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百十三日目 豊穣な胸

本日二度目の更新

 結果だけを見れば、オーク狩りの軍配は俺に上がった。オークを殺すのには散々慣れた俺だ、百匹以上の成果をあげることが出来た。


 俺のペースを見て、青き鷹は唖然としていた。四十体止まりだったのだから、俺のペースはよっぽど凄く感じられたのだろう。だが青き鷹が弱いというわけではない。彼らがオークと戦う様子を見て感じたが、俺なんかより剣の腕はよっぽど上だ。


 特にテイチは俺が通う剣術道場の兄弟子達より遥かに強い。一対一ならばともかく、パーティーならば青き鷹は俺を圧倒するだろう。


「疑って悪かった。改めて俺の奢りだ、飲んでくれ」

「ありがたく頂こう」


 互いの実力が分かったところで、テイチと仲間達が酒を用意してくれた。俺が来たということで、仕事から戻って来た冒険者達もどんちゃん騒ぎをしている。


「しかし、こんなに奢って貰っていいのか?」

「いえいえ、気にしないで下さい。リグランディアさんは、この街の英雄と言ってもおかしくないですから」


 俺が来たということで、ジーン達四人も仕事帰りにギルドで待っていてくれた。一度パーティーを組んだだけの仲だが、若者達は随分と自慢に思ってくれているらしい。若い四人に尊敬されていると言われると、自尊心がくすぐられる。


「貴女がリグランディアって奴かしら?」


 気持ちよく酒を飲もうとしていたところで、また邪魔が入った。見れば十代の少女が腰に手を当てて、俺を見下ろしている。腰に二本の剣を挿しているのを見ると、間違いなく冒険者だ。


「そうだが……」

「ふん、とても英雄とは思えないわ」


 なんだなんだ、冒険者ってのはイチャモンをつけなきゃ死んでしまう病気にでもかかってるのか!? 


「おい、小娘。いきなり言いがかりをつけるんじゃねえ」

「うるさいわね。私はリグランディアに用があるの。それとも青き鷹はこの女の肩を持つわけ?」

「こいつ……」


 最初に言いがかりをつけた責任を感じたのかテイチが俺を庇おうとするが、少女はお構いなしだ。


「テイチ、別にいい。彼女は私に用があるらしい……それで、用件は?」

「貴女、この街を救ったとかチヤホヤされていい気になっているらしいけど、全然相応しくないわ」

「ほう……」


 堂々と俺を批判した少女に、俺は感心する。周囲の俺を持ち上げていた冒険者達の目が、かなり剣呑なものになっているが、彼女は一顧だにしていない。同業者とはいえ武装している男達に囲まれて平気とは、相当に大物に違いない。


「私が相応しくないというが、どういうことだ?」

「そのでっかい乳で男を誘惑したんでしょう!」


 あまりの理由に思わず椅子から転げ落ちそうになる。周りの冒険者達も口をがっぽり開けて、唖然としている。


「この下品な、乳で、勝手に持ち上げられたんでしょ!」

「お、おい、ちょっと」


 少女は人の胸を掴んで、グリグリと引っ張られる。サキュバスなんで、いかに乳を掴んで引っ張られようが、屁でもないのだが……。


「くそ、この乳が、この乳が悪い」


 おーい、周囲には男がいっぱい居るんですが。何か周りの目が殺伐としたものから、非常にいやらしいものになってしまってきている。クリスやジーン達は顔が真っ赤だ。


 何でこんなに恨まれているのかわからんと思っていたところ、少女の胸が目に入った……びっくりするぐらい平面だった。とっくに第二次性徴を迎えているだろうに、膨らみが全くと言っていいほどに無い。知的な上に可愛らしい顔立ちをしていて、胸以外は女性らしい体つきなのが残念さに拍車をかけている。


