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七十六日目 未経験任務

 師匠と本気で仕合をすることになるとは思っていなかったが、何とかぶった切られずに済んで良かった。だが危ない橋を渡った甲斐があり、新たな修行へとステップを踏むことができた。


 今までは上段からの切り下ろしばかり修行していたのだが、新たな動きはここから返す剣で切り上げるというものだった。剣を思いっきり振り下ろしてから、逆のベクトルへと即座に変化させるというものだから、正直に言えば無茶苦茶きつい。だが必殺のこの動きを会得すれば、隙の無い必殺剣となるとのことだ。


 あの岩を剣で切ってみせた師匠の言うことだから、本当に違いない。俺はテンションが上がりまくって、修行へとより一層励むこととなった。兄弟子達から何だか距離を取られている気がするが、そこは目を瞑ろう。


 さて、各都市をフラフラしている俺だが、冒険者稼業はあちこちで行っている。北のガイナ砦でオークを狩り、南のフラオスでもオークを狩っている。……というか、オーク狩りばかりだ。


 この世界、オークが多すぎじゃないか? 近隣でモンスターを倒し、その素材で一攫千金を狙うのは冒険者の夢だが、出会うのは豚の亜人ばかりだ。オークの肉は確かに儲かるが、俺は食肉業者じゃないのだ。もっとこうグリフォンだとか、ドラゴンだとか、ファンタジーのモンスターっぽい魔物は出てこないのか?


 そんなことを言いながらも、今日もリンとなってフラオスでオーク狩りをしている。いや、本気で強いモンスターを狩れというのならば、依頼の張り出されている掲示板を見ればいい。しかし、モンスター知識皆無でソロの俺が、モンスターを探しに行ける自信がないのだ。そういう知識を持つレンジャーやドルイドなどが仲間にいればいいのだが、残念ながら俺はパーティーに入っていない。


 そうなると森に入ってすぐに会うオークをじゃんじゃん狩る方が楽なのだ。まあ、俺もまだ冒険を始めて三ヶ月経たない駆け出しなのだ。どこかパーティーに入るのは、剣などの修行が終わってからでも、全然いいだろう。


 さて森の中でオークをざっくり二十体ほど狩れたので、俺はフラオスの冒険者ギルドへと戻って来た。解体を受け持ってるおっさんも慣れたもので、裏口に最初から通してくれる。最近は持ち込むオークの数が多すぎて、通常の受付では並べきれないからだ。


「リン、少しいいか」


 オークの素材代金を受け取るために、ギルドの受付へと戻った俺に、カイトスのおっさんが声をかけてくる。


「リンは今まで護衛の依頼を受けたことはあるか?」

「薬草採取のときに、ジーモスさんの護衛をしましたね」

「うーん、あいつか……なるほど。実はな、隣町に向かう商人が護衛を募集していてな。それで、リンが良ければ是非やって欲しいんだが」

「私に? 別に構いませんけど、何でですか?」

「単にお前が強いからだ」


 カイトスのおっさんによる淡々とした賛辞に、思わず口元が緩んでしまう。男としては強さを褒められるのは、やはり悪い気がしない。自由に変えられる容姿を褒められるのより、よっぽど嬉しい。


「いまちょっと南西の街道に魔物が多くてな。けっこう危険なんだが、商人が割り増し料金を払ってくれるそうなんだ。ギルドとしては依頼を受けたいというわけだ」

「なるほど。それで私のような駆け出しの手も借りたいということですね」

「お前みたいな大型新人以上の凄腕なんて、このギルドには滅多に居ないんだが……まあいい。引き受けてくれるか?」

「経験不足でご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


 商人の護衛は冒険者としては定番の依頼だ。まだやったことはないが、何事も経験だろう。初心者と言っていて、尚且つ請われているという状態なのだから、少しくらいの不手際は見逃してくれるだろう。


「危ない依頼ということで人数が全然足りていないんだが、リンからは推薦はあるか?」

「推薦ですか……ジーモスさんとか、どうでしょうか」

「あいつか。シーフだが、経験は豊かだし、候補としては合格だな」


 以前一度だけ組んだことのあるシーフのジーモスさんを、俺はまず候補に挙げた。戦っているとこは見たことが無いが、ベテランなので役に立つと思ったからだ。カイトスのおっさんも、俺に同意してくれる。


「他に候補はいるか?」

「後はディーンさんとヤックさんですかね」

「あの二人か。まだルーキーだぞ」

「それを言うなら私はもっと経験が短いですが」

「うーん……何であの二人なんだ?」

「ディーンさんは真面目ですし。ヤックさんはそのディーンさんのパートナーなので」


 俺の言葉に、カイトスのおっさんは目を逸らして考え込む。


 ディーン達を推薦したのは、正直に言えば報酬がいい、この話に一枚噛ませたかったからだ。少々腕前には心もとないかもしれないが、ディーンには精気を何度頂いて世話になっている。少しは恩返しをしておかないといけないだろう。……決して惚れられている相手で、印象がいいわけだからではない。


 ヤックについてはおまけだ。


「正直に言えば、まだ半人前だからな。お前がサポートに入らないといけない場面が出てくるかもしれないぞ」

「それはお互い様ですかね」

「……まあ、お前がそこまで言うなら、あいつらにも聞いておくか。人が集まり次第に出発するらしいから、この街を出ないでくれよ」


 カイトスのおっさんは迷っていたようだが、ディーン達を入れることで話がついたようだ。よし、知り合いも多いし、護衛は初めての体験だし、今から楽しみだな。


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