0日目 異世界へ
俺が目を覚まして最初に目に入ったのは、何処までも続く白い世界だった。床は磨き上げられた白い床で、空も真っ白だった。そこは全く現実感が無い風景が広がっている。
「おっしゃ! 噂は本当だったんだな」
その光景にこの俺、刈谷亮介は天に手を突き上げた。ネットで知った異世界に転生する方法を見て試したんだが、本当に転生できるとは……。確かに転生する方法があるという話が広がった頃から、日本では行方不明者が増えていた。なので多少は信憑性があったが、正直に言えば俺は馬鹿にしていた。いや、ほらさ……実際に試してみて、デマだったら色々傷つくじゃん。だが俺はこうして無事に転生できたようだ。
「カリヤ・リョウスケ様、ようこそいらっしゃいました」
「うおっ!」
何もないところから声が聞こえて、俺は思わず驚いた。つい飛び上がってしまったくらいだ。
「誰だ!?」
「カリヤ様が転生する世界のシステム担当でございます。この度はカリヤ様の転生にこちらの世界が選ばれて大変有難いです、感謝致します」
「そ、そうか?」
転生を勝手に決めたのは俺なのに、受け入れ先から歓迎されるとは。まだ何もしていないのでむず痒い。
「ま、まあ、転生したら、俺にして欲しいことがあったら言ってくれ」
「特にございません。カリヤ様が思うままにして頂ければ、それで構いません」
「そうか? でも世界を破壊したりとかはあまり考えてないから、安心してくれ」
「ありがたいことです」
格好をつけて恩を売ろうとする俺にも、謎の声は礼儀正しく温かく返してくれる。これはかなり期待できるんじゃないか。
「それでこちらの世界に来るに当たって、何かご希望はございますか?」
「特殊能力はつけてくれるのか?」
「はい、それはもちろん。どのような能力をご希望ですか?」
「ま、まずは定番の言語能力だな。言葉が通じないと大変だからな」
「それは初期の共通パッケージに入っております。他には何かあるでしょうか?」
「しょ、初期パッケージ?」
「言語能力、ある程度のこちらの世界の風土病への耐性、魔力などのカリヤ様の元居た世界にない能力です」
「なるほど、定番のものは最初からついてくるんだな……」
異世界に行って、いきなり病気で死んだり、魔力が無くて苦労するとか、そういうことは考えなくていいってわけか。だとすると頼むべきはチート能力だが……。
「そ、それじゃ、モテモテになる能力はつけられるか!?」
「可能です。異性にモテる能力でよろしいでしょうか」
「いいぞ。めっちゃ異性にモテる姿で頼む」
おっしゃー、これでハーレムルート確定だぜ! やはり異世界と言えばハーレムだよ、ハーレム。
「それで常人を遙かに超える高い能力値だな。筋力や体力、魔力が高いのがいい」
「了承しました」
「あ、病気や老化への耐性も欲しいな」
「病気無効、不老でいいでしょうか」
「おお、いいね。不死は何か落とし穴がありそうだから、いいや」
かなり無茶な要求をしてるが、システム担当さんはほいほい受けてくれる。これはチート全開でいけるか?
「他にリクエストはございますでしょうか」
「あれだ、定番のアイテムボックスをくれ」
「アイテムボックスですか?」
「そうそう。拾ったものを出し入れ自由な次元にしまう能力で、入れた物品の時が経過しないっていうやつ」
「わかりました、そちらも付与させて頂きましょう。他には?」
「えっと……後には」
やばい。転生できるかどうか試すことに集中してて、どんなチート能力を持つか考えてなかった。
「瞬間移動能力とか」
「わかりました。こちらの世界でも使える力を付与させて頂きます」
「えっと、えっと……そのくらいかな」
「畏まりました。それでは、転生の準備はよろしいでしょうか?」
システムはあっさり聞いてくるが、多分これは最終通告だろう。いよいよ俺の異世界無双転生が始まるのか。
「ああ、いつでもいいぞ」
「それでは新世界にようこそ、カリヤ様。世界のバランスを正して頂くことを願います」
白い世界が光に包まれて、やがて俺の意識は飛んだ。