六十六日目 王都グラパルスリニア
ファレンツオでは気のいい冒険者達と会うことができた。若くて真面目で好感が持てるいい少年達だった。アラースは冒険者の国というが、彼らのような冒険者が居るというのは、非常に納得がいく。
昨晩は夕食を食べながら貴重な冒険者の話を聞くことが出来た。俺はオオカミ、ゴブリン、オーク、オーガぐらいしか狩ったことがないが、多種多様なモンスターが世界には居るらしい。低レベルのモンスターとはいえ、クリス達によるモンスター戦の話は大いに参考となった。
さて、ファレンツオに滞在したいという気持ちはあったが、俺は再び王都に向けて走り始めた。やはり話を聞いた魔神ジ・ロースを見たかったからだ。剣の稽古もあるし、娼婦の仕事もあるので旅をする時間を今は縮めたい。早めに王都に行けば、瞬間移動でコーナリア王国とアロース王国を行き来も出来る。瞬間移動できる地域を早々に拡張するために、俺は真夜中の街道を爆走した。
しかしアラースは牧歌的な国だ。平原が多く、羊や馬の姿もよく見た。コーナリア王国は城壁で囲まれた街や村が多いが、こちらは木の柵だけで囲っただけのものが多い。建物も密集しておらず、広々とした感じだ。冒険者が多いということで、モンスターの襲撃をあまり気にしなくていいのかもしれない。
ファレンツオを出て二日後、俺はアラース国の王都、グラパルスリニアへと辿りついた。グラパルスリニアはとにかく広い。豆粒みたいに王城が見えた時点でぼちぼちと農家が見えたが、城門の周りにも延々と建物が続いているのだ。
後で聞いた話だが、もう長い間グラパルスリニアは他国の侵略を受けたことがないとのことだ。外的に攻められたことが無いので城壁外に建物が作られても問題が無く、それがどんどん広がっていったのだろう。新規に城壁が作られた様子も無いので、よっぽど平和なのだろう。
しかしこんな平和なのに王女が魔神の助力を願ったのは何故だろうか。もしかすると王都グラパルスリニアが防備が薄く、攻められると一たまりもないと王女は気づいていたのじゃないだろうか。でなきゃ、冒険者も多くて強い国なのだから、わざわざ魔神なんて呼び出さないだろう。
自分の推理が意外に理屈が通っているので、俺は少し気分が良くなった。頭は良くない方なので、ちょっと嬉しいのだ。
そうこうしているうちに住宅が密集している地帯が近づいたので、俺は走るスピードを緩めた。しかし、この街は広いと改めて実感する。住宅地に来ているのに、王城はまだ随分と遠い。
とりあえず、魔神を拝むにしても情報が必要だろう。俺は道行く人に冒険者ギルドの場所を聞き、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは街の中心部にあった。そして冒険者の国に相応しく、三階建てで敷地が広そうなデカイ建物だった。開けっ放しの大きな扉をくぐって案内を見る。大図書館など各衛星都市にはない施設があり、そのためにこの建物は大きいようだった。
受付もカウンターの数が多く、受付嬢がズラリと並んでいる。俺は少し迷ってから、まだ若そうなエルフのお姉さんが居るカウンターに向かった。
「すまない、情報が欲しいのだが」
「はい、どうぞ」
今の俺はリグランディアなので、多少慣れた雰囲気で話しかける。だが内心はドキドキだった。エルフは時たま街中で見かけることがあったが、話しかけるのは初めてだ。
何と言っても、今まで話してきた亜人はオークとオーガだ。『種付けしてやるブゥ』とか、『こんなちいせえとガバガバになるぜ、グヘへ』みたいな会話ばかりだった。初めての友好的デミヒューマンとのコンタクトだから、受付嬢相手なのに興奮してしまうのは仕方ない。
「王都で聞くのはまずいのかもしれないが、魔神ジ・ロースについて情報が欲しい」
「ジ・ロースですか!?」
エルフの受付嬢は驚いたように俺を見る。まあ、見知らぬ冒険者がいきなり王都の有名人について聞いてきたら驚くだろう。他国の間諜と思われてもおかしくはない。
「実は野次馬みたいなものだが、魔神というものを見てみたくてな。強い興味があるんだ」
「でしたら、直接ご本人にお会いして話してみてはどうでしょうか」
「えっ、会えるのか!?」
受付嬢が掲示板のボードを指さす。冒険者向けの依頼が貼ってある場所だ。俺は常に討伐依頼が出ているオークやオーガばかり相手にしてたから掲示板の依頼を受けたことはないが、何かを採取してくれとか特定のモンスターを狩って欲しいなどの依頼が多い。
そんな中、魔神ジ・ロースが憑依している第三王女マトーシュの名前で依頼が出ていた。なになに……護衛とメイド募集。報酬は能力や容姿によって応相談、性的奉仕あり。なんじゃこりゃ!?
「これって……」
「美人な冒険者とかも狙ってるらしいです。かなりの女好きなようなので」
「こんな依頼いいの?」
「実際のところ冒険者ギルドに出す依頼としてはかなり間違っていますが……仲介料はいいので。ジ・ロースの評判は知れて渡っていて、今のところ冒険者ギルドから面接者は出てませんが、いかがいたしますか?」
何と言うか、罠としか思えない。ただ、これは人間や一般的な亜人を対象としていて、俺みたいなサキュバスは目標としてはいないだろう。
「とりあえず、面接に行って、顔だけ見てみよう」
「そうですか……見たところ美人ですから、くれぐれも気をつけて下さい」
「すまない。ありがとう」
俺はエルフの受付嬢に礼を言って、ギルドを後にする。そして面接の指定現場へと向かう。