「おいおい、自分の胸が薄べったいからって、嫉妬するなよ」

「ぎゃはは、薄べったいどころか、何もねーじゃねーか」

「何ですって!?」


 少女が単にジェラシーを覚えていただけと見た冒険者達が、煽りたてる。


「殺すわよ!」

「おっぱいのことで、人殺しまでするのかよ」

「こえー、こえー」


 元から不機嫌なのに、少女は激怒する。平らな胸をバカにするような冒険者の態度がまたそれに拍車をかける。


「まあ待て。彼女をバカにするな。気持ちはよくわかる」

「はあ!? あんたみたいな牛乳女が私の気持ちなんて……」

「いや、わかる」


 断言した俺に、少女は少したじろいだように、一歩後退する。


 常々思うのだが、やはり身体的特徴を揶揄するのは良くない。努力が足りないとか態度が悪いなどは、本人の意思で変えられるのだから、あれこれ言っても構わないだろう。だが背の高さだとか、顔の美醜だとか、胸の大きさは本人の意思ではどうにもならない。それをバカにしてはいけない。


 俺はこんなマスクメロンみたいな魔乳をしているが、それはサキュバスに転生して変化で変えられるからだ。だが彼女は人間なのだ。自分でどうにもできない特徴を揶揄されたら、悔しいだろう。俺だって、前世で男の象徴を短小とか、ポークビッツとか言われたら、枕を濡らして泣いてただろう。


 世の中には俺みたいに、胸はボーリングの玉ぐらいがいいなんて男じゃなくて、大理石なみのツルツルした胸がいいという人も居るので、気にするなと彼女には言いたい。だがこうやって馬鹿にする人間が居る限り、彼女は一生悔しい思いをするだろう。


「やっぱり、胸の小ささを馬鹿にされるのは癪だよな」

「あんたに何がわかるのよ……」


 俺の言葉に少女は顔を背ける。こういう同情をかけられるとは思わなかったのか、先ほどまでの勢いは落ちていた。


「私はリグランディア。良ければ名前を聞かせてくれ」

「フーラよ」

「フーラ、もし胸が大きくなる方法があると言ったら、どうする?」


 名前を聞いた後に、俺は彼女の耳に顔を近づけて耳打ちする。さっと離れてフーラの顔を見たところ、信じられないという表情を浮かべていた。まあ、普通はそうなるよな。


「ここではなんだ。宿を取っているのならば、そこで話をするが」

「詳しく聞かせて! 近くに借家があるわ」


 フーラは俺の手をがっしりと掴んでくる。おう……めっちゃ食いつきが凄いな。


「ちょっとフーラと話があるので、中座させて貰う。また今度飲もう」


 フーラに手を引かれるまま、俺は席を立ってギルドをそそくさと後にする。後に残された冒険者には悪いが、今は彼女への対処が大事だ。


 フーラが借りているという借家は、ギルド近くの住宅街にあった。一階建てのこじんまりとした家だ。冒険者でも一つの街に腰を据えて暮らしている人間は、宿暮らしではなく借家を借りてる者が多いとフーラが説明してくれた。


 家の中に入ると、ベッドやテーブル、タンスなどの家具は幾つかあるが、置いてある物は少な目だった。住処が決まっているとはいえ、冒険者なのでいついかなるときに旅に出るかわからないから、物をあまり持たないのかもしれない。ただ花を幾つか飾っているのが、女性らしいと強く感じた。


「さて……」

「ん?」

「胸が大きくなる方法があるっていうのは本当でしょうね!」


 うおお、めっちゃギロリと睨まれた。これでもそこそこの冒険者として自負している俺でも、その鋭い眼光に思わず腰が引けてしまう。


「まだ試したことは無いが、多分上手くいくはずだ。こう見えても私はメガン教徒でな」

「あれ、教徒なの? 神官……にはあまり見えないわね」


 今はリグランディアなので、神官には見えないだろう。


「我が神メガンは慈悲の神ではあるが、同時に豊穣を司る側面も持っている。胸の大きさはある意味、豊かさの象徴でもあるので、それを豊かにする術もあるはずだ」

「……それって本当? なんか胡散臭いんだけど」


 フーラは今度は猜疑心の籠った眼で見てくる。まあ、詐欺師の口上と大して変わりは無いからな。


「メガン様に祈れば願いは届けられるだろう」

「うーん、信じたいけど……」

「疑うのならば、私の胸を見て貰えば少しは信用が……」

「信じる! ご利益、めっちゃありそう!」


 おう、めっちゃ食いついてるな。この胸は変化なので、メガン様とは関係無いんだが……まあ信じて貰えるのならば、いいか。


「思わせぶりなのもあまり過ぎると良くないだろう。それでは魔法をかけるので、服を脱いでくれ」

「わかったわ」


 フーラはささっと身体に密着した服を脱ぎ捨てる。その潔さに色気とかを全く感じない。普通ならば女性の胸を直接見たら、俺だって興奮するのだ。決して、心まで女に染まったわけではないと、強調したい。


