二十一日目 街道を北西へ
普段使っている東門ではなく、フラオスの西門から俺は初めて出てきた。これから西に王都ザクセンを目指すのだが、そこでふと考えた。
「そういえば全力で走ったこと無いな」
森の中で獲物のオオカミを追ったことはあるが、あれは本気を出さなくとも追いついた。それに森の中では全力で走るには障害物が多すぎる。
「よし、どんなものか見てみよう」
身体を軽くストレッチさせて身体をほぐすと、クランチングスタイルで走る準備をする。前世で俺は陸上の経験があるわけではない。気分的なものだ。
「よーい、どん!」
俺は全力で駆け出した。そしてそれは凄まじい速さだった。
「うおおおお、こんなに速いなんて……」
街道の景色があっという間に流れて、土煙さえあげている。人間では出せない化け物じみた速さだ。自家用車なみに速度が出ているのではないだろうか。だが、全力で走っていると、やはり疲れてくる。
「やっぱりトップスピードの維持は無理か……」
息が苦しくなった俺は、スピードを緩めようかと考える。だがその前に、ジャンプ力がどのくらいか、確認したくなった。
「はぁぁぁぁぁぁ! トリャー!」
大地を蹴って跳んでみたところ……ぬああああああ、高い。高層ビルなみに高く跳んだ!
常人離れした筋力だと思っていたが、サキュバスって無茶苦茶凄いな。走った勢いのまま跳躍したので、前に行くスピードも維持できている。おまけに空中に居る間に自分の息も整った。
着地の際も激しい土煙はあげたが、自分にはダメージがなく、すぐさま疾走へと繋ぐことが出来た。このままダッシュとジャンプを繰り返せば、息切れせずに走り続けられるのではないだろうか。
「いやっほうー!」
俺は調子に乗って、トップスピードで走り、ジャンプしまくった。
「げっ! しまった……うわあああああ!」
そして途中で街道が曲がっているのに気付かず、高く跳んだ勢いのまま、森へと突っ込んだ。着地点を大幅に変えることも構わず、木の枝にぶつかりまくる。
「あいた、ぎゃっ、あぐううう」
猛烈なスピードだったために衝撃が大きく、地面に落下するまでにいっぱい打ち身を作ることとなった。
「跳ぶ前に先をよく見ないとな……」
地面に逆さになって墜落した俺は、ボソッと呟いた。