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とあるベテラン冒険者

【とあるベテラン冒険者】


 俺の名はジーモス。現役の盗賊……と言っても、冒険者なので犯罪者というわけではない。基本的にはパーティーと組んで、ダンジョン攻略やモンスター討伐を生業としている。


 だがギルドマスターの走狗なんで、結構後ろ暗いことはしているが……まあ、バレなければどうってことはない。


 ギルドマスターからの依頼で、俺は冒険者ギルド期待の新人であるリンとかいう小娘を連れたクエストに出ることになった。ソロの新人だというのに、オークを片っ端からぶっ殺しているという凄腕だという。ギルドで何度か見たことがあるが、隙だらけの身体で、そんな強そうな姿には全く見えない。


 ギルドマスターの依頼でこいつの力量を見ようと後をつけたことがあるが、街中で何度も撒かれてしまった。尾行に気付いた様子は全く無かったのに、見失ったときは衝撃的だった。隙だらけなのに、もしかすると達人なのかもしれない。それも今回の冒険で見極められるだろう。


「ジーモスさんは薬草に詳しいそうですが、やっぱりこの辺だといい薬草が採れるんですか?」

「貴重な金になるようなのは、森の奥に行かないとダメだな。それでも街の南の平原だと、小遣いになるようなのは生えてるぞ」

「そうなんですね! いや、私はまだ薬草の採取のクエストをやったことなくて……やっぱり冒険者としてはやっておいた方がいいでしょうか?」

「合う合わないとかあるからな。やってみて、試すのもいいだろう」

「なるほど」


 街を出て街道沿いに歩いているあいだ、リンは俺に絶え間なく質問を浴びせてくる。質問だけを聞けば素人丸出しだが、本当にこいつはオークをあんなに狩ってる凄腕なのだろうか。あり得ないことがしょっちゅう起きるこの稼業でも、どうも信じられない。


 だが改めて思うが、驚くほどの美人だ。百人に一人、将来的には千人に一人ぐらいの美人になるに違いない。胸も大きく、腰もほっそりとしている。


 今もギルドでは若手の中では、しょっちゅう誰が口説くかで話題になっている。今のところ、討伐しているモンスターの凄さにビビって、誰も声をかけていないが。


「こっから先の丘に生えているんだ」

「へえ、そうなんですね」


 歩き始めて数時間、俺達は街道から逸れて森に入って、目的地の丘近くに来ていた。リンは素人丸出しで、周囲の警戒とかが疎かだ。こんなのなら、奇襲を受けてすぐ死にそうな感じだが、彼女は目と耳が驚くほどに良い。木々の上に止まっている鳥などをあっさりと見つけていた。俺も気付かなかったのに、なかなかやるものだ。


 木々が急にまばらになった丘を登り、俺達は薬草を探し始める。


「これが目当ての薬草だ」

「うわ、わかりにくいですね」

「そう、見つけにくいんだ、こいつは。だからよく探してくれ」


 俺の頼みに、リンは集中して地面を探し始める。そんな彼女をオーガが住んでいる近くへと誘導していく。悪いな、これも仕事だ。


 俺はうろついていたオーガが近づいているのを知りながら、直前まで黙っていた。


「ヤバい! オーガだ!」

「えっ、何処!?」


 俺が警告の叫びをあげたときには、オーガが木々を縫ってこちらに走ってくる姿だった。俺は魔法のアイテムで走力が上がっているので、いざとなったら逃げることができる。


 問題はこのお嬢ちゃんがどう対処するかだ。毒を付与できるナイフもあるので、いざとなったらある程度は助けることもできるが……一撃で死んでしまったら、それまでだろう。


 リンはオーガの姿を見ると、果敢にも相手に向かって行った。その足は驚くほどに速い!


 俺が驚いている間にあっという間に近づくと……驚いたことにがっぷりと手を相手と組んで力比べに持ち込んだ。


「ば、バカが!」


 オーガは思わず棍棒を落としたが、人間がオーガと力比べ出来るわけがない。すぐに手をへし折られると思っていた俺は、恐ろしい光景を目の当たりにした。


「ウギャアアアアアアア!」


 即座にリンはオーガの腕をへし折った。肘関節を逆に曲げられ、白い骨が肘から飛び出したのだ。あまりにも非現実的な光景に、俺はアホみたいに突っ立ってしまった。視覚から入ってくる情報を理解できていないのだ。


 オーガが痛みに倒れて暴れ回ると、リンはオーガの首を掴むと捻る。凄まじい破砕音と共にオーガの首が九十度にへし折れた。


「な、何だありゃ……」


 俺が唖然としている間に、仲間の悲鳴を聞いたのか、もう一体のオーガが丘の上から現れた。人間を見ると、仲間の死体があるのに関わらず、駆け下りてリンの元へと向かう。それに対し、リンは助走もつけずに空中へと舞い上がった。


「なっ!?」


 非人間的な膂力で空中に飛び上がったリンはオーガの真上から落ちる。反応が遅れたオーガの両肩に両膝を落とすと、即座に首を太ももで挟んで腰を捻る。


「ふんっ!」


 ゴキリと首の骨が折れる音が聞こえて、二体目のオーガも死んだ。何だ、これは……俺は何を見ている?


 続けて三体目と四体目のオーガも現れてリンを襲うが、彼女は全く動揺していなかった。


 リンはこの戦いで初めて武器を使用するのか、剣を抜こうとする。少しまごつきながら鞘からロングソードを抜くと、リンは逆手に持つ。そして駆けて来た一体へと投げつけた。


 尋常じゃない速さで真っ直ぐに剣が飛ぶと、オーガの胸に真っ直ぐ突き刺さった。その次の光景に俺は度肝を抜かれた。剣が刺さった衝撃でオーガが吹っ飛び、数メートル先の木に貫通した剣で縫い付けられた。


 どのくらい凄まじい力で投げれば、オーガが飛ぶ威力で剣を投げられるんだ!?


 思わず立ち止まった最後のオーガに、リンは再び跳躍する。空中で2回転身体を捻り、勢いをつけて回転蹴りを彼女は放つ。遠心力の乗った蹴りがオーガの頭にぶつかると、凄まじい破砕音が響く。


 一撃で首が直角に曲がり、絶命したオーガに、俺は最早笑うしかなかった。


 それから彼女は容量はでかいが重さがバカみたいに増えるバッグにオーガを入れる。その姿を俺はひたすら唖然としながら見るしかなかった。


「お待たせしました。薬草、見つけましょうか」

「……あ、ああ」


 もしかして俺はオーガなんかよりもっと恐ろしい化け物と同行してるんじゃないか。そう気付くと全身から汗が噴き出すのを止められなかった。


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