 さて、改めて実際にフーラの胸を見るが、膨らみが全くない。フラット、完全な平地だ。少しの厚みもなく、すとーんとしている。別にこういう胸もありと言えばありだが、本人が嘆く理由もよくわかる。


「それでは魔法をかけるぞ。メガン様に祈ってくれ」

「任せて!」


 いきなり今日あった初見の冒険者に、いきなり豊胸の魔法を頼むのもどうかと思うが、それ程までに追い詰められていたのだろう。俺は美人の少女による願いを叶えるために祈った。


 使う魔法は再生(リジェネレーション)豊穣(ファーティリティー)の組み合わせのような魔法となる。通常、魔法の掛け合わせなんていうのは、滅多に出来るものではないみたいだが、俺の場合は神様と線が繋がっている。大量のエネルギーをメガン様に捧げる代わりに可能かどうか聞いたところ、大丈夫という返答があったのだ。メガン様はどうも俺に優しい、ありがたいことだ。


 フーラの胸に手を置き、俺は独自の神聖魔法を発動させる。俺の手が淡く光り、フーラの胸が少しずつだがゆっくりと厚みを帯びていく。単に胸を膨らませるだけでなく、なるべくお椀型に綺麗になるよう、集中する。


「まずはこのぐらいだが、どうだ?」


 確認の言葉に目を開けたフーラは、自分の胸を見る。信じられないように目を見開くと、何度も胸を叩いたり触ったりして確かめる。


「す……凄い! 本当に胸が生えた!」

「は、生えた!? いやまあ、元からの物を大きくしただけだが……」

「もっと大きくできる?」


 今のところCカップ程度の大きさにしたのだが、もっと大きいのがお望みか。再度魔法を発動させて、胸を大きくしていく。


 以前にネットのニュース記事か何かで見た、乳房の解剖図を思い浮かべながら、サイズを大きくする。豊穣(ファーティリティー)の魔法より、人体の欠損部位を修復する再生(リジェネレーション)の魔法による割合が大分大きい。再生(リジェネレーション)は第八階位の上位の魔法だが、大量のエネルギーを神に送るのと、人体の構成を分かっている知識によって、俺にでも制御できている状態だ。


 ちなみに現在、俺は第七階位まで神聖魔法が使えるようになっている。神聖魔法をマスターする日も近いかもしれない。


「どうだ?」

「凄い凄い!」


 今度はDカップにしてみたが、一回り大きくなった胸にフーラは興奮している。声は可愛らしく喜んでいるが、若干目が血走っている。


「もっと大きくできないの?」

「出来るが……」

「大きくして!」

「待て待て、一足飛びには出来ない」

「何で!?」


 フーラはぐわっと俺に顔を近づける。上半身裸の少女という姿なのに、『怖っ!』という感想しか覚えない。


「肉が足らない。胸を大きくするのに、とりあえず腕や太もも、お腹の脂肪を使わせて貰ったが、これ以上は寄せられない」

「あっ、なるほど……」


 フーラは自分の二の腕や太もも、腹を見ながら撫でる。胸を作るのに皮下脂肪を随分使わせて貰ったので、筋肉が浮いてしまっている。元からフーラはスレンダーなのに、更に引き締めてしまった形だ。


