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二日目 飢餓

「は、腹が減った」


 たった今、俺は猛烈な飢餓感に襲われている。


 あれから、池を離れた俺は森を彷徨うこととなった。何処に行けばいいのかわからなかったのだが、何度か木を登って、街道らしきものがある森の切れ間を見つけた。


 俺の身体能力はやはりすごく、助走無しで4メートルはジャンプできるし、人差し指さえ引っかければ、それで身体を支えて持ち上げることもできた。なので木登りは楽勝だった。走り続けても問題無く、一気に森を抜けて街道に辿り着いた。


 しかし街道に出たのはいいものの、何だかどんどんお腹が空いてきたのだ。あまりの空腹感にアイテムボックスのオオカミを出してしまったぐらいだ。処理していない生肉を食うのは躊躇したが、病気への抵抗性が高いと言われている。お腹と背中がくっつきそうになるくらいなので、我慢できなかった。


 幸いにも俺は爪を変化させて武器にできるようだった。爪を伸ばすと、鋭い刃物のような切れ味を持たせることが可能で、肉を綺麗に切り分けられた。俺はオオカミの皮を剥いで、少し生肉にかぶりついた。


 結論から言えば、空腹感は一向に減らなかった。胃には入るし、お腹には溜まる。それでも空腹感は一向に消えない。脳の異常かとも思ったが、力がどんどん落ちてくるのが自分にもわかるのだ。


「し、しんどい……」


 力はあるのに、腹が減ってフラフラしてくる。それでも、こんな何も無いところで倒れては、オオカミの餌にしかならない。俺は霞んできた頭でぼんやりしながら、歩き続ける。


 気がつけば森が終わっていた。


「街だ」


 森を抜けると、すぐに城壁がある街が見えてきた。石垣の壁と城門が見えるが、壁の長さから結構大きそうな街に見える。


 助かったとばかりに街へと近づくが、すぐに困ったことに気付いた。城門では入場者をチェックしているようで、そこそこの人数が並んでいるのだ。自分の身体を見ればチューブトップにビキニのショーツという格好だ。並んでいる人間達の格好を察するに、変態と言ってもいい格好に違いない。


「やばいな……」


 街に入る列に並ぶのを躊躇してしまう。しかしこんな開けた場所で立ち尽くしてたら、気付かれてしまうだろう。


「こうなったら仕方ないな」


 俺はなるべく誰かに見つからないように腰を屈めて、城壁へと走り出す。目測で城壁は4メートルぐらいのようだ。軽く跳躍するだけで、城壁の縁に手がかかる。いとも容易く身体を引き上げて手早く確認すると、城壁の上に兵士は居ないようであった。素早く城壁の上へと上がり、街の中へと飛び降りる。


 城壁から見えた街は俺がイメージしていた中世ファンタジー世界そのもので、非常に嬉しかった。だが舗装されていない地面に降り立った瞬間、エネルギーが完全に切れたようで、強烈な空腹感がまた俺を襲ってきた。いかん、このままだと意識が飛んでしまう。


「や、やばい……」


 ヨロヨロと誰にも気付かれないうちに裏路地へと入っていったが、今にも意識が飛びそうだ。何処かで洗濯物か何かを盗む……じゃなくて借りて、何とか情報を集めようとする予定だったが、このままでは倒れてしまう。やばい、もう立つのもしんどい。


「おいおい、お姉ちゃんどうしたんだ?」


 声をした方を見ると、中年のおっさんが俺を見ていた。腰に剣を履いていたり、皮の鎧をつけてるのを見ると、冒険者なのかもしれない。だがこうやって人を見るのもしんどいくらい、俺は衰弱していた。


「体調が悪そうだな」

「う、うん……身体が……」

「任せな、俺が休めるところに連れていってやるからよ」


 馴れ馴れしくおっさんが俺に手をかけたところで、俺は意識を手放してしまう。最後に俺に聞こえたのは、おっさんのイヤらしい笑い声だった。





 いやー、腹一杯になった。俺は今まで生きていて味わったことのない満腹感に、頬を緩めてしまう。


「しかし……俺の飢餓感の正体はこういうことか」


 俺が満腹になった方法を思い出して、思いっきり凹んだ。


 意識の無い俺を廃屋に連れ込んだおっさんは、襲ってきた。まさか太った中年のオヤジに襲われることになるとは……しかし俺は抵抗できないまま乱暴されるしかなかった。だがまあ、おかげで俺は意識がクリアになるくらいに腹を満たすことが出来た。


 考えてみればサキュバスなのだから、男の精気が食事っていうのは、考えればわかりそうなものだったな。そこに思い至らないとは、若干情けない。


「だが男とすることになるなんて」


 思い出せば思い出すほど凹む。ゲイじゃないのだから、おっさんに身体を弄くりまわされて、その……最後までするっていうのは、悪夢以外の何物でもない。だが恐ろしいことにこの身体は、それを受け入れ、許容し、貪るように出来ていた。おまけに精を啜ったときのまた甘美なこと……。


 ちなみにおっさんは半分ミイラみたいになって、廃屋に転がっている。身体の精気みたいなものの八割を吸わせてもらったから、仕方ないだろう。本来なら人一人の精気を一日に100%吸収することで満腹になるようだが、あのおっさんは脂ぎって太ってたから、八割でも満足できた。


「さてと、街に入ってみたはいいが。どうするか」


 おっさんが着ていたマントを奪ったので、痴女からは脱出できた。この世界にあるというなら、冒険者ギルドに行っていいんだが……。その前に、満腹になったことで使える力を試したいという気もある。


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[良い点] ムフフ、エロイっす~
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