百十三日目 ベテランの言いがかり
西進して、いきなり足止めを食らうとは思っていなかった。だが神聖魔法を覚えたのと引き換えと思えば、大満足の結果だ。
異世界で魔法を使う……何と素敵なことだろう。ただまあ、回復魔法が主な神聖魔法というのはネックだが……でも神様と繋がりを持てたと思えば、これもいい結果だ。そのうち秘術魔法を覚える機会もあるかもしれないし。
さてと、数日間を農村で過ごしていた俺は、ファレンツオへと戻ってきていた。前回はオークに街を攻撃されていたので、その後どうなっていたか気になっていたのだ。
ラーグ王子に頼んで、オークへの報酬金を出資した成果を確認したかった。周辺のオークが減っていれば、万歳というところだ。せっかく神聖魔法を覚えたので、神官であるジーンに聞きたいこともある。
初級冒険者のリグランディアへと姿を変えると、俺は冒険者ギルドへとやって来た。入り口から入ると、すぐに冒険者達の目が俺に注がれる。冒険者ギルドは酒場と飯屋を兼ねてるんで、昼間でも人が結構居る。休養日でも情報収集を兼ねて、冒険者が来るとフラオスのギルドで学んでいた。
そういえばまだ休養日を取ったことが無かった。毎日オークを狩ったり、道場で修行したり、娼館でお仕事すしたりで休んだことがない。疲れを微塵も感じたことが無いからだろう。そのうち休みを取って、のんびりするのもいいかもしれない。
昼の少し前という中途半端な時間だからか、ギルドの中でチャックやジーン、ハウエル、クリスの駆け出し四人組は見なかった。ただ何人かの冒険者達が俺の姿を驚いたように見ている。
「おい、あんた……リグランディアか?」
「そうだが」
「おお、英雄様じゃねーか!」
「一杯奢らせてくれ。おーい、エール持ってこい!」
たちまち俺は、むさい冒険者達に囲まれる。前回この街に来た際に、城門の前でオーク相手に暴れていた俺を見た人間が結構居たようだ。
「さあ座ってくれ。あんたには借りがある」
「幾らでも飲んでくれ」
「ありがとう」
テーブルの前に座らされた俺の前に、たちまち酒が並ぶ。どうも冒険者達は俺がオークの集団に突っ込んだことを、高く評価してくれているらしい。サキュバスになってから酒に酔うことは無くなったが、折角なので頂くことにした。
「いやあんたすげーな。あんな大岩を振り回して」
「岩なんて何処に持っていたんだ。今も城門の前に残ってるけどよ、動かすの大変だったみたいだぜ」
冒険者は揃って俺を褒めちぎる。オークを相手に岩をブンブン振り回してただけで、技量もへったくれもないのだが……どうも、こそばゆい。
「本当にこの女がオークを蹴散らしたのか?」
いきなり冷や水を浴びせるような台詞に、俺を囲んでいた冒険者達が一斉に黙った。顔に幾つかの傷を持つ戦士らしきオッサンと、その仲間と思われる冒険者達がテーブルへと近づいてきた。戦士が三人、それに魔術師と神官というグループのようだ。
「お前がオークと戦ったリグランディアか?」
「そうだが、お前は?」
「俺はテイチ、青き鷹のリーダーだ」
青き鷹っていう冒険者のグループを率いているのが、このテイチっていうおっさんらしい。だがファレンツオの冒険者グループなんて知らないから、俺にはどれぐらいの腕前なのかわからない。
「その青き鷹のリーダーが何の用だ?」
「俺達はこれでも名の知れた冒険者だ。普通ならオークなんて相手にしない。だがファレンツオがオークの脅威に晒されているってことで、仕方なく手伝ってる」
俺は鋭い観察眼なんて持たないんでわからないんだが、どうやら青き鷹は上級、もしくは中級の冒険者らしい。王子に頼んでおいたオーク退治の報酬が効いてるのだろう、ベテランもオーク狩りを手伝ってくれているらしい。
「こうやって俺達が活躍しているのに割り込んで……困るんだよな、そういうのは」
ここにきて、ようやく俺はこのオッサンの狙いがわかった。要はイチャモンをつけたいのだ。冒険者っていうのは、やはり荒くれ者が多いせいか、上下関係をはっきりさせないと納得いかないという奴が多い。テイチは俺の上であるとアピールしたいんだろう。
正直に言えば付き合いたくないんだが……まあ別に今は急いでるわけでもない。俺は立ち上がると、ギルドの受付に行く。獣人らしきウサギ耳の可愛らしい受付嬢に声をかけることにする。
「すまないが、いいか」
「は、はい!」
「冒険者ギルドっていうのは、冒険者が依頼者にイチャモンをつけるのを容認してるのか?」
「ええっ!?」
俺の指摘が唐突だったのか、受付嬢は慌てふためく。それは青き鷹の面々も同じのようであった。
「て、てめえ、どういうことだ!?」
「オーク退治の依頼を受けているんだよな、お前達は」
「ああ、そうだよ」
「最近のオークに対する追加報酬は私が連名で出しているはずなんだが」
「ああっ! 本当です!」
受付嬢の大げさとも思える驚きに、青き鷹の冒険者達は思いっきり動揺する。国との連名で俺の名前を使って、ラーグ王子がオーク退治の依頼を出していると聞いていた。依頼書を目にしても、青き鷹はサラッと流してしまっていたのかもしれない。
「依頼者に無礼を働いた場合は冒険者ギルドを追放、ならびに近辺の支部への通達となります」
「うおお、ま、待ってくれ。い、いやその……知らなかったんだよ」
受付嬢の警告に青き鷹の面々は血相を変える。冒険者ギルドは各方面からの依頼を受けて成り立っている。その依頼者にそっぽを向かれてしまえば、ギルドとして成り立たないのだ。その相手に対して不遜な態度を取れば、幾らベテランとはいえペナルティーは避けられないだろう。その重要性を理解しているから、テイチも必死だ。
「誰でもケンカを売ればいいという考えを改めるのなら、許してやろう」
「わ、分かった。俺が悪かった」
素直にテイチは頭を下げる。これくらい出来なければ、ベテランの冒険者として生き残れないだろう。
「分かってくれればいいさ。それで、私の腕が信じられないということか?」
「……正直に言えばそうだ。だってよ、街の門前にある岩をぶん回してたなんて与太話、誰が信じるんだ?」
謝ってきたとはいえ、テイチ達は俺がオークと戦ったときの様子が信じられないらしい。当たり前だろう。もし俺が人間の冒険者をやっていたら、俺だってそんな与太話は信じない。
「それじゃ、こうしよう。今から森に行ってオークを互いに狩る。その競争で実力を見ればいいだろう」
「分かった。それなら分かりやすくていい」
俺の提案にテイチは素直に頷く。数で勝負するのだから、非常に分かりやすいだろう。俺は歓迎してくれた冒険者達にお詫びして、せっかく奢ってもらった酒は飲んで貰うように頼んだ。冒険者達は喜んでいるが、すぐさま酒の取り合いで騒がしくなる。
「夕方まででいいか」
「暗くなると危ないからな、さすがに。条件はそれで構わない」
俺は青き鷹と共に、東の森へと向かった。