「なので、これ以上大きくするのには、肉を摂取して貰う必要がある」


 俺はアイテムボックスからオークを取り出す。


「ちょっと、それどうやって取り出したのよ!?」

「魔法の鞄に何体か入れて、いつも持ち歩いてる」

「それって重量が数倍になるバッグじゃ……はあ、まあいいわ」


 フーラは俺がオークを何処から出したのか、追及するのを諦めて、頭を振る。


「さっきはああ言ってしまったけど、貴女がオークを撃退したって話も本当なんでしょう。上位の冒険者って、常識外れなところがあるんだけど、貴女にもその風格があるから。そのバッグといい、この魔法といい、貴女も規格外だからわかるわ」

「上位の冒険者って、そんな凄いのか!?」

「全身をドラゴンの鱗で覆っていたり、魔法一つで城壁を吹っ飛ばしたとか、そんな人達よ」


 ほほう、やっぱり冒険者の上位陣は凄いんだな。俺もサキュバスっていうのは規格外だが、普通の人間でそんな凄い能力を持っているのならば、俺なんかより遥かに凄い集団だろう。


 それはさておき、とっととオークを食べて貰おう。オーク肉を切り分けたところ、調理はフーラが知っていた。新鮮なので簡単なステーキで食べればいいということで、どんどん焼いていく。


「……本当に貰っていいの? 随分と新鮮だけど」

「好きなだけ食べてくれ」


 前から言っているが、俺にとってオークの肉は路傍に生えた食べられる野草と同じ感覚だ。瞬間移動で東の大森林に飛べば、いつでも引っこ抜ける。


 胸の材料と聞いたためか、フーラはもりもりオーク肉を食い始めた。俺にも勧められたが、先ほど食事を奢って貰ったということで断った。スレンダーな身体だが、肉体が資本の冒険者なためか、フーラはかなりの量を食べ切った。


「さ、さあ、食べたから魔法を……」

「いや、消化して肉が血液に溶け込まないと、無理だ」

「えー……」


 血中タンパクや脂肪が上がらなければ、胸を膨らますのは無理だ。フーラが食事を消化するまでインターバルは必要だ。その間に胸が大きくなった後の注意点を確認する。


「服とか大丈夫か?」

「服……ああ、胸が大きくなったら入らなくなるもんね! そうね、買わなくちゃいけないもんね」


 フーラの綺麗な顔立ちが思いっきり緩んで崩れる。気持ちはわからないでもないが……ここまで喜んで貰えるとは。とりあえず、ローブみたいなぶかぶかな服を冬用に持っているというので、服を買いに行く際にはそれで済ませて貰う。


 その後、ある程度オークの肉が消化吸収されたと判断した時点で魔法をかける。今度はEカップ程度に胸が膨らんだのだが……。


「もっと大きくしたい!」

「あっ、はい」


 フーラの貪欲さに、思わず素で返事してしまった。


「別に構わないが、やはり肉がまだ足らない。オーク肉を置いていくから、食べておいてくれ。次に会ったときにまた魔法をかけるので……」

「そう言って、次は何時会うのよ?」

「うーん、わからん。でもたまにギルドには顔を出すから……」

「だめ、絶対逃がさない! いま大きくして!」


 フーラは思いっきり俺の腕を掴んで、絶対に離さないという目つきで俺を見る。


 ……何だか、非常に厄介な女性に捕まってしまった。



 その後三日かけて、フーラの食い歩きに付き合わされた。自宅でオークのステーキだけを食うのは味気ないということで、外の屋台やレストランを回ることとなったのだ。彼女は冒険者としては腕がいいらしく、食事代ぐらいならどうということはないらしい。もりもり飯を食う彼女に、何度も何度も神聖魔法をかける。


 幾ら胸につくとはいえ、よくまああれだけ食って平気だったものだ。ただこの世界の美味い物というものを一緒に食べさせて貰ったのは、いい経験だった。


 それで結局どうなったかと言うと……。


「ふふふ、見て見て、凄いでしょ」


 うん、凄い。巨大なボーリングの玉が二つ胸についている。


 こんなバカでかい胸の女なんて滅多に見ないから、目立ちまくりだ。いやまあ、俺も負けず劣らずの胸はしているが……。


「はあ……もう最高」


 フーラはめちゃくちゃ嬉しそうだ。そんなデカイ胸していると、日常生活に支障を来しそうなのだが……本人が幸せならいいか。


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