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50.引き継ぎと、お土産と

魔力源のある間に辿り着いたユウ達。

古代語が刻まれた台座を前に、ネロ達を連れてきてよかったと心底安堵したのだった。

「無事に終わったのか、ネロ」

「俺がここにいるっていうのが答えだろう?」

「ふっ、そうだな。お前は何かあったとしても逃げ帰るような奴ではないからな」

 

 魔法都市の入り口。森の木々に囲まれ、ユウ達は本隊の到着を休憩しつつ待っていた。魔力源の起動は無事に完了している。

 オベリスクの地下でネロが魔力源となる装置のスイッチと思われるレバーを動かし、台座の古代語が書かれていた部分に手をかざして魔力を注入すると魔力源は淡い光を帯びた。魔力源はレバースイッチだけでは起動せず、動かすためには初動魔力が必要だった。

 魔力源が起動するとオベリスクの地下は光に満たされ、エリーの星魔法は不要になる。階段を昇り広場に戻れば、遺跡全体は昼間のように明るくなっていた。遺跡内にはところどころに魔法灯が設置されており、都市に溢れるその明かりからも魔力源が正常に起動したことが見て取れた。


 そして本隊を迎えるべく遺跡の入り口に戻り、今、その本隊が合流したというところ。ネロに話しかけているのはネロが冒険者達に対して、従うようにと指示した騎士団の副団長のようだ。2人の話ぶりからも、ネロと副団長の関係はそれなりに長いように見えた。

「あなた方が天翔ける竜 (スカイドラゴン) の皆様でしょうか」

 副団長はユウ達を一瞥すると馬から降りる。ユウ達が返事をする前にネロがドヤ顔で相槌を打つ。

「あぁ、そうだよ。挨拶しとけ、将来大物だぞこいつらは」

「今やすでに大物でしょう。初めまして、天翔ける竜 (スカイドラゴン)のみなさん。お噂はかねがね。私は騎士団で副団長を務めております、ギルバート・マイヤーと申します。ギルで構いませんので、以後お見知り置きを」

 品格ある立ち振る舞いで、ギルはユウ達一人一人に握手を求める。

 ギルの身につける甲冑はリズの鎧よりも更に全身をくまなく覆う重厚なものであり、まさに騎士と呼ばれるに相応しい品格のある堅牢な甲冑だ。その甲冑を身に纏いながらも鈍らない身のこなしからギルが精錬された騎士であることがわかる。加えて紫紺の髪に鋭い眼光を持つ彼の顔立ちと上品な立ち振る舞いは世の女性達をさぞかし虜にするものだろうと思われた。同じく魅力的な大人と言えるネロがワイルド系であれば、ギルはジェントル系だ。どちらかと言えば、その上品な雰囲気はイーストエンドの密偵ウィルを彷彿とさせる。イーストエンドで世話になった金髪イケメンを思い出しながらユウはギルと挨拶を交わし、その他の面々も一人一人、握手をしながら自己紹介をしていた。

「ちゃんとシルフィを留守番させられたんだな」

 ネロが笑みを浮かべながらギルに声を掛けると、ギルは苦笑いと苦情でそれに応える。

「大変だったよ。シルフィード様は自分が遺跡に行くんだって駄々をこねるし、その時にはすでにお前はここに向かって出発してるし……お前は何でもかんでも私に丸投げしすぎだ」

「お前の他にあと2人も副団長がいるからいいじゃないか、こっちは副代表は俺1人だけだぞ」

「シルフィード様に忠実な彼女と、戦闘狂の彼がまともに動くと思うかい?」

「それでもあんな人達の中で上手く動いちゃうのが、あなたのすごいところよね、ギル」

 どうやらシルフィードというのは団長で、その他副団長はギルを含めて3人いるらしい。真っ当な人柄のシャルに『あんな人達』と言わしめる団長、副団長の人柄は相当濃いものなのだろう。そんな人達の中でギルはバランス感覚ある副団長のようだった。

「君までそんなこと言わないでくれよ」

 シャルに褒められた照れ隠しか、美しい紫紺の髪をかきあげながらギルは溜め息と共に大地に視線を向ける。会話から察するにこのギルという副団長はバランス感覚がある故に相当な苦労人のようだった。その苦労人の溜め息もいつものことなのか、ネロは労う素振りもなく出発しようと立ち上がる。

