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二日目 冒険者ギルドへ

「いよいよ冒険者か」


 ギルドから出て来て石畳の通りに出た俺は、ほっと一息をつく。冒険者の登録は思った以上にあっさりとしたものだった。


「やっぱりこの格好だったからかな」


 俺は自分の身体を見下ろす。ロングソードを履いて、胸だけ鎧を纏った姿だ。


 サキュバスの能力である一つに、変化というものがあった。姿形を変えると同時に、ステータスをある程度変化させることができる。どうもデフォルトの容姿は満遍なくバランスよく、ということのようだった。なので肉体の強靱さに出来るだけ能力を割り振って、容姿をやや平凡なものにした。更に武器と防具を装備することに力を取られた。だがそれでも俺の基準から見れば、まだまだ美人だろう。


 俺の力が増せば、更に変化する力をつけられるようだが、当分はこの冒険者初心者の姿と、容姿端麗なサキュバスの姿で構わないだろう。ちなみに冒険者の名前はリン、サキュバスのときはリョウでいくことにした。


「さてと、森のモンスターを倒せばいいのか」


 人に害なすモンスターを狩れば、フラオスの冒険者ギルドは報酬をくれるらしい。最初に出会ったオオカミに加え、ゴブリンやオークなどの亜人も対象らしい。そういう話を聞くと、いかにも異世界に来ましたっていうことで、俺はエキサイトする。


「よし、やるぞ!」


 俺はやる気充分になると、フラオスの街を出るために城門を目指した。


 フラオスの城門は入場のチェックは厳しいが、出る場合はその限りではない。城門から出ると、周囲には北から東、そして南の方までグルリと森が広がっている。


 フラオスの街はそこまで小さいわけではないから、もっと森を開拓しても良さそうなものだが、木は手つかずのままだ。俺が不審に思いながら、森の中へと入っていくと、その疑問はすぐ解消された。


「グルルルルル……」

「早いなー」


 少しウロウロしただけで、オオカミが姿を現わしたのだ。唸る声を聞く限り、オオカミは四匹のようだ。どうやら街道を逸れると肉食獣がウロついているようだ。物騒なことこの上ない。それなら開拓されていないわけがわかる。


 俺がボンヤリしていると隙ありと見てオオカミの一匹が襲いかかってきた。転生して感覚が鋭敏になっているためか、猛烈な速さでジャンプしてきたオオカミの動きがはっきりと見える。


 俺はその牙が届く前に右手でフックを打ち込む。フックは凄まじいスピードでオオカミを襲い、獣のあばらが砕ける感触が手に伝わる。俺はそのままフック一撃でオオカミを近くの木に叩き付けた。


「キャウン!」


 まだ生きているようだが、長くはないだろう。


 続けてもう一匹が飛びかかってくるのを、脳天にチョップを叩きつける。頭蓋を割り、脳みそにダメージを与えるだけで、地面に倒れて完全に動かなくなった。


 俺の早業に恐れをなしたのか、残りの二匹はしばらく躊躇したように、こちらを見ながら固まっていた。そして逃げ出すために踵を返す。


「わりい、逃したくない」


 ノーモーションで勢いもつけずに、俺は跳躍する。それなのに木々を越えるように高く俺は飛んでいた。そして落下の勢いを利用して、オオカミの背中に膝から飛び降りる。ニードロップの一撃でオオカミの背骨を容易にへし折る。それを見た最後の一匹が全力で駆け出す。しかし駆けだしたオオカミに対して、追った俺は容易に追いついた。多分、今の俺はオリンピック選手より足も速いはずだ。


「はっ」


 並走しながら手刀の一撃でオオカミの首をへし折った。オオカミはゴロゴロと転がると、やがて動かなくなった。


「おし、こうやってやっていけばいいか」


 簡単に獲物を仕留めたことに、俺は軽く満足する。俺はやって来た方向を辿りながら、アイテムボックスに殺したオオカミを順番に仕舞い込む。


「そういえば、折角変化で作ったのに、これは使わなかったな」


 俺は腰の剣を見やる。試しに抜刀してみようとするが……剣なんか持ったことないから、手間取ってしまう。身体能力は向上しているが、技術なんか無いので仕方ない。


「おし、次は剣を使ってみるか」


 俺は再び森の奥を目指して歩き始めた。






「戻りました」

「おう、無事だったか」


 冒険者ギルドに戻った俺を見た受付の人はポカンと口を開ける。


「あれ……えっと、倒したモンスターは何処で引き取ってくれるんですか?」

「あっちにカウンターがある」

「持っていきますね」


 俺は受付の示したカウンターへと向かう。


「すみません、狩ったモンスターを引き取って欲しいんですが」

「おう、カウンターに出してくれ……って、何だ!?」


 俺の姿にカウンターの対応に出たいかついおっさんが驚く。何だ、何か驚くようなことがあるのか?


「えっと、いいですか?」

「か、構わない。置いてくれ」

「それじゃ」


 俺は狩ってきたモンスターの死体を転がす。ゴブリン十匹に、オオカミ十五匹になる。幸いなことにモンスターを探すのは楽勝だった。森をウロウロしているだけで、向こうの方から俺に襲いかかってくれた。


 戦いは素人の俺でも楽勝なほど、チートな身体能力でモンスターは倒せた。正直、剣を使うより、殴って頭を割った方が早かった。何処かで剣を覚えないとな。


 ゴブリンというのは初めて見たが、敵対的なのはすぐわかった。俺が姿を見せただけで、叫びながら突っ込んできたからだ。もっと上手くやれば交渉とかできるのか?


「お、お前、ゴブリンの身体まで持ってきたのか!? こいつは耳だけでいいんだぞ」

「いや、でも身体も引き取るって書いてありましたよ」

「畑の肥やしになるからだが、安いだろうが。銀貨1枚程度だぞ」


 いや、銀貨1枚は重要だろう。この世界では金貨、銀貨、銅貨が主要な通貨らしい。価値は金貨1枚で銀貨100枚、銀貨1枚で銅貨100枚らしい。銅貨1枚は日本円で10円程度なので、銀貨1枚で千円くらいの価値はある。


「ま、まあわかった。査定するから待ってろ」

「はい、よろしくお願いします」


 俺はおっさんに頭を下げると、ギルド内のテーブル席へと移動する。何だか微妙におっさんが怯えていたが、どういうわけだ。しかしアイテムボックスは目立つだろうから、木の枝に獲物をくくりつけて持って帰るのはいいアイディアだった。これなら怪しまれないな、このテクニックは当分使っていこう。




【冒険者ギルド受付カイトス】


 あのお嬢ちゃん、何者だ。あんな巨大なオオカミを十五匹、更にはゴブリンの身体までくくりつけて、丸太で抱えて持って帰ってきやがった。


 全然強そうには見えないのに、なんちゅう力だ。力自慢っていうやつなのか? それにも程度っていうのはあるだろうが……。そりゃそんな怪力なら、冒険者になるのも無理は無いな。


 俺は受付の席でため息をつく。まったく、とんだ新人がギルドに入ってきたぜ。


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