!? ならば、我の敵にあたるのではないのか?


「先輩が何かおイタしたときに、私がかけつけられないときは、彼を頼って下さい、マトーシュ王女」

『まあ、それは……とても頼もしい方をご紹介して下さいまして、ありがとうございます』

「貴様、我の前でそれを言うか!?」


 こやつ、一体何をしに来たのだ。思わず大きな声が出てしまった。すると腕の中の我が子が泣き始めてしまう。


「あー、よしよし。大きな声を出してすまなかったな。よしよしよし……」

「先輩の赤ちゃんですか」

「そうだ。変に刺激しおって……」

「少し抱いていいですか?」

「むう、気をつけろよ」


 我が子を渡すと、リョウは非常に慎重な手つきで受け取る。リョウに抱かれると、泣いていた赤ん坊は次第に泣き止んでいく。


「ふーむ、意外に上手いものだな」

「多分、おっぱいの差かと」

「なるほど、豊満なおっぱいに赤ん坊を半分乗せて、安心させてるのか。胸が無いこの身体では無理よのう」

「嫉妬しないんですか?」

「我は大きな胸が好きではあるが、他人の胸がすきなのであって、自分の胸は無い方が軽くて良い」

「なるほど」


 我が子が目を瞑って、すやすやと寝てしまう。次に起きたときは食事を欲しがるだろう。母親を目配せで呼ぶと、彼女に我が子を返した。


「さてと、今日は一晩泊まっていくのか? いくなら歓迎するぞ」

『ジ・ロースの悪い癖が出てますね』

「なんじゃ、悪い癖とは」


 我のリョウへの誘いに、マトーシュがため息をつくような声を出す。


『浮気です。恋人達が凄い目で見ていますよ』


 ぬおお、確かに周囲のメイド達が我を射殺すような目で見ておる。だ、だが、魔神としての矜持がある。


「ふ、ふん。サキュバス相手など、浮気には入らぬわ。それで、リョウよ、どうする?」

「用事が終わればそれもやぶさかではないんですけどね」

「用事?」

「コーナリア王国の南部にあるハルシュがオークに囲まれているんで、先輩に助けを借りようかと」

「ぬうう、またか!」


 リョウがこちらに顔を出すのは二つに一つ。我の精気を吸うか、我と共にオークを狩るか、それともその両方かだ。このサキュバス、見目は最高だが我を利用してばかりだ。


「アラースのことはともかく、他国のことなど知らん。帰れ」

『ジ・ロース……そんなことを言わずに』

「知らん」

「うーん、残念」


 リョウの姿が切り替わる。今まで見たことのない姿で、金髪に神官の服を着ている。メガン教徒らしいが、突き出た胸がいやらしい。


「新作の姿もあったんですが」

「ぬ、ぬぬぬ……」

「もちろん、今までのも構わないですし」


 神官から騎士、町娘、村娘、そして冒険者と、リョウの姿が目まぐるしく切り替わる。そのどれもが見事すぎる双球で服を押し上げている。


「えーい、わかった! とっととオークを殺して帰るぞ」

「さすがは先輩、話が早い」


 我があっさりと折れると、リョウは若い冒険者の姿で手を叩いて喜ぶ。


「ふん、とっとと行くぞ」


 我がリョウの瞬間移動を待とうとしたところ、彼女ではなくメイド達がわらわらと寄って来る。先ほどの冷たい目ではなく、心配するような目だ。


「ご武運を」

「無事帰ってきて下さいね」


 メイド……いや、我が嫁達からのキスを順番に頬に受ける。そして、最後にロザリアが前へと出てくる。


「ジ・ロース様……姫様を頼みます」

「我とマトーシュは二心同体よ、何も心配するな」

『ロザリア、ありがとう。留守は頼みますよ』


 ロザリアの柔らかい唇を頬に受けてから、我はリョウの横へと並び立った。


「……なんか先輩がくそ羨ましいんですけど」

「ふふ、羨ましかろう」

「先輩、そのうち刺されますよ」

「なんてことを言う!」

「姫様と同じ身体なんで、気をつけて下さいね。では、行きます」


 我の見る景色が瞬時に切り替わった。



メガン異端審問官のヴォルフ


 私がリモーネ様……いや、リョウ様にお会い出来たのは、今までの人生で一番幸せな出来事だっただろう。


 幼少の頃、火事で俺は大けがをした。もはやぼんやりとしか思い出せない両親は比較的裕福な商人だったが、自宅が燃えた際に死んでしまった。俺自身も大やけどを負い、家の近くにあったメガン神殿の、神官達に助けられなければ死んでいただろう。


 しかし生き残ったとはいえ、俺は大きな代償を負った。頭と顔の上半分は醜く焼けただれ、片目は潰れて、残った目も僅かに開く隙間からしか見えなかった。この火傷あとは、神官にも治せないと言われ、俺は醜い姿で生きていくこととなった。


