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雀が道  作者: 渡辺遥
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階段

近年はめっきり階段を上らなくなった。建物に行けばエレベーター。駅ならエスカレーター。兎にも角にも階段を上らなくなった。家の二階への階段しか上らなくなった。


高校時代までは毎朝三階四階へ息を切らして登っていた。顔色一つ変えずに、場合によっては笑いながら登りゆく友人を見て感心したものだ。

ところで今日、仕事場へ到着するとなんだかいつもよりも疲れていないような気がした。


いつもより考え事に更けた所為か。ふとエレベーターの横を見ると階段があった。目的地は僅かに二階。確かに普通の家よりは高いかもしれないが、とんでもないというわけでもない。よくあるビルの二階だ。思えばなんでこれほどの高さの為にエレベーターの降下を待っていたのだろうか。


私は試しに階段へ一歩踏み出してみた。人類にとってどうでもいい一歩でも、私にとってはなんだかもの凄い一歩に感じた。四段ほど登ったところで、同期の人がエレベーターを待っていた。何故かは判らないが急に恥ずかしく思えた。そそくさと階段を駆け上る頃にちょうどエレベーターが一階についたようだ。私は同期に出会う前にと、気持ち急いで自分の職場の部屋へと向かった。


ちょっと冷たいノブを捻って扉を開けると、いつもの顔ぶれであった。ここもやはり、変わらない日々を映し出していた。私は小さく「はよーざいます…」と誰に言うでもなく呟きながら自分のロッカーへと向かった。


コートをかけていると突如、後ろからガシャンという音が耳を切りつけてきた。キュッと身を縮め、反射的に耳を抑え、恐る恐る後ろを振り返る。


「ごめんなさーい!」と新人の女性が声をあげた。床には大量の仕事道具が落ちている。どうやら箱の中身を台に載せようとした時に落としてしまったようだ。

仕方ないな全く、気をつけろよ、と皆で言いながら一つ一つ拾っていった。一つもなくしていない、傷も付いていないことを確認して皆いつもの場所へと戻っていった。始業まで、まだ10分残っている。私は椅子に座りリーダーの登場を待つことにした。

今日はいつもと違うことが起きた。起こる可能性はあるがあまり起こらない事が起きた。やっぱり今日は特別な日なのかもしれない。上手い事なにか朗報がやってこないか、ちょっと期待してやろうか。

始業まで、まだ7分残っている。

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