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44.護るために

「ちょっと、複雑な気分ね」


 ルカをエリーに任せ部屋に戻ってきたリズとユウは、悪意なき無垢の残酷さにその胸を痛めていた。


「そうだね。あの幼さで、何でそうなっちゃったんだろう」


「幼く見えても、竜族だからきっと私達よりも年上よ? 長い月日の中で、何かあったのかもしれない」


「そっか……そうだね。エリーがルカと話すことで、何か道が拓ければいいけど」


 リズはベッドに腰を下ろす。美しい金髪がその振動に揺られ、部屋の明かりを反射して煌めく。その光景に見惚れながらユウはベッドの脇の椅子に腰掛ける。ユウのゴワついた短い銀髪はリズの金髪とは違い、何の揺らぎもなくその仕草を受け入れている。リズは枕元の水差しでグラスに水を注ぎユウに渡しながら、その円らな瞳を曇らせていた。


「どうするの?」


「どうするも何も、ネロさんのところに連れて行くしかないよね」


「その後は?」


「……わからない。でも、ルカの考え方がエリーとの会話で変わるなら、どうにかしてあげたいとは思う。エリーも決してルカを悪くは思ってないみたいだし、幼馴染なら尚更ひどい扱いはされたくないだろうしね」


「そうね……エリー、楽しそうだった」


 無口無表情なエリーだが、リズのその言葉の通り、確かに普段のエリーとは違っており、その様子は明るく見えたのは間違いない。そのエリーのささやかな変化を、リズもユウも見逃してはいなかった。その変化は今まで旅の中で見てきたエリーにはない一面であり、そのエリーの一面を大切にしてあげたいと思う。

 エリーを想い、悲しそうな表情をするリズに居たたまれなくなり、ユウはベッドに座るリズの隣に移動するとその肩を抱き締めた。リズはユウのその行動に一瞬驚いたようだったが、頰を赤らめながらそのままユウへ身体を預ける。


「エリーが悲しむ結末には、したくない」


「そうね。今は、2人が話し終えるのを待ちましょう……その間、もう少しだけこのままでお願い」


「う、うん、それはもちろん、喜んで」


 ユウ自身、自然とリズを抱き寄せられたことが驚きだったが、これでリズの心が少しでも癒されるならいくらでもこうしていようと思う。

 リズに辛い想いはさせたくない。同様に、大事な仲間であるエリーにも辛い想いはさせたくない。リズのサラサラな髪を撫でながら、ユウは静かに、ルカを守ることを決意した。





 ◇◇◇




 ――ガチャ――


 突然、扉が開き、エリーが顔を覗かせる。エリーの目には、仲睦まじく身体を寄せ合っていたリズとユウが即座に身体を離す姿が見て取れた。


「あ、私、ルカのところ行こうか?」


「ち、違うのよ、エリー、おいで。話、聞かせて?」


 何が違うのかわからなかったが、リズは掌をパタパタ左右に振りながらその身を正している。ユウもユウでそそくさと椅子へと座り直し、頭を掻きながらエリーに尋ねた。


「ル、ルカは向こうの部屋?」


「うん、待っててって言ってある」


 その2人の様子に今更もう突っ込む気のしないエリーは、トコトコとベッドに近寄りリズの隣に軽く飛び乗ると、ちょこんと座る。リズはそのエリーの頭を無言で抱き寄せる。リズの抱擁に包まれながら、エリーはポツリポツリと話し始めた。


「私のせいだった」


「「え?」」


「私が昔、ルカに言ったこと、ルカはそれを守っているだけみたい」


「エリーは、何て言ったの?」


「弱い者いじめする奴は叩きのめせって」


 その言葉からエリーとルカの間に『何か』があったことは明白であったが、エリーがその背景を話さないことからもエリー、もしくはルカの名誉に関わるところなのかもしれない。


「でも、エリーは殺せなんて言ってないんでしょ? 叩き潰せ、とも」


 リズがエリーの頭を撫でながら、ゆっくりとルカの真意を確認する。しかし、リズの言葉にエリーは頭を横に振る。


「言ってないけど、それをルカがどう受け取るか、よく考えればよかった」


「その言葉の真意を、訂正はしたんだよね?」


 共に過ごしてきたエリーのことなのでそこは間違いないとは思いながらもユウはエリーに確かめる。


「もちろん、した」


「で、何だって?」


「わかってはくれた。反省もしてる。でも、だいぶショックだったみたい。私の言うことを勘違いして受け止めて、人の命を奪ったことがね。その相手が人でなしだったとしても、ルカは基本的に優しいから」


