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51.見極めの腕試し

「いつでもいいぞ」

「よっし!ユウ兄達でも勝てなかったっていうオッチャンに勝ってみせるよ!」

 元気よく飛び跳ね、屈伸するルカ。そのルカにオッチャンと呼ばれてコメカミに血管をピキピキとさせているネロ。ご機嫌は斜めのようだ。


 ここは冒険者ギルドの闘技場。ユウ達がいつもネロとシャルの訓練を受けるときに使用する闘技場だ。イベントがある時は訓練場として使うことはできないが、イベントもそう頻繁にあるわけではなく、イベントがない時は冒険者の訓練場として開放されている。しかし、使う者はほとんどいない。冒険者は基本的にすぐに実戦を望む性分だ。訓練場に来ずとも街を出ればそこには広大な実戦場がある。無理をしなければ実戦場が訓練場となり得るのだ。敢えてギルドの訓練場で自分達の戦い方を披露する者達はいない。そのため今もユウ達しかおらず、訓練場は貸切状態となっている。


 ネロは冒険者時代の漆黒の鎧に身を包み、その手には同様に漆黒の剣を携えていた。ルカの戦闘装束もいつものように神竜の鱗鎧に神竜の爪の手甲と甲懸、そしてイザベラの魔法道具の額当てだ。

 今日からネロとシャルの訓練に初参加のルカ。そのルカの戦闘力を知るため、ネロがルカと対峙することになった。ネロからすればルカの見極めであり、ルカからすればユウもリズも敵わなかったネロに対しての腕試しだった。


「竜族だから強いと思うのだけど、あなた達から見てもあの子は強いの? 例の一件から一撃の強さはわかっているつもりだけど」

 遠目に見ているユウ達とシャル。シャルが未知の戦士を前に当然の疑問をユウ達にぶつける。例の一件とは女性を保護するために暴漢の頭部を一撃で爆散させた事件のことである。

「強いです。拳闘士ストライカーって言っても剣には敵わない職業だろうと思ってましたが、ルカの身のこなしを見たら僕の考えが甘かったんだと思い直しましたよ」

「そう、それは楽しみね」

 遺跡で次から次に骸骨や魔狼を蹴散らしていく八面六臂の活躍は爽快だった。あの素早い連撃はネロにも一矢報いることができる気がした。

「行くよ!」

 ルカがどこまで通じるのかと期待に胸を弾ませていると、ルカの掛け声が空に響き、戦いが始まった。


 ルカの武器はその拳。ネロとの距離を縮めるために一気に駆ける。対するネロは向かってくるルカに半身で構え、駆けるルカに剣を突き出す。ルカに剣の切っ先が触れるか触れないかのところで、ルカが上下左右のどこかに動くかと思いきや、ルカの選択はそのまま前に歩を進めることだった。その行動は見ている者全ての予想を裏切る選択だった。


 ――キンッ――


 切っ先はルカの額当てを突き、甲高い金属音を響かせる。同時にそこを支点にルカは振り子のように、身体を捻りながらネロの伸び切った腕を蹴り上げようとする。

 見ている者の誰もが流れるようなルカの予想外の動きに感嘆の声を洩らす。しかし、ネロもまた熟練の戦士だ。戦いの中で生まれる予想外の動きなど日常茶飯事。その蹴りの出足を即座に足の裏で踏み止めるとネロは逆にルカの蹴りの威力を利用して後方へと飛び退く。空中にいる無防備な瞬間をルカも逃しはしない。即座に地を蹴りネロの腹へと渾身の拳を突き出す。

 ネロはその拳を剣でいなし、突き出された腕の外側から剣を振り下ろす。ルカの背に一撃が入ると思われた瞬間、ルカは身体を反転させ、両腕を交差して剣を受け止めた。しかし、その衝撃の逃げ場はなく、そのまま地面へと叩きつけられる。

 砂埃の舞う中、ネロが地に降り立った瞬間、砂埃から早くも態勢を整えたルカが飛び出すが、その動きを読んでいたネロが足を前に突き出しており、ルカは顔面にネロの蹴りをもろに喰らうことになった。いや、むしろ突き出していた足に自ら当たりに行ったというのが正しいかもしれない。


「痛ってぇぇぇぇ!!」

 ルカが顔を押さえながら地面を転げ回ると、ネロは漆黒の剣を鞘へと戻し、空になった手を握ったり開いたりを繰り返している。

「悪くない。度胸と思い切りのよさ、そして一撃の力強さ、並みの拳闘士ストライカーじゃお前にゃ敵わんだろうな」

 ネロから褒め言葉が掛けられ、ルカは痛みを堪えながらも立ち上がる。

「くっそぉー! オッチャンにまともな一撃入れたかったよ!」

「まぁ頑張れ。上には上がいるってわかったら、励みになるだろ」

「次は絶対そのドヤ顔を歪ませてみせるからね! 覚えてろー!」


 聞き覚えのある雑魚役のようなセリフを吐き捨て、ルカはユウ達の元へ近づいてくる。すると、ユウ達の傍にいたシャルに向かって人差し指を突き出した。

「オイラと勝負してよ! オッチャンの次はオバ――」

 ルカはそこで言葉を詰まらせる。目の前のシャルから放たれる威圧感。全身が縮み上がる程のその冷たさに、ルカは触れてはいけない逆鱗に触れてしまったと恐怖する。

「どうしたの? 続き、何て言おうとしたのかしら? ほら、言ってごらんなさい」

 笑顔のシャル。しかしその貼り付けたような笑顔にいつものシャルの優しさは見えない。その背中に『ゴゴゴッ』という効果音が見えてきそうな圧力に、ルカは片膝を地につき最敬礼の姿勢で叫ぶ。


「何でもないですお姉様!! 今日は疲れたから帰らせていただきます!!」


 見極めの腕試しは、何とか血を見ずに終えることが出来たのだった。






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