「よし、じゃあ後は任せたぞギル。落ち着いたら呼んでくれ。またこいつら連れて来るから」

「はいはい、任されたよ」

 諦めたように笑い、ギルは素直にネロから引き継いだ自身の役割を全うすべく、後続の部隊に対して遺跡復興に向けた最初の指示を飛ばす。

 その様子を横目に、ネロとシャル、そしてユウ達はギフティアへと馬を走らせた。




 ◇◇◇




「ほ、本当にいいんですか?!」


 ギフティアに戻りネロとシャルと別れると、その足でユウ達は魔法道具屋ランドの店へと向かった。そして戦利品である数々の魔法道具をランドへと引き渡す。その中には、もちろんイザベラの魔法道具もあった。ネロの言った通り、ランドはその名前を目にした途端、驚愕と歓喜がぜとなったような表情を浮かべて叫んだのだ。

「約束でしたから。やっとお渡しできるものができて僕達も安心しているんですよ」

「それにしても……イザベラ・フェルトバッハの魔法道具だなんて――」

「うわぁ〜ランちゃん、すごいねぇ〜!! これだけあったらコレクションじゃなくて、ちゃんと売り物にできるね!!」

 ランドの隣では奥方のメリッサもいる。明るく元気なメリッサは今日も変わらずその活発な笑顔を振りまいていた。

「他のものは別にして、イザベラの魔法道具はそう簡単に売りたくないよ」

「もう、またそんなこと言って! 生活できなくなりそうだったらそのイザベラさんっていう人の魔法道具もちゃんと売るんだからね!」

「そうならないように頑張ります……」

 ランドも魔法道具には目がないようで貴重な魔法道具はどうやら彼のコレクションとなるようだ。品揃えはギフティア一を自負するランドの店も、その大半はコレクションなのかもしれない。

「ふふっ。ランちゃんのことだから大丈夫って信じてるけどね。それにしてもユウ君達って本当にすごい冒険者なんだね!!」

「コラ、メリッサ。ユウ君だなんて失礼だよ」

「あ、いえ、構いませんよ。気兼ねなく接していただいた方が僕達も気楽ですから」

 ランドに窘められてバツが悪そうに舌を出していたメリッサの顔が再び笑顔に包まれる。

「ほらー! ユウ君とリッちゃんがいいって言ってるんだからいいのー!」

 リッちゃんとはこの流れからするとリズのことを指しているのだろう。そんなリズはと言うと、ルカにリズ姉と呼ばれた時のように鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたが、メリッサの笑顔にあてられ、すぐにその頰が綻ぶ。

「本当、申し訳ない」

「いえ、いいですいいです、私もこれはこれで新鮮ですし……。メリッサさん、じゃあエリーのことは何て?」

 店の中をトコトコと歩いては魔法道具を物色している竜族の美少女エリーのことを、メリッサは何と呼ぶのだろうか。リズの疑問は、同時にユウにも湧き出たものだった。

「エリカ様はエリカ様よー! 竜族なんだから、私達なんかよりずっと大先輩なんだよ!」

 そこはちゃんと年功序列なんだな、などとユウが思っていると、2人の視線は自ずとルカ向く。メリッサが顎に人差し指を当てながら首を傾げた。

「そちらのボクは、初めましてよね?」

「オイラはルカだよ、よろしく。エリーと同じ竜族なんだ」

 ルカがフードを落とし、その美しい淡青の中にある二本の角を見せると、メリッサは途端に狼狽え始めた。

「ひゃあっ! ごめんなさいっ! 私、何てことを! ルカ様、大変失礼しましたっ!」

「あ、別にいいよ。 オイラ、様とか呼ばれ慣れてないからむず痒いよ」

「じゃあこれから慣れないといけませんね! 私はルカ様って呼びますから、私が慣れさせて差し上げますねっ!」

「いや、え、えと……」

「呼ばせてください!」

「は、はい!」

 ゴーイングマイウェイのメリッサの勢いにルカも押され気味である。しかし、決して嫌な感じではない。そのメリッサの態度や物言いが、何の裏表のない真っ直ぐな言葉であることがわかるからだ。

 ユウ達は顔を見合わせると、自然に笑みが溢れていた。ムードメーカーとは、まさにメリッサのような人のことなのだろう。日々、その太陽のような明るさに照らされるランドはきっと、幸せものに違いない。

「素敵な奥様ですね」

 妻の傍若無人な振る舞いに頭を抱えているように見えたランドに向かってリズは囁く。その言葉に、ランドは気まずそうに恥ずかしそうに、しかししっかりと答えた。

「でしょう? 実は私も、そう思っています。メリッサは本当に、私にとって最高に可愛い妻なんですよ」

 照れながらも惚気るその姿は、下手な謙遜よりもとても好感が持てた。約束を果たしに魔法道具を届けに来てみれば、ユウ達もまた、何とも微笑ましいラブラブな夫婦の愛をその目に届けられたのだった。




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