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雀が道  作者: 渡辺遥
3/6

想像以上に早く三話目がかけてしまいました。もっと推敲しろ、と言われそうですが、なんか誰かに見てもらった方が手っ取り早い気がして。


三話目は妻視点です。

朝は自然と目が覚める。結婚してからの10年の間、早起きの日は一度も寝坊をしたことがない。というより、子供の頃からしたことがない。カーテンの隙間から少しだけ漏れてくる光がわたしを優しく起こしてくれる。


よし、今日も頑張ろう。


寝るのが好きな夫を起こさないように静かに布団から出た。少し凍えるこの季節。もう一度布団に潜りたくなる気持ちを抑えて服を着替えた。


あれ、なんか気持ちキツくないかな?


デニムを履くときにそんなことを思ったけど、気付なかったことにした。

洗面台に向き合って髪型を直す。とはいえ、生まれつき髪質が柔らかいわたしはほとんど寝癖がつくことはなかった。優しく櫛で髪をとき、いつものようにテールをゴムで縛った。


さ、朝の支度始めなきゃ


冷蔵庫からレタスときゅうりを取り出し、ささっと切って盛り付けた。仕上げはトマトを四つ切りで乗せれば、朝のサラダの完成。


やっぱり朝はこれよね!


お次はキウイを取り出し、ザクッと切ってスッと皮を剥く。


うん、美味しそう。


この瑞々しさがこの時期の朝を一層爽やかにさせる。四人分の朝ごはんが出来たところで、みんなを待つ。目玉焼きとトーストは起きてから焼く。冷めると美味しくないもんね。


ふぅ、ちょっと休憩。


温かいコーヒーをいれてソファにゆっくりと腰をかけた。テレビをつけてボーッとした。少しすると扉の向こうからガサゴソと音が聞こえる。


あ、起きたんだ。


わたしは知っている。夫は起きてから煙草を吸って、それからやってくる。わたしはソファから立ち上がり、コーヒーをシンクに置き、トーストと目玉焼きの準備をした。


そろそろ吸い終わる頃かな?朝ごはんできたよー


夫はなぜか少しだけ微笑みながら起きてきた。ちょっと気味が悪い。テーブルに並べた朝食を前に夫はほんの数秒止まってから、いただきますと呟いた。やっぱりちょっと気味が悪い。夫は手際良く朝食を食べた。ごちそうさま、と呟き出発の準備をした。

私は夫の食器を片付け新たな目玉焼きとトーストの準備をした。次は子供の番だ。二人の娘が下りてきた。


あれ?一人足りない。お願い、起こしてきてあげて。


わたしがそう言うと二人の娘がまた階段へと向かっていった。

そして今更いってきまーす、と半ば気力の抜けた夫の声が聞こえた。一体何してたんだか、気味が悪い。娘がいってらっしゃいと返事をしていた。わたしもいってらっしゃいと言った。届いたかはわからないが。


あんなに朝から気味の悪かった夫なのに、家からいなくなると途端に家が物足りなくなる。子供が学校へ行っても何も感じないのに。不思議な感覚が10年続いている。不思議って言ったって、わたしにはその理由がわかっている。


好きなんだよね。やっぱり。


どうやらわたしはこれをこえにだしていたみたい。しかも、この呟きを聞かれてたらしい。いつの間にかダイニングに下りてきていた長女に、何それ高校生みたい、と笑われた。息子は引いていた。次女は席についてニコニコしてた。ちなみにわたしはとっさにしゃがんで台所の後ろに隠れた。


四人で朝食を食べて、とうとう子供たちは家からいなくなった。今日は仕事がないから家事をしなくてはならない。家事は昔から好きだった。暇さえあれば部屋の掃除をしたし、わたしのママの料理の手伝いもしていた。


でも洗濯だけはあまりしなかった。まずこれはなかなかの重労働だった。何より達成感にかけるのよね。ぱっと見綺麗になるわけでもないし、次から次へ湧いてくるし、上下運動も激しいし。でも、1日でも休むと途端に洗濯機が飽和してしまう。五人家族ってこう言うものなのかな。わたしは最初にこの牙城を制圧することにした。畳んで干して畳んで干して…まるで倒す為に立ててるドミノみたいだわ。わたしはスマホで音楽を流して、あまり深く考えないようにした。10年間やる割には全然慣れないわ、この疲れ。ようやく終わった洗濯物の制圧の末、わたしはコーヒーを飲んで一息つくことに決めた。


科学技術は日々進んでる。そんなことを思いながらコーヒーサーバーを起動させた。温かいコーヒーがドリップされてくる。椅子に座ってちょっと香りを嗅いで、誰見るわけでもないけれど格好つけてみた。


ピンポーン


もう、タイミング悪いんだから。

やっと一息って時に、正にその時に誰かが尋ねてきた。インターホンを覗くと宅配便の人が立っていた。


はーい


M宅配ですぅ。お届けものに参りましたぁ。


はーい。


わたしは引き出しから判子を持って玄関へ向かった。届いた小包みを開けると中からアニメのフィギュアが出てきた。

まーた買ったのね。アニメ好きの夫は困ったものだわ。わたしは箱入りのフィギュアを夫の部屋の机に立たせた。

私だけじゃ不満なのかな、でもあなただけでもやっぱり不満みたいよ、とすでに飾られたフィギュアに話しかけてみた。相手はニコニコと笑っていた。わたしはフィギュアの頭を撫でて部屋から出た。


ダイニングの椅子に座るとコーヒーが置いてあった。

いやだ、すっかり忘れてた。湯気の立たないコーヒーを飲んだけど、やはりちょっと物足りなかった。

仕方ないわね。わたしはもう一度コーヒーを淹れることにした。温かいコーヒーは、わたしに朝起きてから初めてのゆったりとした時間を与えてくれた。

もう、誰もインターホン鳴らさないでね。

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