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八十五日目 オークと魔神

 オークはもう百匹単位で徒党を組むほどに、数を増やしている。これは相当にまずい。オークは頭が悪いし、俺なんかは容易に倒せる。だが一般的な人より筋力が強くて頑丈だ。武器が石器や動物の骨を加工したものが多いとはいえ、膂力が強いので非常に危険と言える。


 ファレンツオも危うかった。俺が偶然にあそこへ瞬間移動していなかったら、大変なことになっていたに違いない。街が壊滅はしなかったかもしれないが、多大な被害が出ていただろう。


 どうも凄腕の冒険者っていうのはしょっちゅう遠征しているらしく、ろくな冒険者が居なかったのが痛かった。アラース王国は冒険者の国だそうだが、本当に防衛は大丈夫なのか? 王女様を犠牲に魔神まで呼んじゃっているし。


 こうなると俺も手をこまねいていられない。まだ転生してから間もないが、各都市には知り合いが居るのだ。各都市の西に広がるオークの脅威を、少しでも減らさなくてはいけない。


 俺はヤリック師匠にしばし休むことを伝え、ビンセンにも跳ねる子猫亭の出勤が減ることを伝えた。そして昼夜を問わず、森へと入ってオークと戦うことにした。


 森にはオークがうじゃうじゃいた。探すのに手間取るとも思われたが、そんなことは無かった。まるで地中から湧いたかのように、何処に行ってもオークはいっぱい居た。そうなるともう狩り放題だ、オークを見つけ次第、首の骨を折ってアイテムボックスに放り込んだ。


 変化で新しい化身も追加した。くっころ騎士のリガクラウだ。オークを釣るにはリオーネでもいいんだが、森の奥でむちむちの村娘が居るのはおかしいと思われるかもしれない。そのために自信過剰な女騎士を作り上げた。


 リガクラウとリオーネを森の深さで切り替えて、オークに何度もお持ち帰りして貰うことにした。結果は爆釣と言える成果だった。オークは質は悪いがエネルギーが多くて腹いっぱいになる。


 オークの死体は出来るだけ冒険者ギルドに引き取って貰った。あまりの数にどの都市でも困られたが、オークの脅威は冒険者ギルドに、充分に感じて貰えたようだ。一部では凄腕の冒険者に依頼を行い、積極的にオーク狩りを行っているところも出てきた。コーナリア王国は騎士団を派遣し始めたという。俺にはわからないが冒険者ギルドはやはり政治への影響力があるのだろう。


 冒険者ギルドで引き取れない分は、ザクセンにある肉屋のマルガー商会に卸している。三百体近くを一日に納入した日もあったが、驚かれたりはしても引き取れないとは言われなかった。オークの肉体は需要が高く、あればあるほどに売れてしまうらしい。都市の人数に対して、入荷が少ないから助かるとも言われた。俺に払う卸値から計算しても、マルガー商会はボロ儲けだそうだ。


 更に岩で圧し潰した死体でも、矢が刺さりまくった死体でも商会は何でも引き取ってくれる。非常に助かる。どうも遺体の傷より、新鮮かが重要らしい。そういうことで言うと、俺の持ち込むオークは死亡直後の鮮度そのままなので、文句ないらしい。


 さて、俺一人が暴れまわって、このオーク禍が解消するかはわからない。だが冒険者ギルドや各国家が対策し始めているので、このままならどうにかなるかもしれない。


 そんな中、一番危なそうなのはガイナ砦だ。砦があるということで、対策が後手に回っているが、放置していたら間違いなくオークの大群が殺到する。


 あそこは森に食い込むように東に位置しているので、オークを誘蛾灯のように引き付けているようだ。もしかしたら、そういう意図で建てられたのかもしれない。だがオークが殺到したら、砦とは言え相当な犠牲者が出るだろう。国がモタモタしているのか、砦の戦力増強がはかられている様子もないのだ。


 これは一時しのぎでも、俺が動かざるを得ないだろう。


「おーい、磯野。野球……もといオーク狩りに行こうぜ」

「誰だ、そのイソノと言うのは!? いきなり来て、何だ!?」


 マトーシュ王女こと、魔神ジ・ロースの屋敷に瞬間転移した俺は、リビングのドアを開けた。メイドに膝枕して貰っていた少女姿の魔神は、いきなり現れた俺にかなりビビったようだ。そりゃ、玄関もすっ飛ばして来たからな。普通、お偉いさんと謁見するときには、先触れを出してアポイントメントを取って、それから会うのが常識である。