 孤児になった俺は幸いなことにメガン神殿で育てられることとなった。路地裏やスラムで生きるよりはよっぽど待遇がいいが、醜い俺に注がれる目はメガン様の使徒からでも、恐れや嫌悪だった。


 そんな俺にメガン神殿の裏である異端審問官にならないかと誘いがあった際には、他に選択肢は無かった。師匠となる異端審問官に訓練された俺は、十年以上修練を積んだ。才能があったのかもしれない、師匠や同僚が時たま命を落とすなか、生き延びたのだから。


 だが異端審問官はつくづく最低な仕事だった。司祭や神官同士の争いに利用され、腐敗した司祭から腐敗した神官の弱点を探るように命令される。互いに悪同士が争うのだ、告発しても神殿は清廉とは程遠い。真に清廉な者達は、そもそも権力争いには加わらない。ひたすら汚い仕事をやらされた。


 時たま邪教の信者や、不死者などが本当に絡む仕事があるのも厄介だ。普段は堕落した神官の排斥ばかりなので、いざ悪の先兵と戦う際に同僚などは命を落とした者が多かった。俺はそういう仕事こそが、本当の異端審問官が行う仕事だと思ったが。 


 続く下らない仕事に絶望と、真の悪との戦いに僅かな満足を得ていた俺に、あの仕事が来た。偽りの聖女を捕まえるという仕事だ。


 メガン様の神託は俺にも下った。敬虔な信者から下っ端の神官、腐敗した司祭にまで届いた神託だが、俺にも神託があったのは本当に感動した。俺も愛されていると思ったからだ。


 喜びいさんで偽聖女を捕まえにいった俺は、何人かの詐欺師を捕まえた。どれも小物の詐欺師だったが、聖女を騙るとは許せなかった。片っ端から捕まえている際に、俺はリョウ様にあった。


 眼が曇っていた俺を、リョウ様は奇跡で祓ってくれた。俺の傷を治し、自らが聖女であることを示したのだ。誰も治せなかった俺の傷が消えた俺は、怪物から人になれたと思った。俺はメガン様と聖女に一生感謝を捧げると誓った。異端審問官であろうが関係ない、自分の全てを捧げたいと思った。


 リョウ様は聖女と言うには、非常に変わっている。


 まずはサキュバスということだ。食事は人のように食物を取るのではなく、精気を吸う。あまり褒められたものではないが、人を殺すほどは精気を取っていないそうだ。代わりにオークやトロール、オーガなどを精気を絞り取っている。


 更には売春婦でもある。これは精気吸収するのが主な目的で、得られる金は副次的なものらしい。


 これらのことは全く聖女らしくない。だが彼女の行動は常に人々を救うことを念頭としている。まずは貧しい村々を回って、人々を治療して、食料を施している。まさに聖女に相応しい。メガン様が選んだのも納得だ。


 それと同時にモンスター退治にも熱心だ。人に仇なす亜人などを特に気にして戦っている。冒険者も腕が良くなれば金になるモンスターを、人里離れた奥地で狩るのを目的とするが、リョウ様は違う。人への脅威と見れば、近隣のゴブリンやオーク退治も熱心に行う。将来的にはもっと色々なモンスターと戦ってみたいと言っていたが、今はそんな余裕が無いという。


 今日もハルシュに押し寄せたオークを止めようと戦いに来ている。


 ハルシュは堅固な城塞都市だ。市街をぐるりと高い壁が囲んでいるのは、コーナリア王国の主要都市の特色だ。だがその高い壁に雲霞の如くオークが取り付いているのを見て、俺は正直に言ってもうこの都市はダメだと感じた。だがリョウ様……いや、今回はリン様となっている彼女は、人を救う手立てを持っていた。


「ヴォルフ、城壁に上がったオークを頼む!」


 リン様と一緒に城壁を駆け上がると、多数のオーク達が城壁に取り付いているのが見えた。幾多のハシゴがかけられて、オークが上がってきている。兵士と冒険者達が必死に攻撃するが、次々と城壁の上へと上がってきている。


 そんな中、ジ・ロースはオークの腰ベルトを掴むと、城壁の下へと投げ捨てる。そして城壁の石積みへと軽くジャンプして乗る。


「『豪火球(ファイアーボール)』」


 ジ・ロースの放った火弾が眼下の集団へと炸裂する。多数のオーク達が爆裂音と共に吹き上げられる。凄まじい威力だ。悪の先兵たる魔神の力を借りるのはどうかと思ったが、こういう場面では頼もしい味方だ。ジ・ロースは一発だけでなく、次々と魔法の火球を投げつけはじめる。