 今まで自分の行動を支え続けてきた言葉の意味が、信じてきた言葉の意味が異なる意味であったことを知れば、流石にその衝撃は大きいことだろう。しかもその言葉は、恐らくルカにとって愛する人の言葉だ。その言葉を間違って受け止めていたことは、自分自身許せないことだろうということはユウには容易に想像できた。そしてルカが決して感覚のズレた人物ではないこともわかり、安堵する。


「ちょっと、ルカのところ行ってくるね」


「なら私も――」


 リズが立ち上がろうとしたがユウは手を宙空に差し出してその行動を制した。ユウのその行動にリズが怪訝な表情を浮かべる。


「男同士の会話ってやつだから」


「……わかったわ。エリーと待ってる」


「ありがと」


 18歳を少女と呼んでいいかは置いておいて、美少女と美幼女の黄金ペアを部屋に残し、ユウはルカのいる部屋へと向かった。




 ◇◇◇




「ユウだけど、いいかい?」


 ノックをし、扉を少し開けてルカに入室の許可を得る。ルカの元気のないか細い許可の呟きを聞き、ユウは部屋の中へと入っていった。ベッドに腰かけ、頭を抱えて縮こまっているルカがいた。


「一人できたの?」


 部屋に入るユウを見ると、ルカは先ほどの明るい様子が嘘のように覇気のない表情で問う。


「うん、僕だけだよ」


「どうしたの?」


「少し、話をしたいなって思ってね」


「バカにしにきたの? 好きな(ヒト)の考えも汲めないオイラを」


「まさか。その逆だよ」


「逆?」


「うん。ルカは、どれだけの期間、旅をしていたの? やっと見つけたって言ってたし、エリーを探してたんでしょ?」


「そうだよ。里を出られる年になってからだから、6年くらいずっと探していたよ」


 ルカの容姿はエリーに比べると少しだけ大人びて見える。竜族の里を出るには年齢制限があることがルカの発言からもわかったが、里からいなくなったエリーを追って里を出たということを加味すればエリーの方が年上だ。そう考えると、竜族は男の方が外見の成長は早いのかもしれない。しかし、そうは言ってもまだ外見年齢が少年の域を出ない彼が一人、エリーを探して6年も旅をするというのは並大抵のことではなかったのではないだろうか。そして、そんな彼を支え続けてきたのは、エリーへの想いだったのだ。


「ずっとエリーを探していて、その間にエリーの言葉を信じて困っている人を助けていたんでしょ? 誇るべきことだと、僕は思うよ」


「それが間違っていたのに?」


「確かに命を奪ってしまったことは、やり過ぎだったと思う。他にも手段はあったと思うから」


「――」


「でもね、僕は一人の人を想い続ける気持ちは、とても尊いものだと思っている。思っていても、中々できないとも思っている。それをルカは実践している。実践し続けている。それは、尊敬に値するものだと僕は思うよ」


 ルカの肩が、微かに震えている。


「でも、オイラは間違って――」


「ルカのエリーを想う気持ちに、嘘偽りはないんでしょ?」


「ないよ! 神竜に誓う! オイラはエリーが大好きだよ!」


 ルカがエリーと再会した時の最初の喜びの様子、エリーに真意を聞いたあとの落胆ぶり。そして神竜に誓うと叫ぶ決意の眼に見え隠れする潤いからも、根は真っ直ぐないいコだということがよくわかる。


「それなら、これから間違わなければいい」


「でも……オイラ、罪人なんでしょ? どうなるの?」


「大丈夫。心配しなくていい。僕に任せて」


 決して勝算のある話ではない。ルカの罪を免除してもらえるだけのこの世界の知識はユウにはない。ネロも最終的に犯人をどうするかと悩んでいたこともあったため、屁理屈をこねるだけこねてみるだけだ。任せろとは言ったものの正直心配しかない。しかし、心が弱っているルカを前にそんな態度は見せられない。堂々と胸を張り、ユウは笑顔でルカに答えた。そんなユウを見て、ルカの視線は尊敬の眼差しとなり、ポツリと呟く。


「兄ぃ……」


 年齢が上であるはずのルカがユウを慕う。その構図にむずがゆい違和感を覚えながら、ユウはネロを説得するだけの理屈を、いや、屁理屈を、一晩中考えたのだった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。


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@Posi_Nega_TT



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