表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/91

80.竜の国〜其々の印象〜

 

 頭が痛む。脳を突かれているようにズキズキと。

 森の中に入り、人目につかない木陰に腰を下ろすとファレンは大きく溜息をついた。


 あの女のせいだ。

 子供への一撃を防いだ時のあの顔のせいだ。

 何故、自分はあの女の言うことなんか聞いたのか。

 いつもと変わらず、強引に奪えばよかったのだ。

 奪う者には奪われる痛みを、死を、与えねばならぬのだ。

 しかし、自分の中の何かがあの女に歯向かう気力を削ぐ。

 それが一体なんなのかわからず、記憶のない自分への苛立ちが強まる。

 記憶さえあれば、この何かがわかったかもしれないのに。

 苛立ちと頭痛を忘れるべく、背を樹木に預けながら、ファレンは目を瞑った。




 ◇◇◇



 ファレンが一人で砦の外へと出て行き、ルカとエリーがデート(?)に出掛けた後、ユウとリズはザックに案内され、山の中の砦とは思えぬ程に豪奢な内装の部屋に通された。

 ユウが呆気に取られていると、続けて部屋に入ってきた者から労いの言葉を掛けられる。


「魔獣討伐及びザックと駆竜の護衛、大儀であった。感謝する」


 派手ではないが立派な装飾が施された上品な出で立ちと立ち振る舞いから位の高さが窺い知れる。


「我ら竜騎士団のグリード副団長だ。我ら……とは俺はもう言えないか」

「何を言うのだザック、お主の志はいつまでも我らと共にある。ずっと騎士団を名乗ればよい」

「そうもいきませんよ。ですが、お心遣い感謝します」


 退役したザックに騎士団を名乗ることを許可しているあたり、ザックが騎士団でもかなりの活躍をしたことがわかる。


「今夜は慰労も兼ねて宴の予定だ。ゆっくりして行ってくれ。宿は決まっているのか? 決まっていないならザックに兵舎の一室を案内させるが――」

「ありがとうございます。ですがそこまで甘えるわけには行きませんので、これから宿を押さえてきます」


 グリードが言い終える前にリズが言葉を重ねる。

 口調は丁寧ではありながらもその様子は普段のリズらしからぬ態度だった。


「そうか。ではザック、良い宿の紹介くらいはさせていただくとしよう」

「ですね」


 ザックから宿屋の場所を聞くと、ユウとリズは宿屋へと向かう。

 しかし、ユウは気にせずにはいられなかった。

 リズがずっと、元気がないということを。




 ◇◇◇




 宿を押さえ、宴のために再び騎士団の砦へと向かうこととなったユウとリズだが、ルカとエリー、そしてファレンも連れて行かねばならない。

 おかしな空気とはなっているものの、ファレンもまた牧場を賊から守った功労者には違いないからだ。


 リズからの提案はルカとエリーをユウが、ファレンをリズが連れて行くというもの。

 宴の前にファレンとの間に生じてしまった溝を少しでも埋めたいのだろうと思って、特に何も言わずにその提案を受け入れた。

 本音を言えば、リズの方から積極的にファレンに近づいたりはして欲しくないのだが、そんな器の小さい男ではいたくない。


「じゃあ、あとでね」


 平静を装ってそう言うと、ユウは街中の散策を始めた。ルカ達はラッキーに乗り、山間の街へと降りて行った。

 であれば、この街のどこかにいるはずだ。

 聞き込みでもすればきっとすぐに見つかるだろう。

 蒼髪とピンク髪の竜族の少年少女など、目立つに決まっている。

 さっさと見つけ出してリズに合流するとしよう。

 決してファレンとリズを二人きりにさせたくないということではない。

 早く合流すれば早く宴の席につける。

 そう、お腹が空いているのだ。


 誰に向けた言い訳なのか、ユウは心の中でそんなことを呟きながら街の中で人通りが多そうな場所を優先的に探して回ろうと歩を進めた。




 ◇◇◇




「どう思う?」


 エリーはラッキーの背に乗りながらルカの腰に手を回している。

 乗り心地は悪くない。むしろ馬より遥かに揺れず快適だ。

 しかし、万が一があっても嫌だからとルカが頑なに腰に手を回すように言うものだから仕方なく手を回していた。

 そのせいか、ルカは砦を出てから終始ご機嫌である。

 そんな楽しい気分の中、こんな話題を切り出すのは忍びなかったかが、エリーはルカの意見も聞きたかった。同族の感覚として、何か感じるものがなかったかを。


「どしたのエリー? エリーもいよいよオイラに夢中になっちゃった? オイラがエリーをどう想っているのか気になるなんて――」

「違う。ファレンのこと」


 蒼髪の幼馴染はいつもの調子だ。

 しかし、ルカがこう言う時は大抵わかって言っている。


「うーん……ちょっと、いや、相当ヤバいよね。賊の時はまぁ容赦ないなぁくらいにしか思わなかったけど、さっきの子供のを見ちゃうと、心配になるくらい頭オカシイと思っちゃうよ。きっと、記憶がないのと関係してるんだろうね」


 ほら。トボけて見えてちゃんと見て考えている。


「一緒にいるのは危険かな? リズがやたらファレンを気に掛けているから、近寄っちゃダメとは言えなくて」

「大丈夫じゃない? 賊の時もさっきも、リズ姉の反応を見て大人しくなってるから。むしろ心配なのはユウ兄かなぁ。ライバル登場的な?」


 やはりよく見ている。ルカの言う通り、子供の時だけならまだしも、賊の時もリズの反応を見ていた。

 リズに対する好意とは別物なように見えるが、ルカにはそう見えているらしい。

 色恋沙汰に関してはエリーは心配していない。あの二人の関係が誰かの介入を受けて壊れるようなものではないと信じているから。

 少なくとも、ユウは邪淫の魔神ルードネスと対峙した際にリズへの想いを試されていたのだから。

 こう言うとリズの方が揺さぶられかねないと言っているように聞こえるかもしれないが、それもないだろう。


 一先ずは様子見か。

 自分の思考の結論は結局のところ現状維持。

 しかし、リズに本格的に危害が及ぶようであれば、いつでも自ら手を下そう。


 エリーはそう思いながら、ラッキーの背で爽やかな涼風を感じていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