五十日目 サキュバスのエネルギー
剣術道場に入門して、一ヶ月近くが経った。今は棒をひたすら振っているだけだが、この振り下ろす型は本当に凄い。
先日、機会があったのでオオカミに型どおりに剣を使ってみた。自分が変化で作ったリンの剣を振り下ろしたら、真っ二つになったのだ。普通、剣で切っても真っ二つは無理だろう……どんだけ凄いんだ。剣の型というのはやはりヤバい。
それだけでも入門の価値はあったが、師匠と兄弟子との修行を見てもヤバかった。高度な切りあいとフェイントが凄すぎて、俺みたいな素人にはついていけなかった。目は動きを追えているのだが、頭がついていかない。こんな強者の修行を見せて貰うだけでも、入門した価値はあった。
俺は異世界に来て無双する予定だったが、こんな強者がいるのならば、まだまだ無理だろう。俺TUEEEEEするためには、まず修行が必要だろう。
そういえば師匠が借金取りに追われてたので、肩代わりしておいた。やはり道場の経営というのは大変なんだろう。
兄弟子とかから聞いた話だと、普通は貴族やその子供のコーチをしたりして、パトロンになって貰い稼ぐようだ。だが師匠はおべっかとかは使わずきつい修行をさせるから、パトロンを捕まえられなかったようだ。日々の修行が忙しいため、自分から売り込みにいく暇も無い。経営者としては落第だが、剣士としては優秀ということだろう。
普通ならば道場主になったら剣の腕が鈍るものだが、師匠は未だに強くなっているらしい。噂通りに凄い人物だ。
ヤリック師匠は俺が借金の肩代わりをしたことに、随分と恐縮していたが、別に大したことはない。寝る必要が無いので、日が落ちるとフラオスに瞬間移動して狩りをしているのだ。日々オークを片付けているので、肩代わりした分などすぐに貯まるだろう。
どうしても金が急に必要になれば、オークではなくオーガを狙えばいい。オーガの住処の近くをリオーネの姿でウロウロするだけで、大金が手に入る。
先日もオーガの居る場所の情報をゲットしたので、リオーネに化けて行った。巣にお持ち帰りされて、たっぷり精気を吸ったうえに、討伐代金でたっぷりと儲けさせてもらった。
師匠も兄弟子達も大分金がないようなので、毎日オーク肉を差し入れすることにした。オークの肉は幾らでもあるから、差し入れには丁度いい。兄弟子はめちゃくちゃ喜んでくれるし、師匠の奥様も喜んでくれて俺もハッピーだ。
このように日々過ごしているが、最近大きな問題が発覚した。剣を振っているうちに分ったのだが、サキュバスの身体も鍛えれば鍛えるほどに強くなる。人間と同じで筋肉疲労後に超回復すると、その分が鍛えられるようだ。自分の身体が数値化されているわけではないので、どのくらいとは伝えにくいが、毎日少しずつ成長している。その際に筋肉の疲労を回復するのにエネルギーを使用するのだが、これが問題だった。
俺は日々オークに村娘を装って捕まり、精気を絞り取っている。このエネルギーはかなり溜まっているのだが、これは運動したり身体の代謝を補うために使用している。だがこれでは肉体を作ることができないようなのだ。
では肉体を回復するエネルギーはというと、ディーンから絞り取ったエネルギーだった。どうやらオークなど亜人から得られるエネルギーは人間で言う炭水化物、人から得られるエネルギーはタンパク質と例えると分りやすい。
何でこのような違いが出るのかよくわからない。だがサキュバスが人間などをよく襲うことにヒントがあるように思える。
冒険者ギルドで金を払って聞いたサキュバスの情報だと、この種族は知的生命体でもよりよい魂を堕落させるのに、かなり執着しているらしい。頭が良かったり、強い戦士であったり、高貴な聖職者だったりと人より優れている人物の精気を好むということだ。なるほど、人が良質なタンパク質が手に入るなら、より良い肉を選ぶのと似ている。
ディーンからかなりエネルギーを得られるのも、これで説明がつく。彼はモラルが高く、仕事に真面目だし、娼婦のリョウに対しても非常に誠実だ。優秀な人間の部類に入る。
よく考えればオークのような野蛮な亜人だけを狙って精を吸収しまくれば、サキュバスも人間に敵視されないはずだ。しかし、無難に低級な亜人ではなく、やたらと人を襲うのはこういう訳なのだろう。より強くなるためには、人間やエルフなどが必要なのだ。オークとかの低級な亜人はエネルギーを得るだけの米、人間などは良質なタンパク質というわけだ。
そういうわけで俺も良質なタンパク質が必要なのだが、ディーンだけでは賄えない。彼の日々の生活を考えると一回に二割くらいしか精気を吸えないし、毎日吸ってたら彼も身体を壊すだろう。
人から精気を吸う必要がある。それもたくさん。そこで俺は一計を案じた。まずはまた変化で新しい人間を作ることにした。今度は美貌と色気にステータスを全振りという美女だ。リオーネに近いが、もっと洗練された美女にしたつもりだ。
そしてその格好で娼館に就職することにした。これならば、男は入れ食いである。良質なエネルギーも補給し放題だろう。うひょー、精気を吸いまくるぞ。俺は意気揚々と娼館に向かってる自分に気付き……思いっきり落ち込んだ。ダメだろう、そういうのに慣れちゃ……。




