六十四日目 初心者冒険者
俺は受付を離れる。冒険者への依頼が貼ってあるボードを軽く眺めてから、外へと向かおうとする。
「あの、すみません」
「ん?」
かけられた声に振り向くと、少年が四人居た。まだ十代前半だろうか。
「良ければ、パーティーを組みませんか?」
少年達は緊張した面持ちで俺を見ている。
「パーティー? 私がか?」
「ええ。見たところ、お姉さんとっても強そうなんで」
「パーティーか」
そういえば、きちんとしたパーティーって組んだことないな。薬草を一緒に取りに行ったジーモスさんは護衛対象だったしな。
「目的とかあるのか?」
「この街の近くに遺跡群があるんです」
「俺達、今まで一年近くモンスターを狩っていたんですが、探索に行きたくて」
遺跡!? おお、何と言う冒険者らしい響き。そうだよな、俺はずっとモンスター退治ばっかりやってたが、冒険者っていったら、やっぱり謎の遺跡とかに潜ってこそだよな。
「いいな。そういうことしたことないんで、かなり興味があるが……私は冒険者と行っても初級者クラスだぞ」
「それなら俺達と一緒ですね」
「よし、それならいいだろう。リグランディアだ」
「クリスです」
俺に声をかけてきた先頭の少年が手を差し出してくる。
「俺は戦士をやってます。こっちが……」
「チャックです。一応盗賊です」
クリスはガッチリした皮鎧を着ているが、チャックは動き易そうな皮鎧だった。
「ジーンです。神官です」
「ハウエルです、魔術師です」
ジーンは一見すると戦士のような装備だが、剣ではなくメイスを腰に下げており、首から聖印を下げていた。俺は詳しく知らないのだが、あれは確か正義の神の聖印だったと思う。ハウエルは身長以上の杖を持っているので、魔術師というのがわかる。そういえば魔術師と話すのは初めてかもしれないな。
「私も遺跡探検など行ったことは無いからな。初心者同士、軽く偵察に行ってみるか」
「はい。よろしくお願いします」
少年たち四人は素直に頭を下げる。しかし若いなー、日本でいう中学生くらいだろうか。俺も遺跡探検は初めてだから、丁度いいかもしれない。俺は軽い気持ちで、クリス達についていくことにした。
ファレンツオの北と東には鬱蒼とした森が広がっており、古代の遺跡群があるらしい。モンスターの跋扈する森は冒険者の探索でも手付かずの地域が多く、古代文明のアーティファクトが多数眠っているらしい。なので遺跡を狙った冒険者から、ファレンツオは人気スポットらしい。
クリス達四人も近隣の村でゴブリンやオオカミなどと対峙してきたが、一旗あげるためにファレンツオにやってきたらしい。
「森の中はかなり強いモンスターが出るらしいですけど、浅いところではそれほどではないみたいです」
「そのために少しでも慣れておこうと思って」
クリスとジーンの説明に納得する。やはり森の奥に行くということであれば、まずは慣れが必要だろう。保険に少し強そうな冒険者を一人連れて行くなど、慎重でもある。若手だが、将来はいい冒険者になるかもしれない。
俺はクリス達の案内で早速森へと入る。森の浅い部分はゴブリンが出る程度らしい。なので、俺はかなり気楽な気持ちでいた。
森に入ってすぐにはモンスターには出会わなかった。ゴブリンなども見られなかったので、俺達は徐々に奥へ奥へと行くこととなった。
「オークだ!」
森の木々をのんびりと眺めていた俺は、チャックの言葉で意識を引き戻される。見れば警告通り、木立の間に豚の亜人を見つけた。
「な、何でオークがこんなところに……」
「来るぞ!」
俺達をオーク側も見つけたようで、こちらに向かってくる。相手は三体だ。クリス達四人は武器を構える。
「『炎の矢』!」
ハウエルが杖を掲げると、空中に燃えた矢のようなものが生まれる。ハウエルが杖を下ろすと炎の矢が飛び出し、オークの一体へと命中する。おお、すげー! 魔法だよ、攻撃魔法。
俺はオークのことを忘れて、思わず魔法に見とれてしまう。ファイアボルトの矢はオークの胸にぶつかると火傷を負わせるが、オークはひるまずにこちらへと駆けてくる。うーむ、殺すほどの威力は無いのか。
俺は剣を抜くと、逆手に抜いてオークの一体へと投げつける。
「ぷぎゃっ!」
剣はオークの頭にぶつかって貫通する。そしてそれを横目に、次の一体へと跳躍する。
「ぐひっ!」
助走なしで真横へとかっ飛ぶと、そのままオークの顔面に膝を叩き込む。こんな格闘ゲームのキャラみたいな動きは、サキュバスのような筋力が無ければ無理だろう。
グラリと倒れそうになったオークの頭を左右から両手で掴むと、俺はそれを支点に逆立ちした。そしてそのままオークの首を捻って、首の骨をへし折った。俺が着地すると同時に、オークも倒れて動きを止めた。
さて残りの一体はどうなっているかと思ったら……こっちを見て固まっている。というか、クリス達まで固まってどうするんだ? 俺がクリスに目で合図を送ると、慌ててオークに剣で切りつける。オークはまともに剣を食らうが、胸と腹の分厚い脂肪と筋肉に、軽い切り傷が出来ただけで済んでしまう。逆にオークが反撃とばかりに斧を振るってくる。
「うわっ!」
クリスが盾で受けると、まだ小さな身体は吹っ飛んでしまう。慌ててチャックとジーンがカバーに入るが、オークの振るう斧の勢いに腰が少し引けている。
「とりゃっ!」
暴れてこちらへの注意が散漫となっているオークの背後へと再度跳躍すると、俺は手刀を振り下ろす。一撃で頭蓋骨を砕いて、手がめり込む。オークはへなへなと座り込むように倒れて、絶命した。
「よし、楽勝だったな。三体とも上手く頭だけ潰せたし」
オークの身体をあまり傷つけず、仕留められたので俺はホッとする。内臓とか傷つけると、味が落ちるということで、買い取り価格が下がるのだ。普段はサキュバスの能力で精気を吸い取って動けないオークの首を安全にへし折っているから、動いているオークと戦うのは久しぶりだ。
「とりあえずオークの肉は預かっておくぞ。素材は後でギルドに卸して、報酬を得よう」
「は、はい」
俺はオークをアイテムボックスへと収納するが、クリス達は異議は唱えないようだ。彼らは随分と俺を信用してくれているようだ。冒険者同士、取り分で争うことは多いようだが、この分なら大丈夫だろう。
情報通り、森の浅い場所ではやはりオークみたいな雑魚しか出て来ないようだ。やはりもっと奥に入らなくてはいけないだろう。
「おーし、それじゃ行こう」
俺たちは再び森の奥を目指して歩き始めた。




