表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雀が道  作者: 渡辺遥
6/6

仕事

今日は、世界観紹介もあったので、二話分乗せてしまいます。


ぜひ読んでみてください!

乗らない。というか、乗れない。流れが全く来ない。目の前の河は怒涛狂えるほどの荒々しさというのに、私の元へ来る流れは晴れた日の深夜の沖縄の海かと思うほどにしんとしてる。


パラソルを開いてポカポカ気分になるには問題ないが、雀卓の上で凍えるような点数状況になっている時には全くもって嬉しくない。


今日はダメだな。


このような気持ちはどのような場面でも、イケると思う気持ちと違い簡単に現実に映る。見る見るうちに下り調子となり、すごすご退散する羽目になった。


朝のいいことがあると期待したあの瞬間は一体なんだったのか。理想が現実に突き放されてる、一番あってはならない状態である。

気づいたら終わっていた試合、そしてインタビュー。私は試合場所から逃げるようにチームの部屋へ戻り財布を持って外へ出かけた。


すぐ近くにあるカフェには入らず、今日は少し遠くまで歩き、別のカフェか喫茶店を探すことにした。当てもなく歩くこと20分。チェーンのカフェがあった。私はコーヒーを頼もうと思ったが、ふと甘い物を口にしたくなりココアにホイップたっぷりにしてもらう事にした。


店の奥の奥まで追いやられてしまった喫煙席につき、私は煙管を吸おうと胸ポケットを探った。


無い。


朝は確かに入れてきたはずである。今日一日の動きをよく思い出した。

そうか、試合中に見えるのはよろしく無いとチームの部屋に置いてきてしまった。奥の奥にある数少ない喫煙席に座ったのにいつもの煙管がない。周りに人こそいないが、なんともいえない口虚しさを感じた。

ニコチン中毒なわけではないが、煙管を咥えた時の、あの安心感を得たくて仕方がなかった。私はココアのストローをいつもより強めに加えた。

一気に三分の一ほど飲み、大きく息を吐いた。私はがっつりと背もたれにかかり、天井を見上げた。


何もいいことがない。


私は暇を潰そうとスマホを取り出し、掲示板サーフィンの旅へ出た。


一体どれほどの時間が経ったのだろうか。スマホの時計によると、私はもう二時間はここにいたらしい。全くもって信じられない。何もしていなかったのに。外は徐々に色を落とし、街灯の黄色い光に包まれようとしていた。私はカフェを出て荷物を取るべく職場へ戻る事にした。


同僚に何を言われるか。何も言われないのも、また悲しいものだ。言い訳よ余地もないし、今までずっと悪かったわけではない。そこそこいい成績を出していただけに、今日の下り調子には我ながら受け入れ難いものがあった。朝は気持ちの良いアレグレットだったのが、今ではアダージョ、下手すればラルゴであった。


あれ、もしかして…


振り返ると可愛らしい女性がいた。身長140センチ付近。小さい女性。顔立ちも幼そうに見える。しかし、声から察するにおそらく20代とみた。


あの、ファンなんです。よければサインを。


そう言われ、ノートを差し出された。私はザアッと書き付け、いつも通り下手な文字を隠すように書いた。


ありがとうございます。


明るく嬉しそうな笑顔で私をみた。


いいえ。


私はまた職場へ歩き出した。足はモデラートに動いていた。


冷たい手すりを掴みながら、私は階段を上った。部屋に入ると同僚が


まあ毎日勝ち続けられるわけじゃないからな。


と私に語りかけた。返事もそこそこに、私は今日は一段と疲れたと告げ、早々に帰宅する事にした。


いつもは使わない電車。私は同僚にもう一度今日の負けを思い知らされたことを言い訳に、改札を一気に通り抜けた。

電車が来るとたくさんの客が乗り降りする。まるで人間用のベルトコンベアだな、なんてことを思いながら、私も運搬物の一つとなった。


外の景色は素早く動いていった。感想を述べさせる暇もなく次々に情景を与えた。

唯一動かない雲を見上げながら、私は明日へ希望を託す事に決めた。


今日はもういいや。


私はまた大きく溜息をついた。駅に着いたので私はそそくさと電車を降り、改札へと向かった。私は駅中のコンビニで小さいパックの牛乳を買って、イライラの解消にでもならないかと飲み干した。


歩いで数分で家が見えた。いつもより経過時間は非常に少ないはずだが、いつもの何倍もの時を感じた気がした。私は妻に今日のことをどこまで話そうか悩みながら、家へと向かった。


玄関を開けようとしたとき、ふと庭が目に入った。いつもは荒れ果てている花壇がすっきり綺麗になっていた。それどころか花の看板まで立っていた。見違えるとは、この瞬間を言葉に表すために作られたのではないか。そうとすら思えた。看板の花が咲くことを想像すると、急に玄関までもが明るくなったような気がした。


なんだ、ちゃんといいことあったじゃないか。

これから7章に取り組みます。

いくらかのアクセス数が今の私の励みになってます。

評価もしていただけると本当に嬉しい限りです!

お読みになっているみなさん、いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