八十日目 襲撃
隊商を護衛して俺達はフラオス南東の都市、ハルシュへと辿り着くことが出来た。ハルシュもやはり高い城壁に囲まれた都市で、堅牢そうな造りだった。
コーナリア王国はある程度大きな都市は、こうやって巨大な壁で覆ってしまうとのことだった。建国時にザクセンを巨大な壁で囲んでから発展したこともあるが、国の東に続く広大な森からオークがひっきりなしに襲撃してくるのも理由だそうだ。森の更に東に位置する、この大陸の東西を分ける『世界の背びれ』と呼ばれる長大な山脈には、無限とも言えるオークが住み着いており、コーナリアとアーラスの両王国を脅かしているらしい。
しかし、それにしても最近は本当にオークが多いらしい。俺達は街道を突破してきたが、フラオス方面から来た隊商は本当に久々とのことだ。最近は遠回りになっても、西に一旦向かってから、別のルートでフラオスに向かうことが多いらしい。オークだらけでフラオスとハルシュの直行ルートは使い物にならない、というのがハルシュ住民の意見だ。
グリューベルスとサントールには、専属の護衛にならないかと打診があったが、もちろん断った。獲物を釣ることが出来る護衛は楽しかったが、残念ながらこれでは食事ができないからだ。やはりオークに乱暴されている間に、護衛対象が襲われては困る。今回の護衛任務でも野営中に、オークの群れを何度も見かけたが、闇討ちで殺すしかなかった。食べ物が目の前にあるのに、食えないというのは、なかなかに辛いものがあった。
更に南下するグリューベルス達と、西からのルートでフラオスに戻る隊商の護衛任務を受けようとするディーンとジーモス達と別れて、俺は再び一人に戻った。普通ならばまた剣の修行や娼館での仕事と、いつものルーチンに戻るのだが、何となく気になって俺は各地を巡ることとした。
そして俺の予感は当たった。
ファレンツオに移転した際に、街の周りは雨が降っていた。普通ならば身体が冷えることを気にするところだが、幸いなことに風土病への高い耐性がある。というか、サキュバスは風邪をひくのだろうか?
そんなものより俺は遠くに見えるファレンツオの街に目が行った。大量のオークがファレンツオの城門へと押し寄せているのだ。ぱっと見ただけでも数百体はいるだろう。粗末な木のハシゴをかけて城壁に登ろうとしているのと同時に、城門には破城槌のようなものをぶつけている。
兵士や冒険者達が城門の上で応戦しているのが見えるが、撃退できるかはわからない。ならばやることは一つしかない。俺はリンからリグランディアへと姿を変える。そして全力で疾走を始め、大きく跳躍した。
「どりゃああああ!」
空中でアイテムボックスから岩を大量に取り出す。それをオークが大量に居る場所へと投げつけ、木で作った粗末な破城槌にもぶつける。
「ぎゃあああ!」
「な、何だブウ!?」
突如、雨と共に岩が降ってきたのだ。オークも大いに焦っただろう。おれは破城槌を押し潰した岩の上に飛び乗り、腕を組んでオーク達を見下ろす。
「義を見てせざるは勇無きなり! 冒険者の一人として、この街の防衛に手を貸させて貰うぞ!」
「何だとブウ!?」
「殺してしまえブウ!」
「いや、捕まえて犯すブウ!」
「しゃらくさい! 貴様ら、全員食肉工場へ送ってくれるわ!」
岩を蹴って俺は間近のオークに跳び蹴りをかます。キック一撃でオークの頸椎をへし折る。それと同時に今まで乗っていた岩に鞭を振るって絡ませる。
「でりゃああああっ!」
鞭を引っ張り、岩をぶん投げる。勢いがついた鞭が伸びきると同時に、俺は身体を回転させ始める。
「どっせい!」
巨大な岩をジャイアントスイングの要領でグルグルと回転させ、大きく振り回す。人間ゴマ……もといサキュバスゴマだ。でかい岩石がぐるぐる回りながら、オークの集団へと突っ込んでいく。
「うぎゃあああああ!」
「ブヒー!」
バカみたいにでかい岩が猛烈な遠心力でぶつかってくるのだ。防御するとかそういう問題ではない。岩がぶつかったオークは、自動車事故にあったように吹っ飛んでいく。岩の回転する円に巻き込まれると、掃除されたようにオークの集団が消えていく。まるで自動掃除機に巻き込まれたゴミみたいだ。
オークは集団で固まっていたため、逃げるにもスペースがなく、大量に巻き込まれた。数で押したのが仇になったということだ。それでも岩をぶつけられては溜まらないとばかりに、全員が背を向けて逃げ出した。
「逃がすか!」
遠心力いっぱいの岩を鞭ごと手放すと、岩石がすっ飛んで、直線上のオーク共を巻き込んでいく。途中で岩は転がり始めるが、運動エネルギーが高いためか、ごつごつした岩なのにボーリング球みたいに綺麗に転がりながら多数のオークを押し潰していった。
「死ねぇ!」
大地を蹴って大きく飛ぶと、俺はオークの一体に跳び蹴りを決める。もちろん一撃で延髄を破壊して、相手を殺す。
俺は手当たり次第のオークに飛び蹴りをかまして、次々と倒していく。オークを殺すことに必死になっていると、いつのまにか城門が開いて冒険者と兵士達が飛び出してきた。彼らは走るオークへと駆け、背後から切り倒していく。距離が離れているのでオーク達にほとんどは追いつけないが、それでも数多くの亜人達が討ち取られていく。
オークが撃退されたのを見て、俺はほっとする。よもや前に通りかかった街が襲われるとは夢にも思わなかったのだ。しかし偶然ここを見に来て良かった。知り合いが居る街が焼け野原になっていたら、寝覚めが悪すぎる。今後は各街を頻繁に瞬間移動してパトロールが必要だろう。




