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79.竜の国〜歪な執着〜




 騎士団の砦に着いてからは大忙しだった。

 魔獣や賊を返り討ちにしたユウやファレンの実力を確かめたいと騎士達は寄ってたかって声を掛けてくる。

 ファレンがそんな騎士達の相手をするわけもなく、全てユウとルカへと振ってくる。

 その振り分けにリズとエリーが入ってこないのはファレンなりの気遣いだったのかもしれない。


 ユウやルカが騎士達と軽めの手合わせをしている間、ファレンは芝生へと腰を下ろし、騎士団の砦に遊びに来ていた子供達をじっと眺めていた。

 ハイネストの騎士団は民衆達との距離も近いらしく、騎士団の砦の中には露店もあるからか、多くの民衆達が行き交っていた。

 すると、ファレンの隣にリズが腰を下ろす。もちろん、そんなリズの隣にはエリーが寄り添っていた。


「普通の国って騎士と民衆には距離があるかと思ったけど……いい国ね、ハイネストは」

「……」

「ファレンはいいの? 手合わせしなくて」

「必要ないだろ。あんなもの優越感に浸りたい愚か者のすることだ」

「そっか」


 ファレンはリズの問い掛けにもぶっきらぼうに答えると、顔を背ける。

 その視線の先で、子供達が木の枝を剣に見立てて騎士の真似事をしていた。

 最初は一対一だったその真似事も、ヒートアップしていったのか、いつの間にか多対一だ。

 挙句の果てには囲んで木の枝を取り上げてその枝はへし折られてしまう。

 楽しんでいたはずの子供も、お気に入りの枝だったのだろう、目の前でそれをへし折られては泣き始めてしまった。


「あれはひどいわね……ちょっといってくるわ――」


 立ち上がろうとしたリズの腕はファレンによって引っ張られ、リズは尻餅をつく。


「きゃっ! ちょっとっ!! ファレン?!」


 ファレンには剣呑な雰囲気が漂い始める。

 リズの呼び掛けにも答えず、ファレンは立ち上がると子供達の方へと歩いていく。

 子供達から見ればファレンも十分大人である。

 そんな大人が苦虫を噛み潰したような表情で近づいてくれば子供達には恐怖でしかない。


「人のものを奪うということは、奪われることも覚悟できているんだろうな?」

「ひっ……ご……ごめん……なさい」

「そんな言葉は、意味をなさない」


 ファレンが手を振り上げ、掌を天に翳すとそこに紫紺の槍が現れる。


「ファレン?! 嘘でしょ?!」


 リズの驚愕に満ちた叫びはユウとルカの元にも届いたが、ユウ達が気づいた時、握り締められた槍は勢いよく子供へと振り下ろされていた。


 ――ギィィィィンッ!!


「何故邪魔をする?」


 激しく響く金属音の残響の中、呟かれたファレンの声は怒気を孕んでいる。

 振り下ろされた槍は、リズの剣によって押し止められていた。


「何故ですって?! あなた正気?! 子供なのよ?!」


 リズがファレンを糾弾したくなるのも当たり前だ。

 受け止めたリズにしかわからないかもしれなあが、振り下ろされた槍は間違いなくリズの背後にいる子供を殺す勢いで振り下ろされており、その力は今もなお緩められることはなかった。


「大人も子供も関係ない。奪う奴からは俺が奪う。それが俺の――っ?!」


 弾かれる槍。そして同時にリズが平手でファレンの頬を打つ。

 叩かれたことを認識するまで、ファレンは一拍の時間を必要とした。


 自分の槍がリズによって弾かれたこと。

 その瞬間にリズによって平手打ちされたこと。


 ファレンは今まで奪うという行為を遂行できなかったことはなかった。

 そんな自分がいとも容易く目の前の女剣士に阻止されている。


「お前……何なんだよ」

「叩いてごめんなさい。でも、少し冷静になって欲しいわ」


 リズの瞳は懇願の想いで揺れていた。

 ここでファレンがまた槍を振り翳せば、リズの瞳には間違いなく涙が浮かぶことだろう。


「ちっ」


 ファレンは槍をおさめると、踵を返して砦の外へと向かっていく。


「ファレン!! どこ行くの?!」

「頭を冷やせと言ったのはお前だろ」


 リズの顔も見ずにそう吐き捨てると、ファレンは砦の門をくぐり抜けていった。

 その姿を怪訝な表情で見送りながら、ユウとルカもリズの元へと合流する。


「大丈夫? 何があったの?」

「……子供の喧嘩よ」

「子供の喧嘩って……それでリズが剣を抜いてビンタもするなんて――」

「大丈夫だから、気にしないで」


 リズの様子は明らかにおかしかった。しかし、リズにそう言われてしまえばユウもそれ以上は問い質せない。

 剣を鞘に戻し、泣いている子供達をあやすリズの隣に黙って座る。

 子供達を元気付けようと実現リアライズで霧を出すと、子供達の頭上に虹を作った。

 泣いている子供達は一斉に歓声をあげて笑顔に包まれる。

 その様子にリズの表情も明るくなる。


「ありがとう、ユウ」

「僕もリズの笑顔が見たかったからさ」

「ふふっ、なにそれ」

「はぁー熱い熱い。エリー、オイラ達はラッキーに乗って風を感じに行こうか」


 二人のやり取りを見て顔を手で扇ぎながらルカがエリーをデートに誘う。

 ラッキーというのはルカに懐いている駆竜である。たまたまユウ達が通りがかったことで命が助かったラッキーな竜だという安直な理由による命名だった。

 しかし、ラッキーは名前をつけられたことが嬉しかったのか今もルカの呟きを耳にするなりルカの傍へと駆け寄って来ては控えていた。


 その従順さ、そしてユウとリズをたまには二人にしてあげようという想いも相まって、エリーはルカの誘いに乗ることにした。しかしルカを調子付かせないために、精一杯、嫌そうな顔で返事をする。


「……しょうがない。断ったらここまで来たラッキーが可哀想だし――」

「ひゃぁぁぁっほぉぉぉぉいっ!」


 エリーの努力は、全くもって意味がなかった。







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