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六十四日目 ファレンツオ

アラース王国に行くには、ザクセンから繋がる西への街道を、途中で北に向かえばいいらしい。


 ここ最近はフラオスでのオーク狩りにも飽きてきたし、リンでの冒険の時間を削って旅することにした。街道を走って、修行や娼館へと行く時間になったら瞬間移動でザクセンへと戻る。前回最後まで移動した場所まで瞬間移動で戻れるので、また再び走ることが出来る。拠点をザクセンから動かさず、俺はアラースに向かうという離れ技が出来た。


 コーナリア王国の村や城塞都市を幾つか抜け、ひたすら街道を俺は走った。気がつくとコーナリアとは違う様式の都市が見えてきた。城門の造りが今までコーナリア王国の各都市とは違って、レリーフなどで飾りつけがされているのだ。城門に立つ兵士などが着ている鎧も違っている。


「すみません、ここはもうアラース王国なのでしょうか?」


 城門の若い兵士に俺は声をかけた。


「ん? そうだが……」

「初めて来るものでして」

「そうか。旅人よ、ようこそアラースに。ここは南からの玄関にあたる、ファレンツオの街だ」


 衛兵はビックリするほどフレンドリーだった。特に何も聞かれることなく、ファレンツオへと足を踏み入れることが出来た。


「ここがアラースか」


 ファレンツオの街は、外壁同様にコーナリアの各都市と雰囲気が違っていた。


 何処が違うのか当初はわからなかったが、すぐに街並みを見ていてあることに気付いた。ザクセンやフラオスと違い、ゴチャゴチャとしていないのだ。コーナリア王国の都市は俺が知る限りは、街は大きいが家が密集していて、非常にゴミゴミとしていた。ファレンツオは各建物の間にスペースがあり、広い庭があるようだ。建物と同様に、街行く人の間も充分にスペースがある。文化などの違いだろうか。


 折角アラースに辿り着いたので、魔神についての話も聞きたいところだ。俺は情報収集しようと考えて、すぐに候補として思いついた冒険者ギルドに向かおうとする。


 だがそこで俺はハタと気付いた。今の姿はリンだ。だがリンはフラオスで活動している冒険者ということになっている。それがこの遠く離れたファレンツオに居るのはおかしい。他の姿に変えようと思うが、リョウの姿はあまり晒したくない。俺の本体とも言える姿だから、なるべく隠しておきたいのだ。既にフラオスで何人かには見られているが、その程度に抑えておきたい。リオーネは一般人に近いので、冒険者ギルドに向かうのには向かない。リリアンヌは戦闘特化の姿なので、あまり晒したくない。というか、仮面が不気味すぎる。リリィとリランダはザクセンで活動しているので、旅に出ているのはおかしい。


 俺は人目につかなさそうな街の裏路地へと向かう。そこで新たな旅人兼冒険者の姿を作ることにした。リンよりも年上に設定し、多少は腕が立つ初級の冒険者にする。かなり大きなエネルギーを消費し、銀髪の女戦士、リグランディアが出来上がった。


挿絵(By みてみん)


 俺は大通りに戻ると、道行く人に話を聞いて冒険者ギルドの場所を聞いた。ファレンツオの冒険者ギルドは俺が思っていた以上に大きな建物だった。3階建てで、入り口もでかい。ザクセンに匹敵する大きさだ。早速情報収集にかかるため、俺は気軽な気持ちでギルドへと入る。


 大きな扉を開けて入ると、中で座っていた冒険者達の視線が一斉に俺へと突き刺さった。その反応に俺はギョッとする。そういえば、フラオスに初めてギルドへと入ったときも似たような反応だったな。俺はなるべく人の注意を惹かないように、そろそろとギルドの受付へと向かう。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへ、ようこそ!」


 うお! 俺は受付に居た美人で若い女の子に驚く。ザクセンでも若い受付嬢だったが、あそこは首都だ。ファレンツオも可愛い受付嬢というものを用意してあるのか。


「旅の冒険者なのだが、この国は初めてなんだ。それで情報を頂きたい」

「どのような情報でしょうか?」

「この国の王女についた魔神のことは聞けるか?」


 受付嬢は目を見開いて驚くと、顔を近づけて声を落とす。


「お客様、一応この国の醜聞なんですが……」

「冒険者ギルドでは扱ってないのか?」

「いえ……基本的に知られている情報はお伝えできます」


 受付嬢がヒソヒソと俺に情報を話してくれる。


 何でも魔神を召還したのは第三王女のマトーシュとのこと。兄が三人、姉が二人ということで王位継承権は低いが、清純で心優しい王女ということで、国民の人気も高かったとのこと。


 アラース王国は特に強い軍隊や城塞都市などは持たないが、優秀な冒険者を多く輩出してきた国らしい。なので他国の侵略やモンスターの強襲を受けても、英雄的冒険者の活躍で退けてきたらしい。


 しかし一昨年のことだが、オークの大群がアラース王国が持つ砦の一つを襲ったらしい。運悪く優秀な冒険者がすぐには集まらず、砦は壊滅寸前に陥った。砦が落ちた際には背後の村や街が蹂躙される運命にあったとのことだ。心優しいマトーシュ王女は何とかならないか考え、何処からか魔神召還の儀式を探り当てたらしい。


 呼び出された魔神、ジ・ロースは王女との契約に基づき、砦に群がるオーク達を蹂躙した。だが代償は大きかった。マトーシュの身体をジ・ロースは乗っ取り、王城の離れに居座ったとのことだ。


「待ってくれ。アラースは優秀な冒険者が揃っているのだろう? ジ・ロースを退治しなかったのか?」

「それは水面下で何度も検討されました。ただ、魔神を確実に祓える方法を誰も知らなかったので。ジ・ロースを退治しても、王女様を救えなかったら意味が無いので」

「むう……まあ、確かに本末転倒だよな、それは」

「それにジ・ロース自体もまあ役には立っているので」

「どういうことだ?」

「定期的にオークが攻めてきた際に、彼女が迎撃してるので」

「王女が願った通りには仕事はしてるのか。それじゃ王家も祓うのには二の足を踏むよな……」


 王女が憑依されているのに目を瞑れば、対オークの迎撃兵器として働いているということか。


「ですが、魔神の行動には目が余るので」

「何か悪いことしてるのか?」

「借金した女子や他国から女奴隷を集めて、嬲っていると……孕んだものも居るそうです」

「ジ・ロースは王女の身体を使ってるんじゃないのか?」

「外見は幼い少女らしいですが、実際に子供を作ってるそうですよ」


 なにー、許せない。俺なんかは変化で幾ら頑張っても、男の象徴を取り戻せなかったというのに、女に憑依した身でそれを持っているというのか。それだけでかなり頭に来た。


「正確な話は王家絡みということで伏せられていますが、きちんとしたルートを探れば正確な話を聞けると思いますよ」

「分かった、ありがとう」


 いい情報が聞けた。とりあえず、これだけ聞けば前情報としては充分だろう。王都へと向かうとするか。


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