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初心者冒険者

本日三度目の更新

【初心者冒険者ハウエル】


 僕の名はハウエル。見習い魔術師だが、いちおうは冒険者だ。農家の三男坊だった僕には、自然と冒険者ぐらいしか働き口が無かったのだ。


 だが幸運にも若い頃から魔術師の才能があるということで、村にいる魔術師から魔法を習うことができた。更には似たような境遇の友人達でパーティーを組むこともできた。村付近でゴブリンやオオカミを何度も退治し、冒険者として経験を積んだ俺たちは、いよいよファレンツオに向かった。


 ファレンツオは近くの森に遺跡群があるということで有名だ。早速森へと探索に向かいたかったが、駆け出しの僕らだけでは何となく不安があった。冒険者ギルドでベテラン冒険者と組めないか何度か交渉したが、取り分が極端に悪いなど、なかなか条件が合わず、新たな仲間が見つからなかった。


 そんなときにギルドに入って来たのが、リグランディアさんだった。驚くほどに美しく、綺麗な彼女にギルドにたむろしていた冒険者達は唖然としていた。それはもちろん僕たちのグループも含めてだ。


 旅をしているという彼女はまだ冒険者として日が浅いということだが、物腰が落ち着いている。クリスも見た目どうり、非常に強そうだとの意見であった。そんな彼女は遺跡群に興味があるらしく、試しにパーティーに誘ったところ、あっさりとついてきてくれた。


 外見は驚くほどの美人なのにリグランディアさんは非常に気さくな人だった。年下で駆け出しの僕達にも、偉ぶらずに素直についてきてくれた。僕達は彼女と一緒にゴブリンと戦ったりしながら遺跡を見て回る予定だった。


 だが森に入って初めて出会ったのはオークだった。こんな森に入ったばかりのところにオークが居るとは聞いておらず、僕達は浮き足立った。


 だがリグランディアさんは、即座に剣を投げつけて一体を倒してしまった。それからが凄かった。彼女は目にも止まらぬ速さで跳躍してオークに膝を入れると共に、頭を捻って殺したのだ。あんな凄い強さの人を僕は初めて見た。唖然としている間に、残りのオークも素手の一撃で倒してしまった。


 僕達は吟遊詩人が歌う英雄と出会ったのではないのだろうか。そんな思いが頭を過ぎった。僕達が呆然としている間に、リグランディアさんは死んだオークの巨体を魔法のバッグにしまってしまう。彼女が使っているバッグは大容量の代わりに、重さが十倍になるはずのバッグのはずなんだけど……。


「聞いた通り、雑魚しかいないな。どんどん行こう」


 リグランディアさんは、森の奥へと歩き始めてしまう。俺達は慌てて後を追う。オークが居る森の中をリグランディアさんは警戒もせずに、軽い調子で歩いていく。


「リグランディアさんはオークとかは平気なんですか?」

「相手としては楽勝だな。全然大したことない」


 オークと言えば、冒険者として最初の壁とも言えるような敵だ。人間より筋力と耐久力が高い戦士として優れた亜人で、ある程度の腕が無ければ返り討ちにあってしまう。そんな相手をリグランディアさんは苦もなく倒してしまった。


 もしかして僕達はとてつもない冒険者を身の丈に合わずに勧誘してしまったのだろうか。


「おっ、次が来たぞ」


 リグランディアさんが指で示した先には五体ものオークが居た。


「ご、五体!?」


 驚愕する僕達は恐怖で身体が竦んでしまう。すると五体のうちオーク一体の頭に剣が突き刺さり、倒れるのが見えた。リグランディアさんがまたも剣を投げたらしい。オークまではまだ相当な距離があるのに、彼女の投擲はあっさりとオークの分厚い頭蓋骨を貫通していた。


 オークも僕達も唖然としている間に、リグランディアさんは近くにあった石を持ち上げる。かなりの大きさだが、彼女は小石のように軽く持ち上げる。そしてオークに向かって振りかぶって投げた。


「ぶぎゃっ!」


 放たれた石はオークの顔面に命中するのみならず、思いっきりのめり込んだ。脳までダメージが通ったのか、オークは膝をつくと、前のめりに倒れた。二体倒されて焦ったのか、オーク達は慌てて僕達のところへと駆け始める。


 リグランディアさんは走るオークの姿を見ていたが、ある程度距離が詰まると、いきなり跳躍した。彼女の姿は木々の葉に隠れて見えなくなってしまう。オーク達も見失ったのか、首を左右に回してリグランディアさんを求める。