 凄まじい魔神の魔法に圧倒されたが、俺も出来ることはするべきだ。兵士に襲いかかっているオークへと鎖を左手で投げつける。先端に取り付けられているナイフが首に刺さり、俺が抜くと同時に頸動脈から血が噴き出す。


 そして右手で鎖を回転させて振り回す。鎖から手を離すと勢いよく先端の分銅が飛び、背後から俺に襲いかかろうとしたオークの脳天へと当たる。頭蓋が割れて、ピンクの脳漿が飛び散る。


「すっごい! やっぱりヴォルフは凄いね!」

「いえ、そんな大したことでは……」


 オークの一体を飛び膝蹴りで吹っ飛ばしたリン様が、感動したように俺を見る。照れてしまうが、彼女に褒められて正直に言えば嬉しい。


 あまり褒められた人生を送って来なかった俺でも、唯一自慢できるのは鎖術だ。短剣と分銅がついた鎖を使う戦闘法だが、これでありとあらゆる敵を葬ってきたのだ。かなり腕が立つ方だと自負している。


「これなら城壁の上は任せられるね。頼んだよ」

「リン様!?」


 にっこりと笑うと、リン様は城壁から飛び降りる。あまりにも自然な動きで、止める暇も無かった。慌てて城壁の下を見ると、オークの首を蹴り折っているリン様が見えた。そして次の瞬間には、彼女は跳躍していた。スリングから発射された弾のように跳ぶと、彼女は城壁にかかったハシゴを、取り付いていたオークごとへし折っていた。


 リン様はすぐに反転してオークの集団に跳んで、一体の頭を踏みつぶす。そしてそれを踏み台に、城壁に取り付けられている別のハシゴへと跳んでへし折る。


「でりゃああああ!」


 リン様は凄まじいスピードで反復を繰り返し、城壁に取り付いたハシゴを破壊していく。人間の動きではない。サキュバスだから出来ることだろう。あまりの凄まじさにオークも町の人間も、唖然と見てしまう。


「あの人間のメスを止めろ!」


 大半のハシゴをへし折られた時点で、オーク達がリン様の動きを止めようと動き出す。集団へと跳んだリン様に向かって、オーク達は密集して槍を大量に並べたのだ。槍の穂先は獣の骨を削った貧相なものだが、それでも殺傷力はある。


「リン様!」


 凄い勢いで跳ぶリン様が串刺しになるかと思った瞬間、彼女は手元から鞭を放った。鞭は城壁の上に並ぶ壁のスリットに絡みつき、リン様はぐるんと円を描くように動きを変える。


「先輩!」

「うむ……『豪火球(ファイアーボール)』」


 ジ・ロースの放った魔法が密集していたオークに炸裂し、多数の敵をバラバラにした。


「ナイスです、さすが先輩」

「ふん。これくらい何とも無い」


 大きく旋回して城壁にリン様が降り立ち、ジ・ロースが頬を歪めて笑う。凄すぎる……俺は神話の英雄を見ているのか?


「さてと、オークをもっと減らさないと……ヴォルフ、引き続き頼みますね」


 リン様は再びオークの集団へと飛び込む。そして激しく飛び回って、オーク達の頭を潰し、首をへし折っていく。ジ・ロースも豪火球を、城門へと近づいていた破城槌をへと撃ち込む。大木を利用して作られた破城槌は、一撃で吹き飛んで大量の破片を撒き散らしてオーク達をズタズタにする。


 俺も負けてはいられない。少しでもリン様の助けにならないと。俺は何とか登って来たオーク共の頭を鎖で潰し、城壁を守り続けた。


 ハルシュを襲ったオーク達は攻城兵器を潰されたせいで、高い城壁の前で立ち往生することとなった。その間にジ・ロースや冒険者達の魔法や弓、そしてリン様の突撃で一方的に数を減らしていく。更には怪物召還の魔法を神官が使えるのを思い出したリン様が、大量のジャイアントセンチピードを呼び出して、傷を広げた。陽が落ちても城塞を攻略出来なかったオーク達は、森へと撤退することとなった。


 オークの大軍を退けて、一つの街を救った。その出来事に俺は驚愕した。


 魔神の助けがあったとはいえ、一個人の介入が大軍を退けるというのは、吟遊詩人が歌う英雄だけがなしとげられることだ。そんな凄い方と一緒に居られることを俺は、心から感謝した。


 リン様は魔法で傷を負った兵士や冒険者達を癒した。なけなしの魔力で、俺も人々を癒したが、彼女に比べるべくもない。そして翌日の決戦に備えた。だがオーク達は戻って来なかった。


 夜のうちにリン様が森に逃げたオークを追ったらしい。詳しいことはわからない。だが彼女の言った台詞が印象的だった。


「いやー、オークってお金になるのに、幾らでも産まれて来るからいいね。森の生態系とか気にしなくてもいいし」


 リン様は私の想像を遙かに超えたお方だ。


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