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とあるオーク

【とあるオーク】

 俺の名はゾグド。世界の背びれから出てきたオークだ。


 世界のせびれはこの世界を分ける巨大な山脈で、天に届くような山だ。オークはその山にある洞窟に住んで居る。昔はドワーフ共がこの山脈に住んでいたそうだが、俺たちオークが叩き出した。今では俺たちが世界のせびれを支配している。


 オークが支配しているのは凄いことだが、そこには問題がある。オークが増え過ぎたことだ。俺たちオークは獣を狩り、キノコを栽培したりして暮らしているが、あまりのオークの数に食い物が不足しがちだ。しょっちゅう争いも起こる。そうなると強いオークが食料を奪い、弱いオークは飢えるか、山を追われることになる。


 山から追い出されたオーク達は山ほどいて、まずは山の麓にある森へと向かう。だが最近は森にも多くのオークが居て、部族を作って暮らしている。そうなると森でもオーク同士の縄張り争いが起こり、負けた方が更に奥の森へと追い出される。何度も争っては負けてきた俺たちが最後に辿り着いたのは森の端、平原の傍だ。


 平原には人間たちが住んで、街を作っていた。人間は弱っちい種族だが俺たちに逆らって生きている。俺たちの神、『偉大なる隻腕ゴヌール神』の敵である神を信奉していやがる。許せない奴らだ。


 だが人間は豊かだ。美味い食い物をしこたま貯め込んでいることが多い。畑とやらを耕して食い物を作っていたりするからだろう。それにいい武器や金や銀、宝石なんかも持っているらしい。奪いがいがある奴らだ。


 人間はひょろくて弱い奴らだが、中には強い奴もいるらしい。オークより腕っぷしが強いのもいるそうだが、俺には信じられない。あんなひょろっこいやつらが、俺たちオークより強いだと? 


 中には魔法を使う奴も居るらしい。これはわかる。オークにもシャーマンがいて、やたらと偉ぶっていた。シャーマンも魔法を使い、逆らう奴の尻を焼いていた。それと同じだろう。


 それと人間はオークを食うらしい。オークより弱っちいやつらが俺たちを食うっていうのはおかしい話だが、本当のことらしい。俺たちは人間と敵対して、殺して奪おうとは思うが、食う気にはなれない。偉ぶってやがるが、同じ二本足で歩いて喋る種族だ。俺たちはとてもじゃないけど食う気にはならない。人間っていうのは、殺しあう仲とは言え、喋る生物も食えるのか?


 俺たちが人間を食わない理由の一つは、奴らの雌を使うからだ。自慢じゃないがオークは繁殖力が強い。オークの雌はポコポコ子供を産む。だがオークの雌は数が少なく、強いオーク共が囲ってしまう。なので弱いオークは異種族の雌で性欲を満たし、繁殖しなくてはならない。


 かく言う俺も以前にリザードマンの雌を捕まえて、犯したことがあるが……あれはダメだ。とにかく身体が冷たくて冷えるし、肌も鱗が気持ち悪い。それでも居ないよりはマシで、リザードマンの腹を借りて、オークの数を増やすことは出来た。


 しかし、人間の雌はそれより遥かにいいに違いない。身体は柔らかいし、ゴツゴツとしたオークの雌よりいいなんて奴らもいる。あのいけすかない顔つきを好む奴もいるらしい。俺も今から楽しみだ。


 非常に幸運なことに、今日はその人間の雌を捕まえることが出来た。騎士とかいう奴らしい。俺たちオークが森に住み着いているのを、退治しにきたとか言っていた。仲間のガグとギスがマヌケなことに、この……女騎士だったか……とやらに切り倒された。だが数で押したら、あっさりと雌を捕まえることが出来た。


挿絵(By みてみん)


 雌は「くっ、殺せ」と言って、じたばた暴れていたが、両手両足を縛りあげて身動きできなくしてやった。今はテントに引っ張り込んでお楽しみの頃だろう。何度も何度も悲鳴が聞こえていたが、今はくぐもった声しか聞こえてこない。


 俺はテントに入らないのかって? 仲間に見張りとして指名されちまったんだよ! 幾ら俺たちがオークだと言っても、森には俺たちを狙う生き物は幾らでもいる。俺たちはオオカミを食うが、オオカミだって俺たちを食ったりもする。見張りもおかずに全員で楽しんでいたら、いきなり襲われて全員食われたではシャレにならねえ。


 前に全員でキャンプで寝こけていたら、ジャイアントアントに齧られて起きたっていう話を聞いたこともある。笑い話じゃすまねえ。なので俺は見張りをしっかりやってから、人間の雌を楽しむことにした。最後だから、子供を孕ませるチャンスが増えるかもしれねえ。


 しかし、人間の雌がいっぱい居るなら、あの人間が作った街っていうのを襲うのもいいかもしれねえ。人間の数は多いかもしれねえが、オークは森に山ほどいる。オーク同士で縄張り争いでケンカなんかしてねーで、今度全員で攻め込むのもいいかもしれねえ。そうしようそうしよう、あの『偉大なる隻腕』に逆らう奴らを殺して奪い、犯すのはたまらなく気持ちいいに違いない。

 


 夜が明けた。その間、交代のオークは一人も来なかった。テントの方も静かで、誰も出て来ない。あんな狭いテントに何十人も集まっていると息苦しそうだと思うのだが、それだけ楽しんでるのかもしれない。便所にも出て来ないっていうのは、相当に人間の雌相手は楽しいのかもしれない。しかし、今はやけにテントが静かだ。


「おい、そろそろ交代しろブウ。一体いつまでたのしんでやがるブウ」

「あれ?」


 巨大なテントの中に入った俺が見たのは異様な光景だった。テントの中には大量の仲間が倒れていて、身じろぎもしない。そのうちの一体の頭を、例の女騎士が抱えていた。


「まだ残りが居たのか」


 女騎士は防具を脱がされて、服はボロボロで半裸だった。布切れを押し上げるように巨大な膨らみが二つ持っていて、非常に柔らかそうだ。そしてきょとんとした顔で俺を見ている。


「ちょっと待ってろ」


 女騎士が仲間の首を捻ると、ゴキリと音がして首が変な方向へと向く。そして恐ろしいことにその雌は、何も無いところに仲間を仕舞った。そう袋に入れるように仕舞ったように見えた。仲間は何処かへ消えたのだ!


 よく見れば、仲間の数が少なくなっている。テントの中に居た仲間達はもっと多かったはずだ!


「お、お前、仲間に何をしたブウ!?」

「んー、食事を少々……具体的に言えば、精気を吸収した」


 目の前の雌は朝飯を食べたと言うように気軽に言う。相手からは敵意や緊張などを何も感じない。それが逆に死ぬほど恐ろしかった。


「お、お前、何者だブウ!?」

「名前はリガクラウ。設定では自分の力を過信した女騎士で、口ほどの実力が無い、大したことがないやつだ。そして無謀の代償に敵に捕虜にされて、『くっ、殺せ』って言うんだな」

「設定!?」

「オークを釣るための設定だな。食うためには釣らなくてはいけないだろう」


 雌はゆっくりと立ち上がると、俺の元へと歩いてくる。一歩、また一歩と。逃げなければならないと身体が叫ぶが、同時に頭はたとえ逃げても絶対に逃れられないと言っている。


「他にオークは残っていないようだな。良かった良かった」


 雌……いや、リガクラウが手をゆっくりと上げた。そこで自分がここで死ぬのだと理解できた。ああ、どうせ死ぬなら人間の雌と交わってみたかった。


 そして首に衝撃を受けた気がしてから、意識が闇に閉ざされた。


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