「死ねっ!」


 木を足がかりにして思いっきり勢いをつけたのか、突如としてリグランディアさんは木々の間から飛び出してくる。真っ直ぐに伸ばした片足が、投げられた槍のようにオークの首筋へと真っ直ぐに直撃する。それだけでオークの首が小枝のようにへし折れた。


「とうっ!」


 オークの肩を蹴ってリグランディアさんは再度跳んだ。そして木へと跳躍すると、彼女は両足で蹴って勢いをつける。


「とうりゃああああ!」


 身体を回転させてリグランディアさんは蹴りを放ち、もう一体のオークの首もおもいっきりへし折った。とんでもない身体能力に僕達だけでなく、オークも声も出ない。


「ほら、最後の一体は任せたぞ」

「は、はい!」


 リグランディアさんの声にはっと気付いた僕達は、最後のオークへと襲いかかる。


「でやあ!」


 クリスが突っ込んでオークへと切りつける。まだ自分の仲間が死んだことに呆然としていたオークは、クリスのロングソードを思いっきり食らった。だがクリスの技量か筋力が足りないのか、オークの分厚い脂肪に防がれてしまう。


「お、お前……ぶふぅ!」


 ジーンがメイスでオークの頭を思いっきり殴りつける。その一撃が効いたのか、オークは数歩交代する。それを好機と見て、クリスとジーンは何度も武器をオークへと振るって傷を増やしていく。


『魔法の矢』(マジックミサイル)!」


 僕も二人の援護をするため、魔法を放つ。『魔法の矢』(マジックミサイル)は小さなエネルギー弾を放つ魔法だ。威力はそんなにないが、相手へと自動命中するので、味方が相手と白兵戦をしている際には有効だ。


「こ、この……うぐあ!」


 オークの意識が完全に僕達に向いている間に、チャックがオークの背後からショートソードを突き刺す。僕達が派手にオークと戦っている間に、上手く背後へと回っていたのだ。


「に、人間が調子に乗るな……ぐあああっ!」


 ショートソードの一撃を受けても、なお反撃しようとしていたオークに、これまた背後に回ったリグランディアさんが追撃を行った。彼女が放った蹴りはチャックのショートソードの柄を押し、更に武器を押し込んだ。


「う、うぅ、あ、あが……」


 その一撃が効いたのか、オークはどっと地面へと倒れた。ビクビクと痙攣するオークにリグランディアさんはさっと近寄り、頭を持つと思いっきり捻った。凄まじい首の折れる音と共に、オークは痙攣を止めた。


「……オーク五体を倒したのか?」

「す、すげぇ」


 駆け出し冒険者なのに、オーク五体を前に生還したという事実に、クリスとチャックは固まってしまう。特に背後からの暗殺術を決めたチャックは、自分の武器を引き抜くと信じられないようにショートソードを眺めている。


 五体をほぼ一人の力で倒したリグランディアさんは、特に勝ち誇る様子は無かった。オークに近づくと、一体ずつまたバッグの中へと収納している。


「よしよし、これならもっと奥に行けるな」

「ええっ!?」


 オークを魔法のバッグに仕舞い終えたリグランディアさんは、散歩に行くというような気軽さで、探検続行を宣言する。これには僕たち四人が揃って声をあげてしまう。こちらは死闘を終えたつもりだが、彼女としては大したことではないのかもしれない。


「ほら、レッツゴー」


 腰が引けている僕たちに気付いていないかのように、リグランディアさんはどんどん森の奥へと進んでいってしまう。仕方ないので、僕たちも後をついていく。案の定、何度もオークと遭遇し、その度に死ぬ気で戦う羽目となった。







「金貨4枚に銀貨40枚になります」


 聞いたことのない報酬の額に僕たちは声も出ない。冒険者ギルドに戻り、倒したオークの身体を買い取って貰ったところ、途方もない報酬額が提示された。オーク一体で銀貨20枚なのだから正当な報酬だが、僕たちだけでは到底狩れていなかっただろう。


「おしおし、それじゃ山分けするか。五で割るのでいいか?」

「いや、そんな……俺たちは何もやってないし」

「そんなことないだろう。クリス達が居てくれたから、オークの気を逸らせたこともあるし、ちゃんと戦ってくれていただろう」


 リグランディアさんはにっこりと笑って、無理やり僕達にお金を渡す。


「でも……」

「それじゃ、いい装備を揃えて次はオークとも戦えるように頑張ってくれ」


 そう言ってリグランディアさんは、僕達を励ましてくれた。


 その後は晩ご飯を一緒に食べたが、リグランディアさんは終始楽しそうに僕達の話を聞いていた。悪い冒険者も多いが、リグランディアさんは本当に気持ちのいい、尊敬できる冒険者だった。たまにはこの街にも寄ってくれるということで、僕達はまた会うのを約束して別れた。


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