「それはともかく、ガイナ砦にオークを狩りに行きましょう、先輩」

「要件はわかったが……嫌だな。我には面倒だ」


 そう言いながら、ジ・ロースはエルフのメイドに抱き着いて、妊娠した腹に顔を埋めている。ギギギ、何といううらやまけしからんことを……。こっちは豚の亜人に集団で襲われているというのに、こいつはエルフと楽しんで子供まで作ってやがる。世の無常を感じてしまう……いや、オーク相手がきついというわけじゃないが。


『オークが随分と増えていると報告もあったはずです。ジ・ロース、すみませんが……』

「砦に攻めてきたときに、一網打尽にすればよかろう。効率が悪い」


 マトーシュ王女に諭されても、ジ・ロースは動かないようだ。魔神はメイドに抱き着いて梃子でも動かない様子を見せているが、彼女は困ったような顔をしている。


「それなら、こうしましょう」


 俺は変化でリオーネへと姿を変える。


『その姿は!?』

「私が持つ変化能力で生み出した姿の一つですね。サキュバスだから簡単です」


 姿を変えた俺にジ・ロースもエルフ達もギョッとしているが、マトーシュ王女も驚いているようだ。ジ・ロースが憑依して表に出ているときには、マトーシュ王女も姿が変わるのだから、そんなに見慣れないものだと思わないのだが。


「いかがですか? 一緒にオーク狩りに来て貰えれば、また私の身体を自由にして貰って構いませんよ」


 俺はリオーネになりきってジ・ロースを誘惑する。ジ・ロース自身も俺のことを見ると、固まってしまっている。何で魔神まで固まっているんだよ……。


「どうされますか? ジ・ロース様にはお安いかと思いますけど」

「うぐぐぐ、抱きたいところだが、精気を吸い取られるのが……」

「それならば、抱くか抱かないかはオークを退治してから決めるというのはどうでしょう?」

「抱かなかったら、オークを退治しただけで、働き損ではないか!」

「ならば、私を抱けばいいだけではないでしょうか」

「う、うむむむ……」


 エッチはしたいが、オークを退治するのは面倒ということなのだろう。まあ、面倒だと思うのはわかる。しかし、俺が昼夜問わずオークの首をポキリとしてるんだから、少しは働いてもいいじゃないか。


 仕方ないので、俺は見せつけるように胸を強調するように突き出したり、腕で挟んで胸を強調するポーズを取って強調してみせる。


「し、仕方ない。マトーシュとの契約もあるからな、オークを狩ろう」

「流石は魔神様、頼りになります」


 ビックリするくらいちょろいな。まあ誘惑できなかったら、俺のサキュバスとしての存在意義が危ぶまれるかもしれない。


「リョウ様……」

「この姿のときはリオーネですけど、どうしましたか?」


 マトーシュ王女のメイド長兼、ジ・ロースの愛人であるロザリアさんが俺にこっそり話しかける。


「サキュバスというのは凄いものですね。元も美女だというのに、姿を変えてもそんな美しい姿に……」

「自分では実感が無いんですけどね。でも皆さんも美しいと思いますが」

「ご謙遜を……他のエルフ達といい、自分に自信が無くなりますわ」


 ロザリアさんが深いため息をつく。うーん、まあエルフとサキュバスは種族的に美人揃いだから、人間としては悩むかもな。


「心配しなくていいですよ。多分、ジ・ロースの正妻に最も近いのは、ロザリアさんだと思いますから」

「そ、そんな……べ、別にジ・ロースの気を惹きたいわけでは」

『二人目の子供を作っておいて、それは無いかと思いますよ、ロザリア』


 マトーシュ王女と俺がクスクスと笑うと、ロザリアさんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。先輩も顔を赤らめて、頬をかいている。おい、なんでこんなにいい女が傍に居るのに、サキュバスに目移りしてるんだ、お前は。


 モテモテの魔神に怒りを覚えたが、格差はどうしようもない。俺はジ・ロースとガイナ砦に赴き、オークに怒りをぶつけることにした。チクショウ、世の中は不公平だ。


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